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大地の建築術 自然と共生する叡智 第11回 ウズベキスタン・サマルカンド,ブハラ,ヒヴァ—砂漠の中のオアシス都市

写真:サマルカンド,レギスタン広場。最初に左のウルグベク・メドレセが1420年頃に建てられ,約200年後右側のシェルドル・メドレセが1636年に,正面のティラカリ・メドレセが1660年に完成

サマルカンド,レギスタン広場。最初に左のウルグベク・メドレセが1420年頃に建てられ,約200年後右側のシェルドル・メドレセが1636年に,正面のティラカリ・メドレセが1660年に完成

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中央アジアで栄えたイスラム文化

中央アジアは,もともとイラン系のソグド人が商業活動をしていたといわれるが,6世紀頃にトルコ系民族の突厥(トゥルク)が,モンゴル高原に至るまで支配下に収めた。それ以降,いろいろな国々が興亡する間にイスラム文化がこの地域に浸透し,モンゴル帝国の統治下にあってもイスラム化は進んだ。その後も支配する国がめまぐるしく代わったが,広大な砂漠地帯に点在するオアシスは都市として繁栄を遂げてきた。

ここでは現在のウズベキスタンの地に古代から栄えた3つのオアシス都市,サマルカンド,ブハラ,ヒヴァを取り上げたい。これらに共通するのは,イスラム様式に基づいたモスクやメドレセ(神学校),祈りの時間を知らせるために建てられたミナレットと呼ばれる塔,そして広場などを有することである。

地図

都市に開かれた美しい広場:サマルカンド

「青の都」といわれるサマルカンドは,ソグド人の都市国家として栄えてきた。その後イスラムの各王朝に征服され,13世紀初めにモンゴル軍の破壊によって荒廃したが,14世紀にこの地から国を興したティムールが,どこにもない美しい街をつくろうと,もとの都のすぐ近くに街を再建し蘇った。中でも目を見張るのは,3つのメドレセに囲まれたレギスタン広場である。

初めてこの広場を見たとき,イスファハン(イラン)にあるイマーム広場の光景が思い浮かんだ。けれどもレギスタン広場の美しさは,イスラム建築を代表する著名なイマーム広場を凌駕するほどだ。3つのメドレセは外壁,中庭とも美しいタイルで覆われ,建築的な完成度が非常に高い。それぞれの正面にはイワンと呼ばれるイスラム特有の玄関ホールがポインテッドアーチ状に切り取られている。

広場に向き合って建つ3つのイワンとその両側につくられた円筒形ミナレットは全て高さが揃っていて,広場の大きさとのプロポーションも絶妙だ。広場の内外はとくに境界に城壁もなく,高低差はほとんどない。都市に開かれた広場は,圧倒的な存在感を示している。

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写真:レギスタン広場のウルグベク・メドレセ

レギスタン広場のウルグベク・メドレセ。イワンとミナレットのプロポーションが素晴らしい

写真:レギスタン広場,シェルドル・メドレセのイワンに施された装飾

レギスタン広場,シェルドル・メドレセのイワンに施された装飾。偶像崇拝を否定するイスラム教にあって,動物や人の顔が描かれているのが珍しい

多くのイスラム建築が混在する:ブハラ

ブハラは中央アジアのみならずイスラム世界全体の文化的中心地として繁栄を誇ったが,1220年,モンゴル軍によって破壊されてしまう。

しかし,ティムールを滅ぼした16世紀のシャイバーニー朝が国を興すと,ブハラが都となり,再開発が推進され,モスクやメドレセ,公衆浴場,商店街が建設された。それらの中で威容を誇るのは,街のシンボルともいえる高さ46mほどのカラーン・ミナレットである。

またブハラには,バザールを丸屋根で覆った名建築タキがある。人々がひっきりなしに往来する商業地区のプロムナードの交差点にあるために,四方に入口が設けられ中央にドームを冠する。この地域に一般的な日干し煉瓦でつくられ,地平面の八角形が上部のドームの円に収束していく様は,イスラム幾何学の真骨頂である。

写真:ブハラのシンボル,カラーン・ミナレット

ブハラのシンボル,カラーン・ミナレット。高さ約46m,14層からなり,それぞれ違う煉瓦で装飾されている。塔の直径は地上面で約9m

写真:タキ・バザール中央のドーム

タキ・バザール中央のドーム。天井を見上げる

写真:ブハラ,タキ・バザール

ブハラ,タキ・バザール。商業地区の交差点に位置し,四方に入口が設けられている。中央にドーム状の屋根をもつ

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二重城壁に囲まれた聖都:ヒヴァ

ヒヴァは他の都市と同様に,古くからのオアシス都市であったが,歴史の表舞台に登場するのは17世紀,この地域を治めたウルゲンチ・ハン国の新都に選定されたことがきっかけである。二重の城壁で囲われた南北約650m,東西約400mの旧市街,イチャン・カラには,モスク,メドレセ,霊廟など多くの歴史的建造物と美しい街並みが残され,聖都と呼ばれている。

