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対談 ダム再開発,技術の伝承

ここでは,より広い観点からダムの現状,そして未来について,
日本ダム協会の川﨑正彦専務理事をお迎えし,当社の高田悦久常務執行役員と語ってもらった。
再開発事業の重要性と技術開発,技術の伝承,技術者に課せられた使命──。
技術者のダムへの思いが,見えてくる。

写真:川﨑正彦

川﨑正彦(かわさき・まさひこ)
一般財団法人日本ダム協会専務理事
1980年京都大学大学院工学研究科修士課程修了,建設省入省。
2002年九州地方整備局河川部長,
2005年水資源機構経営企画部長,
2008年環境省水・大気環境局水環境課長,
2009年内閣府沖縄総合事務局次長,
2011年四国地方整備局長。
2014年より現職。高知県出身。

写真:高田悦久

高田悦久(たかだ・よしひさ)
当社常務執行役員・土木管理本部副本部長
1976年大阪大学工学部土木工学科卒業,鹿島入社。
三保ダム,川治ダム,奥野ダム,宮ヶ瀬ダム,滝沢ダムなどの現場を経て,
2004年胆沢ダム堤体盛立JV工事所長。
2009年土木管理本部統括技師長,
2012年執行役員土木管理本部副本部長。
2014年より現職。大阪府出身。

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新設よりも格段に難しい

高田 新規のダム整備事業に加えて,近年ではダム再開発事業が増えています。一時的に事業が止まっていた時期もありましたが,温暖化などの影響もあり,ダムの必要性が再認識されています。

川﨑 ダムは国土の発展に貢献してきた重要な構造物です。特に戦後には大切な役割を果たしている。復興に向けて,まずは電力が必要になり,次いで食料増産のためのかんがい用水,高度成長がはじまると都市に人口が集中して水道用水に工業用水と進んでいきます。その利水分野に治水を合わせて多目的ダムの整備が全国で行われてきました。そのなかで,現在起きているのが地球温暖化の問題ですね。温暖化により短時間に強い雨が降って,そのかわり雨が降らない期間が長くなってくる。

高田 局所的な豪雨が増えている。台風もそうですね。「猛烈な」というのを最近よく耳にします。

川﨑 対策として河川改修が必要ですが,住宅密集地などの堤防が築けない場所では上流で水をためるなどで洪水を防ぐ。利水の点では,雪への影響も大きい。米どころの多くは田植えの水は雪解け水ですが,降雪量が減ることで絶対量が足らなくなってくる。温暖化は治水と利水両面に影響をおよぼしているわけです。この影響を評価して最適な対策を講じなければなりません。治水と利水両方を手当できるのはダムしかない。

高田 ダムの必要性でいえば,発電機能も再びクローズアップされるべき。エネルギー議論が活発に交わされているにも関わらず水力発電がなかなか取り上げられない。水は日本が頼れる数少ない純国産の資源ですからもう少し目を向ける必要があると思います。

川﨑 現在,ダム再開発に脚光が当たっていますが,これは温暖化対策も含めた治水機能の強化を目的にするものが多くなっています。ダムに適したサイトは既に整備がされている一方で,新たに計画しようとしても地元の合意形成などに相当な時間がかかってしまう。そこで,早く対策するには既設ダムを利用しようとなる。極めて自然な発想です。

高田 再開発事業は費用対効果が大きいですね。ダムの形状にもよりますが,堤体は上部になるにつれて面積が広くなるので1mでも堤体を嵩上げすれば,かなりの貯水容量が増す。

川﨑 ただ,再開発というのは,技術的には新設よりも格段に難しい。水を貯めてダムを運用しながら施工するわけですから。鹿島はじめ建設会社が懸命に技術開発していますよね。堤体を削孔したり切削したり。技術的に体系立ったものがないので,業界全体で要素技術を集めていこうと動いています。

高田 ダム協会にも施工技術研究会があります。そこに各社が集まって技術研究をやっている。こういうのはダムだけです。

川﨑 ダムだけですね。ダムサイトで蓄積したものを技術資料にして全員に配るのですよ。現場での成果を自社だけのものにせずに他社とも共有する。おもしろいですね。

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官民一体で技術開発

高田 行政も含めた関係者が,一緒になって技術論を交わす。技術を提案して議論して…。それが正しければ採用されることもある。

川﨑 立場を問わず,国土づくりに励もうという土壌がありますね。

高田 オールジャパンのものづくりが,新たな技術が生まれる素地になっている。当然これは再開発事業でも同様で,鶴田ダムで開発した新技術・浮体式仮締切も国土交通省九州地方整備局とダム技術センター,日立造船と関係者一丸になって技術開発した成果です。

