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鹿島の知的財産を考える

これまで当社は,土木・建築をはじめとした様々な分野で多くの技術を開発。
開発した技術は,さらに研究が進められ,そこからまた新たな技術が生み出されてきた。
こうして積み重ねてきた技術は,まさに当社の知的財産であり,事業活動のベースとなっている。
ここでは,知的財産部が行ってきた具体的な対応事例を紹介し,当社における知的財産の重要性を考えてみたい。

技術開発の着手時点から
連携する
CASE1 「鹿島カットアンドダウン工法」

当社は,世界で初めて高層ビルを下層階からいわゆる「だるま落とし」のように解体する「鹿島カットアンドダウン工法」を開発,2008年に実用化した。地上もしくは地下階の全ての柱部分に油圧ジャッキを設置してその上階を支持し,解体した後に建物全体をジャッキダウンすることの繰り返しにより,高層ビルを解体する画期的な工法だ。

知的財産部は,技術開発の着手時に,先行する他社の特許を調査したところ,問題となる可能性のある特許権を見つけた。このまま当社が施工すると,最悪の場合,工事がストップしてしまうリスクがあった。そのため,様々な観点から検討を行い,最終的には特許無効審判を起こして他社の特許権を消滅させ,問題を解決した。また当初,開発チームが想定していた工法名称は,他社の登録商標として既に存在していることが判明。別の名称に変更し,当社の登録商標として新たに取得した。

「開発着手の時点から,他社の特許や商標権をきちんと確認すること,技術開発チームと知的財産部が連携して総合力を発揮することの大切さを改めて実感することができました」と,知的財産部横山和人企画・管理グループ長は当時の状況を振り返りながら語った。

図版:1,500tジャッキ

1,500tジャッキ。転用することを見越し,今後解体が見込まれる超高層ビルを調査してスペックを決定した

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図版:地上部での解体の様子

地上部での解体の様子

図版:りそな・マルハビル解体時の様子

りそな・マルハビル解体時の様子

開発技術の実施自由度を
広げる
CASE2 TMD「D3SKY」

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「D3SKY(ディースカイ)」は,超高層ビルの屋上に数百tの巨大な“振り子型のおもり”を設置することで建物全体の揺れを抑える技術で,揺れ幅を最新鋭の超高層ビル並みに抑える制震効果を実現。屋上に装置を設置するため,眺望の阻害や有効床面積の減少もなく,また室内で工事を行わないためテナントへの影響も大幅に低減でき,これまでにない革新的な開発となった。

他社も類似技術の開発を進めている中,新たな形態のD3SKYが検討された案件で,他社特許の存在が見つかった。当時のことについて,知的財産部ライセンスグループ清水友香子課長代理は,「この他社特許は存在が分かった時点では,まだ権利化されていませんでした。しかしその後,特許庁の審査に通り,権利になる可能性が残されており,その場合,当社の実施が権利を侵害するため,工事の差し止めや損害賠償を求められる可能性がありました」と語る。

知的財産部は,建築設計本部と連携して,将来権利になる可能性や,権利になった場合の権利侵害の可能性を検討すると同時に,特許庁の審査状況を監視した。さらに,他社特許の特許性を否定するための公知技術情報を収集し,特許庁に意見するなどの対応も行った。

その結果,この工事のみならず将来当社が実施する可能性のある形態について,他社特許の権利化を阻止することができ,知的財産面でもD3SKY関連技術の実施自由度を広げることに成功した。

※Dual-direction Dynamic Damper of Simple Kajima stYle:
鹿島2方向制御ダイナミックダンパー

図版:新宿三井ビルディングの屋上にD3SKYが導入された

新宿三井ビルディングの屋上に
D3SKYが導入された

図版:D3SKYの仕組み

D3SKYの仕組み

図版:屋上に設置されたD3SKY(1基)

屋上に設置されたD3SKY(1基)

図版:D3SKY屋上設置イメージ(外壁カバーを除いた概念図)

D3SKY屋上設置イメージ(外壁カバーを除いた概念図)

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社会に貢献する
技術開発成果の
普及展開を
サポートする
CASE3 長距離水中流動充填材「Hilo」

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施工状況(「Hilo」の品質管理,運搬,打込み)

福島第一原子力発電所の廃炉作業を着実に進めていくため,避けて通れないのが作業に伴う被ばくリスクだ。海水配管トレンチ内部に滞留していた汚染水も大きなリスクの一つで,一刻も早い除去が命題となっていた。この国難ともいえる状況の中,2015年,当社が東京電力,東京パワーテクノロジーと共同開発したのが,長距離水中流動充填材「Hilo(ヒーロー)」だった。

※High leveling for long distance

共同開発を行った3社は,この技術を福島第一原子力発電所だけに留めることなく,広く社会全体に普及を図りたいとの考えで一致した。そこで,知的財産部が中心となり,展開の枠組みや体制の構築に取り組むこととなった。具体的には,共同開発3社とグループ会社のカジマ・リノベイトを中心とした研究会の立上げを目指した。技術普及のために使いやすさを第一に考えた枠組みづくりと当事者間の複雑な利害調整にも気を配り,主要な施工専門業者に材料製造業者を加え,総勢9社の「Hilo研究会」を設立させた。

研究会は,特許権,材料配合・施工ノウハウ,商標権,知的財産契約を組み合わせた知的財産戦略によって,他社の模倣や権利侵害から保有技術やビジネスを保護する仕組みを構築。開発成果を世の中へ普及展開し,市場拡大を可能にする取組みに仕上げた。知的財産部ライセンスグループ深江雅史課長は,「この技術は,東日本大震災直後の福島第一原子力発電所での作業から生まれた,まさに作業員の安全を守る『ヒーロー(Hilo)』の名に相応しい活躍でした。この技術が広く社会に普及するサポートに携わることができ大変光栄です」と強調した。

