当社は,IT環境のクラウド化を推進しています。
よりスピーディで高度な建設技術が求められる中で,クラウド化による
ITの「所有から利用」への転換は,当社の技術革新にどんな貢献を果たすのか――
ITソリューション部の担当者に聞きました。
クラウドコンピューティングとは
「クラウドコンピューティング(cloud computing)」のcloudは「雲」。コンピュータシステムの全体像を描く際,“中がよく見えない”インターネットを雲のイメージで図示していたことが由来だそうです。
つまり,クラウドコンピューティングとは,いままで自前で保有・管理していたコンピュータのハード・ソフトウェアに代えて,インターネット上のコンピュータ資源を活用することを意味します。例えば,表計算やワープロ,メール,データ保管など多岐にわたるサービスを,インターネット経由で必要な時に必要な分だけ使うことが可能です。
クラウドコンピューティングの一番の特徴は,最先端技術を低価格で利用できることですが,一方で,インターネットとの接続不具合が業務停止に直結する恐れがあります。また,クラウドサービス事業者のセキュリティ対策状況や事業者の都合による突然のサービス終了といったリスクも十分に検討する必要があります。
解析計算技術におけるクラウド化
当社は,これまでスーパーコンピュータ※1で行っていた流体解析や構造解析を,わが国で初めてクラウド化しました。
高品質な建造物を建設するには各種の高度な分析が必要で,ビル風や粉塵流動などを予測する「流体解析」,地震時の超高層ビルの揺れ方などを分析する「構造解析」などが代表例です。このような計算量が膨大な解析には高性能なコンピュータが不可欠ですが,高価な計算機を長く使いたくてもIT技術の急速な進歩とともに保有している計算資源がすぐに陳腐化してしまうことが悩みでした。また,建設プロジェクトの繁忙期を見込んだ性能のコンピュータを導入するため,利用頻度が少ない時期には稼働率が低くなり,効率的ではありませんでした。
そこで当社は,現在のクラウドコンピューティングの前身となるグリッドコンピューティング※2に2002年から着目し,性能・セキュリティを維持しながら自前のスーパーコンピュータと外部のコンピュータ資源を併用する手法を確立・活用してきました。そして,スーパーコンピュータの更新を迎えた2010年10月,高信頼・高セキュリティなクラウドへの移行を実施したのです。
クラウド化により,アプリケーションによっては処理性能は6倍となり,多くの解析検討が可能となりました。解析精度に影響を与えるメッシュ数も大幅に増やすことができ,さらに現実に近い結果が得られています。また,繁忙度に応じて,必要なコンピュータ計算能力を柔軟に変えることで,コストの変動化が可能となり,従来に比べ40%のコスト削減を達成できました。
※1:一般のコンピュータと比べて超高速の演算ができる超高性能コンピュータ。設計やシミュレーション,宇宙開発,気象予測などに用いられる。
※2:ネットワークを介して1つの処理を複数のコンピュータに分散させて行わせ,仮想の高性能なコンピュータをつくる。一台一台の性能は低くとも高速に大量の処理を実行できる。
電子メールシステムのクラウド化
また,当社はインターネット接続やメールシステム,e-ラーニングなど,情報インフラにおいてもクラウド化に取り組んでいます。特に電子メールは,どのような企業にも共通した情報インフラで,比較的クラウド化しやすいと言えます。ただし,今や電子メールはコミュニケーションやデータの授受手段として必要不可欠なツールですので,システム停止は極力避けなければなりません。また,いつでも優良なサービスに乗り換えられるよう,常に選択の幅を狭めない状態を維持することが大切であり,単に低価格なだけでなく安定かつ柔軟性の高いサービスを見極めることがクラウド化における肝でした。
そのような検討を踏まえて,2011年4月,電子メールシステムをクラウド化しました。今後はメール利用者数に応じて利用料を支払う形態となり,コスト削減とスムーズな事業規模連動が可能になりました。
広がるクラウド化
今まで挙げたメリット以外にも,クラウド化によって省エネ・節電効果や,震災への備えといった別のメリットも得ることができました。コンピュータを社外に一極化することで設置スペースや空調設備費の軽減だけでなく,使用電力の削減に貢献しています。また,堅牢なデータセンターにデータを格納することで事業継続性の確保も可能としています。
このように,ITは従来の考え方を一変させる可能性をもつので,今後もその潮流をいち早く捉えて付加価値を高め成果をお客様に還元していきます。
クラウドコンピューティングは,低価格で最先端技術を利用できる可能性を中小企業にまで拡げました。高度なIT技術を活用できることは,技術開発がカギとなるモノづくりでは競争力育成に不可欠です。この“草の根クラウド”とも言える効果は,大企業の超先端ブレークスルー型とペアになって産業全体のレベルアップを決定的にする筈で,雇用創出にも有効でしょう。
現在,クラウドコンピューティングはスーパークラウド(クラウド2とも)と呼ばれる世代へとさらに進化中ですが,このような強力なIT技術が登場するときには,結局その特徴を十分理解し使いこなす人材の育成が要です。そのような人材育成のシステムが確立できれば,クラウドコンピューティングベースの情報インフラの上に,“レジリエント・ジャパン”(resillienceは回復力)が実現されるでしょう。
建設業は,受注量の変動が不可避であり,仕事量に応じて必要人員数や必要設備が変動する産業と言えます。
一方で,情報システムは仕事量のピークを基準にシステム規模を見積もり,かつ複数年にわたって費用が固定的であったので,経営が求める安定的な収益基盤確立のためにも, 固定と考えられていた部分を変動化することが大きな課題でした。そこで,当社ではクラウド化による,ITの「所有から利用」への転換を進めてきたのです。
ただし, クラウドコンピューティングはまだまだ進化中ですし, 向いている領域とそうでない領域があります。我々はビジネスを止めること無く, 数多のサービスから良質な物を見極める能力を磨く必要があると考えています。