vol.94
建設現場の先にある希望
森岡書店 代表 森岡督行
この5月に,伊藤昊(いとうこう)という無名の写真家の写真集『GINZA TOKYO 1964』を出版しました。タイトル通り,1964年の東京オリンピックに湧く銀座をテーマにした写真集です。全く無名なのにどうして出版したかというと,伊藤昊氏は,人びとの喜びや街の活気,新しい未来を写していたからです。
特に私の好きな写真が,この「鹿島建設」です。高度経済成長期の東京。おびただしい工事現場は,もしかしたら,機械的で騒がしいイメージがあったかもしれません。でも,伊藤昊氏は,女子高生の歩調と梯子,アルファベットの「A」を合わせることにより,一瞬にして,詩的なイメージの現場に変換しました。そうすることで,生まれ変わる都市の鼓動が,写真の彼方から聞こえてきそうです。この写真には夢や希望が写っています。
当初は2020年の東京オリンピックに合わせて出版しましたが,コロナ禍と重なり,復興の意味を持つようになりました。この写真のような視点を持つことが,いまこそ,求められています。