建物としてZEB化を目指すためには,仕様面による省エネ性能の高度化と併せて,運用段階のエネルギー消費の削減が必要である。「エネルギーマネジメント」とは文字通り,エネルギーの消費を管理して,最適チューニングによって無駄をなくしていく取組みだ。
BEMSによるエネルギー消費の“見える化”
『BEMS(Building Energy Management System)』は,建物の消費エネルギーを計測し,そのデータを記録・蓄積して,運用の評価→不具合の発見→原因検討→改善提案→改善実施→事後評価を繰り返していくシステム。エネルギーの使われ方を“見える化”することで,建物の運用方法を改善し省エネを図る。
当社は,業界でも先駆的にBEMSの開発に取り組み,様々な建物への導入実績を持つ。当社BEMSの最大の特徴は,現地に設置したBEMSのデータを当社内にある遠隔BEMSへ取り込み,当社側でも解析・評価できる点。建築設計本部・設備設計統括グループの枡川依士夫チーフは, BEMS開発当初からシステムづくりを担当してきた。「システムを納めて終わりではなく,我々が解析して改善案を提供できるようにしたかった。こうしたサービスで得た膨大なデータは,我々にとって新たな技術をつくる大切な財産にもなっています」。
エネルギーフォルトを断つ
環境性能に優れた建物であっても,運用してみると非合理的なエネルギー消費状態が潜在的に多数存在している。その代表例として知られるのが「室内混合損失」。天井の空調機と窓際の空調機とで冷房と暖房を同時運転してしまう現象だ。室内は快適だから使用者からのクレームもなく,BEMSデータを見ても明らかな異常として表れない。「こうした無駄なエネルギー消費を“エネルギーフォルト”と呼んでいます。これらを顕在化して改善することで,エネルギー消費量を大きく削減できる余地があります」。
次世代エネルギーマネジメント
BEMSの膨大なデータ解析は専門エンジニアの手で行われており,人的資源の確保,費用対効果,分析対象の偏り等,様々な限界があるのが現状。当社は,BEMSデータの分析のノウハウをプログラム化して,自動的にエネルギーフォルトを検知するシステムを開発した。「小規模ビルのZEB化を考えた場合,現地に建物管理者がいないことも想定されます。このシステムを活用すれば,遠隔の監視センターからリアルタイムにエネルギーフォルトを検知し,お知らせすることも可能です」。この自動検知システムは,まもなく「鹿島技術研究所 本館 研究棟」に導入される予定となっている。次世代のエネルギーマネジメントが動き出している。
『B・OAネットシステム』は,従来個別に構築していたBA(Building Automation:ビル管理システム)とOA(Office Automation:情報システム)のネットワークをIPで統合したシステム。ビル内通信インフラを一元化することでイニシャルコストを低減できるだけでなく,個人のパソコンから執務エリアの空調・照明・ブラインド等の設定を好みに合わせて変更できる,ワークプレイスの快適環境を創出するツールとして当社が開発したシステムである。
このたび,鹿島KIビルZEB化改修において,エネルギーマネジメントにも貢献する新技術『B・OA plus』をITソリューション部を中心に構築し,実証実験をスタートしている。『B・OA plus』では,改修エリアと非改修エリアの照明・空調・コンセントのエネルギー負荷に加えて, 太陽光発電電力量や蓄電池残電力量等もリアルタイムに閲覧できる。さらに,コンセント系電力については,スマートタップ等を使用し,パソコン・ディスプレイ,複合機,冷蔵庫,電気ポット等,各コンセントでの使用電力情報についても“見える化”を実現。あらゆるエネルギー使用を常時監視し,無駄な使い方をしている待機電力を自動制御することも可能となる。将来的には,外気温や電力需給予測等に応じて電力利用を最適制御する,デマンドレスポンスへの展開も視野に入れている。