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Part 3 座談会「自動化が拓く未来の土木現場」

土木現場の自動化を進める4人のリーダーが集まった。
これまでの自動化技術を振り返りながら,自動化が拓く未来を語る。

出席者

写真:三浦 悟

技術研究所 プリンシパルリサーチャー
三浦 悟 (みうら・さとる)

1979年入社。機械部に配属され,1984年から技術研究所。以来,研究・技術開発部門において,光・超音波応用,画像処理,精密写真測量などの計測・モニタリング技術分野および,1994年の雲仙普賢岳復興工事に導入した無人化施工技術をはじめ,情報化施工から自動化施工に至る機械・装置の制御技術分野の研究開発に従事。2004年に技術研究所先端・メカトロニクスグループ長,主席研究員を経て,2014年1月から現職。2017年4月から機械部自動化施工推進室長を兼務。

写真:植木睦央

機械部 部長
植木睦央 (うえき・ちかお)

1983年入社。山陰線保津峡工区(山岳トンネル・橋梁),川崎縦貫MMST(シールドトンネル),小丸川発電所上部調整池(ダム)などに従事。小丸川発電所では,3次元マシンコントロールのブルドーザ,GNSSによるワンマン測量などを導入し,重機土工のICT化の基礎を作った。機械部でアルジェリア東西高速道路のICT施工,骨材製造の計画を担当。2013年から東京建築支店の機材部長を務めた後,現在は機械部で施工の自動化などの次世代建設生産システムの構築に取り組んでいる。

写真:林 健二

土木管理本部 土木工務部ダム統括部長
林 健二 (はやし・けんじ)

1984年入社。横浜支店に配属され,1987年から宮ケ瀬ダムに従事する。その後,土木設計本部において3D-CAD(3D-DAM-CAD)を用いたダムの計画業務を担当する。以来,滝沢ダム,嘉瀬川ダムと一貫して大型コンクリートダム現場に従事し,2013年に五ケ山ダムの所長として自動振動ローラを初めてコンクリートダムのRCD工法に適用した。現在は,土木管理本部において全国のダム現場を統括するとともに,成瀬ダムの全面自動化施工実現に向け取り組んでいる。

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写真:青栁隆浩

土木管理本部 土木工務部トンネル統括部長
青栁隆浩 (あおやぎ・たかひろ)

1985年入社。土木設計本部に配属され,原子力発電所の耐震設計や地盤,岩盤関係の設計業務を行う。1993年米国MITへ留学。帰国後,川崎縦貫MMSTの現場を経て土木設計本部へ。山岳トンネルグループを立ち上げ,設計基盤を構築する。その後,アルジェリア東西高速道路キャンプ長や北海道新幹線昆布トンネル所長など国内外の山岳トンネル現場に従事。その間,土木設計本部の地下空間設計部長も務める。2016年6月から現職。トンネル現場の統括から自動化技術の開発まで幅広い業務を担う。

三浦 建設生産性の向上を紐解いていくと,1990年代に建設省(当時)が推進した建設CALS/ECによって入札や労務などの情報の電子化が進んだことが一つの契機だったと思います。それが現在の「i-Construction」につながっています。ただ,これまでは,施工管理や設計業務の改善,データの有効活用が主なねらいだったと思います。本日のテーマの自動化に関しては,1980年代後半に建設各社がこぞって進めた建設の自動化・ロボット開発が一つの出発点でした。しかし,当時の建設ロボットは,性能,コストの面で実用性が低く,自動化・ロボットは苦渋作業,危険作業を人に代わって行うための技術に収まってしまった。結局,現場作業の効率は,実質的には職人さんたちに委ねられるのですが,そんな熟練者が不足していく中で,現場の生産性を向上させるためには,これまでとは違うアプローチが必要だと考え,建設機械作業の自動化を核とした「A4CSEL」を実現しようと,10年ほど前から研究開発を続けてきました。

植木 その継続が大切ですね。世の中にある技術の進化も自動化施工への道を拓く後押しとなりました。GPS,そしてGNSSの登場により建設機械の位置情報を24時間正確に知ることができるようになり,小丸川発電所上部調整池や京極発電所上部調整池での3D-CADやICT を駆使した施工システムへとつながり,半自動化を実現しています。

三浦 自然災害への対応も,施工を変える要因になりました。雲仙普賢岳の噴火では,大規模な火砕流や土石流により周辺地区に甚大な被害をもたらしました。危険地域では無人化施工が必須条件となり,当社は1994年から無人化施工試験工事に参画し,除石工事を無人化施工で行いました。ここで開発した技術が,当社の無人化施工技術のベースとなっています。

植木 そうした技術があったから,東日本大震災直後から,大型クローラクレーンや解体用重機を数百メートル離れた場所から遠隔操作し,東京電力福島第一原子力発電所3号機のガレキ撤去を始めることができたのです。その成果を見て,ロボットの研究者の方々からも高い関心を持っていただきました。

三浦 福島第一原子力発電所では,高線量のガレキを保管場所まで運搬する業務で,「A4CSEL」の技術を用いてクローラダンプとフォークリフトを自動化し,状況に合わせて自律的に自動搬送するシステムを開発しました。今も使い続けています。

 「A4CSEL」を最初に実用化したのが2015年,私が当時所長を務めていた五ケ山ダムです。当初は,自動振動ローラを試験的に動かすところから始めたのですが,これまでオペレータが考えていた,どう土を掘り,どう土を動かすかという操作レベルでの作業内容を知る必要があり,それを「A4CSEL」というシステムに組み込んでいくことが重要だと直感しました。複数の自動ダンプトラックや自動ブルドーザとの連動・連携ということになれば,さらに精緻な作業分析が必要になりますね。そこが,これまでの機械化とは違うところです。