川﨑 こうしたいと思ったら,現場ですぐに検討を始めますからね。

高田 以前は,雨が降ればコンクリートを打設できなかった。そこで,宮ヶ瀬ダムでは傘をさせば雨でも打てるだろうと20m角のテントをケーブルクレーンで移動・設置して,そのなかでコンクリートを打設した。現在は巡航RCDという技術で,打設中断・再開が容易になりましたがクリティカルな課題はどこかと突き詰めて,雨天とコンクリートという観点から少しずつ進化させてきたのです。“変えたい”と現場が思ったことが実現できている気がしますよ。制約条件もあって,日本のダムの施工速度は遅いといわれてきたけど,今はもうそんなことはないですからね。巡航RCDになってから海外の工法に比べても見劣りしない。むしろ速いぐらいです。

川﨑 再開発の技術開発といえば,堆砂も厄介ですね。砂を撤去するにも莫大な費用がかかるうえに環境問題もあって,なかなか決め手がない。いい技術を開発できれば世界的にも評価されるでしょうね。

高田 堆砂は難しいですね。ただ,国内では喫緊の課題というわけではない。ダムは100年後にも機能を損なわない設計がされているが,それでも少し砂がたまると機能が落ちているようにメディアに報じられてしまう。

川﨑 そうしたPRは下手ですね。難しい。

高田 誤った情報がまかり通ることもありますからね。“ダムによって洪水がつくられた”と耳にすることがありますが,最大でも流入量以上に放流することはないのだから,これは絶対にあり得ない。

川﨑 放流という言葉から,今まで貯めた水を一気に流すように誤解されてしまうこともあります。メディアにはちゃんとした説明が必要です。一方で,“ダムマニア”と呼ばれる,ダムファンの方が増えてきたじゃないですか。抵抗なく入ってきて,楽しんでくれている。

高田 本当に,様々なところで宣伝をしてくれていますよね。我々も一緒になってダムのよさをアピールしていくのが大切じゃないかと思います。

川﨑 ダム協会でも意見交換させてもらっています。各管理事務所で配布しているダムカードも人気を博していますが,今後も裾野の広いPR活動の必要性を感じますね。

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再開発事業が伝承フィールド

川﨑 ダムは工事用道路の付替えや河川切替えに伴うトンネル構築,堤体の掘削・コンクリートの打設などあらゆる工種を含むので技術も身につきますよね。

高田 現場ではコンクリートも骨材からつくりますし,僕らのときにはオペレーターまでしましたよ。ゼネラリストでありながら専門的な知識がついてきて,スペシャリストになる。逆に,スペシャリストにならないと本当のゼネラリストにはなれないともいえますが。

川﨑 今でも本来ならば若手に全部やらせたい。自分の手で覚えた技術は強いですよね。加えて,その中途で失敗する経験も大事。積極的に手を挙げて発言し,様々なことを担当する。結果として失敗して恥をかいても,次に成功すればいい。そういう心構えが人を成長させる。測量して図面を描き,設計,施工,精算まで。やることはいくらでもある。

高田 最初から最後まで現場の面倒を見るのも,勉強になります。全体を理解できるようになりますから。

川﨑 現在問題になっているのが技術者不足です。職員数の減少に加えて,ダム事業検証の影響などで配置換えもあって…。

高田 我々の間でも“技術の伝承”がよく話題に挙がります。国内での新規事業が減少していくなか,海外に積極的に技術者を出していくのもひとつの伝承方法といえるかもしれません。

川﨑 国内でも所属する組織にこだわらずに全国からダムサイトに技術者を集めて,そこで技術を伝えていくことも考えるべきでしょう。現場で1年間──1年じゃ短いかな。もちろん海外も検討する必要がある。

高田 東南アジアの治水・発電は需要がありますが,請負契約はリスクが大きい。技術指導あるいは発電事業への参画も視野に入れる必要があるでしょうね。私も30年以上現場を経験しましたが,技術を習得するには実に時間がかかる。だからきちんと方針を決めて,若い技術者に示さないといけない。技術者は簡単には育ちませんから。

川﨑 再開発事業がひとつの伝承フィールドになるのは間違いないでしょう。あとは積極的な技術者同士の交流も必要ですね。

高田 その意味でも最近,川﨑専務理事が,各地方整備局とダム技術者との意見交換の場をつくられました。先達が,日本のためにと多大なエネルギーを注ぎ,ダムを整備してきた。その大切な技術を絶やすわけにはいきません。

川﨑 ダムという国民の財産を維持し,次世代に伝えるのも我々の使命でしょうね。

高田 今後も一つひとつ,課題に向き合って解決していきたいと思います。

写真:対談の様子

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