図版:充填作業のイメージ図(3号機海水配管トレンチ)

充填作業のイメージ図(3号機海水配管トレンチ)

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先端テクノロジーを
多面的に保護する
CASE4 建設機械の自動運転を核とした次世代建設生産システム「A4CSEL」

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これまで建設現場での作業を担ってきた技能労働者の高齢化,人手不足が急激に進む中,将来も高品質のインフラを安定的に提供するというゼネコンの使命を維持するためには何をすべきか。施工システムの抜本的な変革が必要であると考えた当社は,施工生産性と安全性,施工品質の向上を目的として,ICT,AI技術を駆使した建設機械の自動運転を核とした次世代建設生産システム「A4CSEL(クワッドアクセル)」の研究開発に10年以上前から取り組んでいる。建設機械メーカーや国の研究機関,大学との共同研究開発を進め,2015年の五ケ山ダムを皮切りに2016年には大分川ダム,2018年には小石川原ダムに適用,現在,成瀬ダムの工事で本格適用されている。

知的財産部では,研究開発の着手時に行う特許クリアランス調査や,共同研究開発に関する契約締結などを社内関係部署と連携して行っている。知的財産部知的財産推進グループ藤坂恭史次長は,「A4CSELは,これまで建設労働者に依存していた現場作業や,工事経験によって培われた施工計画・管制業務を先端技術の活用や,作業の方法,手順,組合せの工夫などによって自動化しています。技術を特許権として保護しつつ,ノウハウやデータもきちんと管理することが重要です」と話す。

今後, A4CSELが土木業界における自動化・ICT化のパイオニアとして,業界を牽引する技術となっていくことから,知的財産部では,将来的には標準化などさらに多面的な知的財産戦略に基づく活用を考えている。

図版:自動化重機のフォーメーション試験時の管制室の様子

自動化重機のフォーメーション試験時の管制室の様子

図版:A4CSELによる堤体打設作業イメージ

A4CSELによる堤体打設作業イメージ

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図版:自動化重機のフォーメーション試験の様子

自動化重機のフォーメーション試験の様子

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発明発掘の宝庫
「支店キャラバン」

現場でのアイデアは,水平展開できるものが多いため,それを特許として権利化することができれば,当社の競争力を向上させ,他社との差別化を図ることができる。

そこで,現場のアイデアを発掘することが重要になってくるが,現場社員は自分たちのアイデアが特許になるかどうかわからないため,埋もれてしまうことが多い。知的財産部では毎年,各支店で開催される「技術並びに経営合理化研究会」に参加。特許出願できるネタがないかという視点で,毎年5~6件の発明発掘を行っている。

同研究会は現場社員の参加が多い。知的財産部は,どういったものが特許出願できるのかや提案方法などをアドバイスするミニ説明会を実施し,現場社員が自ら新しいアイデアを知的財産として提案できるよう啓発に努めている。

図版:昨年の「技術並びに経営合理化研究会」の様子

昨年の「技術並びに経営合理化研究会」の様子

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使ったことがありますか?
「特許検索システム」

当社では,社員であれば誰でも利用することができる特許検索システム「Shareresearch(シェアリサーチ)」の運用をイントラネット上で行っている。同システムでは,特許庁発行の公報や海外の特許情報(米国特許・欧州特許・国際公開)を無料で検索できる。知的財産部の知財PORTAL「調査」のページからアクセスが可能だ。

2009年度に現在のシステムへ移行後,利用者が増加傾向にある同システム。利用者向けに簡易マニュアルも整備している。知的財産部は,今後も研修などで特許調査の重要性を周知することとしている。

図版:「Shareresearch」の検索画面。知的財産部のホームページから誰でもアクセス可能

「Shareresearch」の検索画面。知的財産部のホームページから誰でもアクセス可能

「鹿島のハウスマーク」を護る

当社が日本や海外で使用しているハウスマークが,中国で第三者により,英文「KAJIMA」として出願中だった。さらに,和文「鹿島」は登録済みであることが2011年に判明した。

当社は,中国における両文字の使用実績を基に異議申立てや無効審判を行い,勝訴判決による第三者の商標取消しを勝ち取ったが,一部商標については現在も裁判の進捗状況を見守っている。これもまた知的財産部が担っている,知的財産の重要なリスク管理業務だ。

図版:鹿島マーク
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初歩の初歩から学べる
「知的財産教育」

鹿島グループ全体の知的財産活動の活性化に,知的財産に対する意識向上は欠かせない。知的財産部では,当社およびグループ会社社員に対し,知的財産研修を行い,グループ全体のポテンシャルアップを狙っている。

当社社員への研修は,初級コースは産業財産権と知的財産契約の基礎知識や,社内手続きの方法・社内規定について,中級コースは発明提案書の書き方や特許成立までの手続き,特許権の侵害事例,知的財産契約の留意点について学べる内容となっている。また,研修の効率化を図るための事前学習(Eラーニング)や,特許検索システムの使用方法に関する研修も行っている。

その他,グループ全体に向け,年十数回,新入社員からマネジメント層までを対象に,知的財産の基礎知識やリスク管理,海外での特許取得方法など幅広い内容の研修を実施。また近年は,研修に参加できない遠隔地の社員のために,知財Eラーニングの提供も行っている。

図版:昨年行われた初級研修の様子

昨年行われた初級研修の様子

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