ホーム > KAJIMAダイジェスト > October 2020:特集 鹿島の知的財産 > interview これからの知的財産を見据えて

interview これからの知的財産を見据えて

写真

櫻井知的財産部長が日本知的財産協会 久慈直登専務理事にインタビューし,
国内外の知的財産の動向や,建設業と当社の知的財産活動に対する印象,
そして,今後の知的財産の展望について伺った。(以下,敬称略)

日本と海外における,
この50年の知的財産の流れ

櫻井 このたびはインタビューのお時間をいただき誠にありがとうございます。早速ですが,弊社知的財産部 が発足した1970年以降,この50年間の日本における知的財産の流れについて,どのように捉えていますか。

久慈 日本の1970年代から1990年過ぎまでは,特許の件数が多ければ多いほど良いという考え方で特許の件数を伸ばすという,特許件数が最優先されていた時代でした。その後2010年頃までは,権利行使がより意識されていった時代で,1970年代の特許件数表示の時代から,実際に権利として使えるかどうかという時代にシフトしていきました。単に何でもかんでも出願して特許件数を増やしていこうということではなく,本当に有効なものを出願していこうという考え方に変化していった時代となりました。

櫻井 2010年以降は,いかがでしょうか。

久慈 2010年以降は,著作権・意匠権・商標権・ノウハウ管理も含めて,オールラウンドな広がりの中で知的財産を見ていこうという動きが主流となっています。

櫻井 海外も日本と同じような構図なのでしょうか。

久慈 そうですね。だいたい海外も同様の枠組みに入ると考えています。一方で中国と韓国は,1995年頃から急激に追い付いてきている印象があり,中国は今が特許件数を優先している時代といえると思います。

改ページ
図版:世界規模での特許出願件数は増加傾向

世界規模での特許出願件数は増加傾向 出典:特許庁

図版:中国の特許出願件数は劇的に増加

中国の特許出願件数は劇的に増加。他はほぼ横ばい。日本の特許出願は年間30万件強 出典:特許庁

建設業の知的財産についての印象

櫻井 久慈専務は日々,様々な業種の方と接していらっしゃいますが,建設業の知的財産に対して,どのような印象をお持ちでしょうか。

久慈 私自身,建設業の知的財産は非常に魅力がある仕事だと思っています。意匠法の改正により,建物の外観や内装のデザインで意匠権が取得できるように変わりました。デザインとして建設業を考えたときに,建築デザインは規模が大きいので人間の感覚に及ぼす影響が大きくなります。最近読んだ司馬遼太郎さんの本に,「最高の芸術作品が建築である」と書いてありました。司馬遼太郎さんは建築が大好きな方で,建築デザインをどのように考えるのかが日本にとって大切とも記されています。

櫻井 司馬遼太郎さんがそんなことをおっしゃっているのですね。

久慈 それを知的財産として,意匠権や著作権で把握するようになると,それこそが建設の知的財産だと見せられる可能性があるわけです。これから先,知的財産から見る建設というのは,デザイナーの世界になるのではないかと考えています。建物を見ていて,気持ち良さとか幸福感を感じる,という方向にシフトするのではないだろうかと。そういったときに建設業の知的財産というのは,今まで以上にやりがいがあって,自分たちの特長を上手く主張できるのではないかと思っています。

櫻井 建設業界でも,他業界とどのように連携していくのか,またビッグデータをどのように取り扱っていくのかなどが課題となっています。今後の動きとして,どのように考えながら動いていけば良いのかアドバイスをお願いできますでしょうか。

久慈 鹿島さんは,様々な分野で特許を取得している印象がありますが,今は自社で何でもかんでも特許を取得しなくてもよい時代になってきています。例えば,他業界の持っている特許を使わせてもらう代わりに,鹿島さんの特許を使わせてあげる,という取引きができますし,互いの業種で互いの特許に乗り入れて拡大していく。乗り入れ方・連携の仕方を工夫して特許を上手く使っていく。そのようにして自社の強みをできるだけ確実にしておいて,他業界の部分は相手の特許を借りればいいと割り切って,自社の強化すべきところを強化するというやり方が一つあると考えています。

櫻井 自社で確保せずに他業界と融通し合うときの選択の仕方やコツは何でしょうか。

久慈 例えば,ホンダはF1にエンジンを出しているので,世間からホンダのエンジンは良いというイメージを持たれていました。でも実は,エンジン自体は,自動車メーカーの間でそれほど大きな差はありません。ホンダの車はエンジンが良いというイメージができあがっているわけです。また,エンジンの特許がこれだけあるというのを雑誌などにチラッと載せたこともあります。他社も同じようなことができますが,社会に対して先に自社のエンジンが強いというイメージをつくってしまう。