青栁 トンネル工事は,線状の長い構造物を効率良く造る必要があり,先端つまり切羽に人と機械が集中することが特徴です。そこには地山という自然が常にあります。自然相手ですから,安全に施工を進めていても切羽崩壊がないとは言い切れません。だからこそ,人を切羽に近づけないため,人の作業を機械に置き換える必要があるのです。もちろん,他工種同様に労働力不足はあるのですが,トンネル現場の自動化へのアプローチは,まず安全性向上から始まっています。最新鋭の4ブームコンピュータジャンボを導入して,穿孔作業を1人の作業員で行えるようにしたのも,効率化だけでなく安全性も重視したからです。

植木 あの機械はスウェーデン製で,世界で4台しかないうちの1台でしたね。

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青栁 そうです。欧米には鉱山が多くあり,資源採掘のための掘削作業が多く行われています。そもそも,人が立ち入ることが危険な環境であり,機械化や遠隔化が進んでいます。海外に目を向け積極的に技術を導入していくことも,より早く自動化を実現するための一つの方策だと考えます。

 私たちは,全ての作業において安全性を最優先しなければなりませんね。重機と人の混在作業をなくすことが重要で,「A4CSEL」により,現実のものとなってきています。また,外部コンクリートなどの打設を行うためのスライド型枠は,これまでクレーンで吊り上げていましたので,重篤災害のリスクが高い作業でしたが,この作業を全自動化したことは,省人化だけでなく安全面からも意義があります。

三浦 こうした自動化技術を実用化するには,開発技術を検証する場が必要になります。「西湘実験フィールド」や「模擬トンネル」の存在は,技術を開発する立場にとって,大きな意味を持ちます。

 五ケ山ダムで「A4CSEL」を試験的に導入した時,現場側からすると,新技術を共同開発するという考えで対応しました。ただ,工事全体のことを考えれば,フィールドの一部を貸しているという意識があるのも事実です。

植木 そうなのです。だから開発者側も遠慮をしますし,何より実際の現場では大きな失敗は許されません。気兼ねなく思いっきり,開発した技術を検証する場が必要なのです。自動車メーカーは,必ずテストコースを持っています。そう考えれば,当り前のことなのです。

青栁 模擬トンネルでは,現在,掘削サイクルの作業毎の実証実験の準備に入っています。トンネル現場の自動化に向けて,トライ&エラーを繰り返しながら,ワンマンオペレーションの形にしたいと考えています。

三浦 自動化技術の開発に試行錯誤が必要なのは,先程,林さんが「A4CSEL」を導入した時に,“操作レベルでの作業内容を知る必要がある”と指摘したことが鍵になります。熟練作業員の手作業を分析して,機械で同じことをできるようにしなければならないからです。分析結果から得られた情報をもとに何度も機械を使った実証実験をする必要があります。

 さらに,分析結果を精査し,繰り返し作業は自動化するなどの切り分けをして,人と機械の仕事を標準化する必要もありますね。場合によっては,作業フローを再構築して最適化する必要もあるでしょう。

三浦 最適解を得るために,AIの活用も進めています。作業工程や機械配置の最適化,それと自動機械での作業を熟練者の作業に近づけるためのAIとか。ただ,AIを搭載したからと言ってブルドーザに「敷き均しをうまくやって」と投げかけても,何もできません。AI手法の中で,何が自分たちの課題,問題に対して使えそうなのか,どのような答えを出すのかの研究に加え,AIが最適解を出せるための質問を用意できることが必要だと思います。

青栁 トンネルの場合,単位作業の繰り返しで掘削サイクルが構成されていて,自動化しやすいと考えられていますが,一つひとつの作業を見れば,熟練作業員の技能に頼っているのが現実です。やるべきことは同じだと思います。

植木 もう一つ,自動化に向く建設機械の開発が,さらに進む状況にしたいですね。公道での自動運転は注目度が高く,世界中で様々な自動運転技術を備えた車両が多く生まれています。そこで利用している技術を建設現場にフィードバックすることも重要だと考えています。

三浦 そのためには,建設業に注目してもらうことが大切ですね。機械の自動化はできても施工の自動化はまだまだ先の話と言われてきましたが,開発した自動化技術を一挙に投入する成瀬ダムで,土木現場が建設工場になる可能性を示せればと思っています。

青栁 建設現場で自動化を進めるには,当社だけでは解決できない課題も多くあると考えています。例えば,自動運転の法律上の扱いなどです。トンネル現場でいえば,自動化に適した爆薬や雷管の使用は日本では許可されていません。これらの課題は,産学官が協力して,業界全体で解決していく必要性があると感じています。

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 国内の建設市場が縮小するなかで,なぜ自動化技術に投資するのかと質問されることがあります。しかし,私たちの目的は,現場の自動化だけでなく,労働集約型でない生産性の高い建設システムを構築することです。システム化できれば,海外へ仕組みごと持ち込むことができると考えています。

青栁 私も同じ考えですね。グローバルな視点でみれば,海外にもトンネルの需要は多くあり,人的資源に依存しないとなれば,フィービジネス展開できる可能性は高いです。

植木 世界で最も早く超高齢社会を迎えている日本だからこそ,建設現場の自動化に本気で取り組んでいるのです。自動化のフロントランナーとして,日本が抱える課題をチャンスに変えることができるという意識で開発を進めていきましょう。

三浦 現在,「A4CSEL」の技術を活用した宇宙探査の拠点建設の遠隔施工システムの研究をJAXAと共同で進めています。地球でできることは,月でもできるはずという思いを込め,実験を行っています。自動化は魅力ある建設業と,たくさんの夢や希望がある未来を拓いてくれるはずです。

(2018年10月2日 鹿島KIビルにて収録)

写真:座談会の出席者

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