1700年代半ばにはペルシャ・アフシャール朝の攻撃で多くの建物が破壊されたが,再建された。日干し煉瓦の建築群にあって,所々に施されたタイルの青さが目を引く。街路も中庭も建築も内部空間も素晴らしい。1969年に全体が博物館都市に指定され,1990年にはユネスコの世界文化遺産に登録された。

写真:10世紀に建てられた多柱式木造建築ジュマ・モスクの内部

10世紀に建てられた多柱式木造建築ジュマ・モスクの内部

その中でもジュマ・モスクとイスラム・ホジャ・ミナレットが秀逸だ。ジュマ・モスクはイスラムでは珍しい多柱式の木造建築で,200本以上の木の柱が並ぶ。イスラム・ホジャ・ミナレットは45mとヒヴァで一番高く,表面が帯状にタイルで覆われ,独特の景観をつくり出している。

中央アジアで最も規模の大きいムハンマド・アミン・ハン・メドレセの隣に建ち,街の中でも威容を誇る未完成の大ミナレットは,プロポーションがずんぐりした感じに見える。このカルタ・ミナルと呼ばれるミナレットは,当初は100m以上の高さが計画されていたが,建設を進めたムハンマド・アミン・ハンがペルシャとの戦いで死んだため,高さ26mで中断されたままになっている。

写真:ヒヴァ,旧市街の日干し煉瓦の建物群を一望する

ヒヴァ,旧市街の日干し煉瓦の建物群を一望する。中央の青いドームが,パフラヴァン・マフムド廟。奥にムハンマド・アミン・ハン・メドレセと円錐台のミナレットのカルタ・ミナル。日干し煉瓦のドーム屋根が多数見られる

写真:ヒヴァでいちばん高い(45m)イスラム・ホジャ・ミナレット

ヒヴァでいちばん高い(45m)イスラム・ホジャ・ミナレット。黄土色と青・白のタイルが帯状に張られた個性的な姿は,日干し煉瓦と青いタイルの建物が多いヒヴァの街の中でひときわ目を引く

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写真:建設が中断されたままのカルタ・ミナル

建設が中断されたままのカルタ・ミナル

本家をしのぐイスラム建築

これらの都市は,近代の大きな開発による破壊をまぬがれ,往時の面影を現在でもしのぶことができる。ウズベキスタンは1991年の独立までソビエト連邦に属し,西側には開かれていなかったため,他国から訪れることが難しかった。

私にとってもそれまであまりなじみのない国であったが,いざそのオアシスの街を訪ねてみたら,そこには驚くほど完成度の高い瀟洒なイスラムの建築や街並みが息づいていた。目も眩むような美しい都市空間と建造物に感動の連続であった。

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古市流 地球の歩きかた

ウズベキスタン共和国国旗
Republic of Uzbekistan

面積:44万7,400km2(日本の約1.2倍)
人口:3,190万人(2017年)
首都:タシケント
公用語のウズベク語は,文法や語順が日本語と似ているとのこと。
ロシア語も広く使われる。大陸性気候のため年間を通して乾燥していて,
夏は酷暑,冬は厳寒である。

ブハラ料理

豊かな歴史や文化がある所には必ずおいしい伝統料理がある。古都ブハラ料理も例にもれず,アラブの炊き込み料理や中国の麺料理,インドのナンなどが組み合わされたものがあり,かなりおいしい。名物はブハラ版シシケバブ(肉の串焼き)といえるシャシリクとナン料理である。

写真:中央はナン,左下がプロフという肉や玉ねぎなどの炊き込みご飯。右上がシャシリク,その下がラグマン(中央アジア風うどん)

中央はナン,左下がプロフという肉や玉ねぎなどの炊き込みご飯。右上がシャシリク,その下がラグマン(中央アジア風うどん)

ウズベキスタン美人

古来この地域には多くの民族が往来したため,西洋,アラブ圏と東方圏の民族間で多くの美女が生まれた。ティムールなどの支配者も,支配した地域から多くの美女を連れ帰ったといわれている。そのためなのか,ウズベキスタンを歩いていると,はっとするような彫りの深い美女を多く見かけるのだ。

写真:美女たちが並んで記念撮影

美女たちが並んで記念撮影

古市徹雄(ふるいち・てつお)
建築家,都市計画家,元千葉工業大学教授。1948年生まれ。早稲田大学大学院修了後,丹下健三・都市・建築設計研究所に11年勤務。ナイジェリア新首都計画をはじめ,多くの海外作品や東京都庁舎を担当。1988年古市徹雄都市建築研究所設立後,公共建築を中心に設計活動を展開。2001~13年千葉工業大学教授を務め,ブータン,シリア調査などを行う。著書に『風・光・水・地・神のデザイン―世界の風土に叡知を求めて』(彰国社,2004年)『世界遺産の建築を見よう』(岩波ジュニア新書,2007年)ほか。

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