櫻井 なるほど。先に自社のブランドイメージを植え付けるための知的財産活用ということですね。

久慈 では,鹿島さんのイメージをどうつくるか。特許でどこを強くするかというときに,トンネルが強い,高層建築が強いなど色々な言い方があると思います。ブランドのスローガンという形でつくっていき,そこに知的財産を集中していく。意匠権・デザイン・特許権などを集中的に出願していくわけです。あとは借りるところは割り切って借りる。知的財産があるというのは他社と連携する際に自社の強みを主張することができますし,世間から見たときに,鹿島さんはここが強いと簡単に結び付けることができます。

鹿島の知的財産について

櫻井 鹿島の知的財産に関する印象はいかがでしょうか。

久慈 大手5社の中で,一番知的財産が強いのが鹿島さんだという印象を持っています。鹿島さんの知的財産部は社長直轄の組織であることに重要な意味があります。社長直轄の組織でないとできないことは,ブランドアイデンティティです。会社のブランドアイデンティティというのは社長が一番考えることですが,知的財産部が社長直轄の組織の場合,知的財産の色々なツールを使って分析するときに,ここに焦点を当てましょう,と社長に直接提案できるわけです。また,これまでお会いした鹿島さんの社員一人ひとりの人柄が良く,それが社風なのかなという印象も持っています。そうした人柄はブランディングの一つとして大変重要なことだと思います。

今後の知的財産の展望

櫻井 今後の知的財産の世界はどのようになっていくとお考えでしょうか。

久慈 これからはオープンイノベーションの時代になっていくでしょう。自分たちの会社だけで独立してやるのではなくて,業界の垣根を越えて,少しずつ技術を融通し合いながら連携する。今まで建設の仕事というのは,重工業界や電気業界などとの付き合いがあったと思います。これからは色々な業種との付き合い,例えばITやビジネスのソリューションなども含めて,互いに特許や知的財産を融通し合う,使い合う,乗り合うような,そういう時代に少しずつ変わってきていて,この先,どんどん他業界との連携へシフトしていくと感じています。

櫻井 最後に,これから知的財産に興味を持つ人,知的財産を担っていく人たちにメッセージをお願いします。

久慈 知的財産の仕事というのは,特許を取得することに集中するような時代ではなくなっています。自社のブランドを含めて,自社をつくっていくために,権利や強みをシフトするもので,建設が最高の芸術作品とするときに,文化的なこととか,日本の景観がどうあるべきとか,そういうことを含めて知的財産部門の人たちが先頭に立って対応してほしいと考えています。

櫻井 芸術性や文化的な側面からも知的財産活動を推進することが必要だということですね。知的財産情報を分析した上で自社のブランドアイデンティティをつくり上げる活動のお話をはじめ,どの話題も当社にとって大変示唆に富むものばかりでした。本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。

(2020年7月27日 鹿島本社にて)

写真:久慈直登
久慈直登(くじ なおと)

日本知的財産協会専務理事
日本知財学会副会長
元本田技研工業(ホンダ)知的財産部長
2001年から2011年までホンダで初代知的財産部長を務めた。2012年より日本知的財産協会専務理事,あわせて2014年より日本知財学会副会長を務め,現在に至る。ホンダ在職中に提案した,環境技術を世界で使うための知的財産の仕組み「WIPO GREEN」は2013年にWIPO(世界知的所有権機関)に採用されている。著書には「知財スペシャリストが伝授する交渉術 喧嘩の作法」,「経営戦略としての知財」,「最新科学とスピリチュアル」などがある。

写真:櫻井克己
櫻井克己(さくらい かつみ)

知的財産部長
大学等の産学連携活動に対する評価に関する調査事業委員(経産省),知的財産を活用した海外展開支援事業委員(国交省),大学等における共同研究等成果の在り方に関する調査研究委員(文科省),国立研究開発法人防災科学技術研究所客員研究員など。
日本知的財産協会ではライセンス委員会の委員長を務めた後,2013年度から2015年度まで同協会の常務理事,2016年度から2017年度は副理事長を務めた。技術経営博士。

ContentsOctober 2020

ホーム > KAJIMAダイジェスト > October 2020:特集 鹿島の知的財産 > interview これからの知的財産を見据えて

ページの先頭へ