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KAJIMAダイジェスト

鶴田ダム

鶴田ダム施設改造工事

場所:
鹿児島県薩摩郡さつま町
発注者:
国土交通省 九州地方整備局
設計:
国土交通省 九州地方整備局
工事内容:
基礎掘削220,000m3
減勢工コンクリート69,567m3
台座コンクリート3基 堤体削孔5条
工期:
2011年2月〜2015年3月

(九州支店JV施工)

鶴田ダム増設減勢工工事

工事内容:
基礎掘削79,000m3
コンクリート打設99,900m3
工期:
2012年10月~2016年3月

(九州支店施工)

鶴田ダム既設減勢工改造工事

工事内容:
土工 65,900m3 法面工 907m2 ダムコンクリート 133,840m3
コンクリート構造物取壊し 29,000m3
仮設構台3,800m2
仮締切(鋼管矢板)1,430t
電気設備仮設工1式
工期:
2014年11月~2018年3月

(九州支店JV施工)

図版:地図

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国内最大規模のダム再開発

ダムの再開発事業が各地で進んでいる。そのなかで,着工時から注目を集めているのが鶴田ダムである。

鶴田ダムは,洪水調節や発電を目的とした多目的ダムとして1966年に完成した。2011年,川内川流域の洪水被害を軽減する目的で再開発に着手。堤体に放流管3本を増設するとともに,発電用取水管2本を付け替える。

堤体に放流管を増設して洪水調節を行うのは,再開発工事として決して珍しいことではない。鶴田ダムが他と異なるのは,その規模の大きさである。一度に5ヵ所の削孔が国内初であれば,堤体削孔の長さ60m,最大水深65mでの作業も国内最大規模となる。当然,誰もが挑んだことのない工事の連続になる。

「ダムを運用しながら施工する。再開発事業の難しさはそこに尽きる」というのは,現場を統括している滝口紀夫所長である。ダム再開発には様々な手法があるが,共通するのが稼働中のダムへの影響を最小限に留める必要があることだ。治水・発電などのインフラ機能を維持するためにダム湖の水位を保持しながら作業を行わなければならず,水と向き合うことも多くなる。

堤体を削孔するためには仮締切を設ける必要があり,水中での作業は潜水士が行うことになる。鶴田ダムでは65mの大水深で作業することから「飽和潜水システム」などの特殊な作業方法の導入が必要になった。これに加えて,適用されたのが「浮体式仮締切工法」である。この新技術は,5つの仮締切のうち1つに適用され,効率的な施工に貢献して大きな成果を収めた。建設産業の優れた技術に贈られる第16回国土技術開発賞で最優秀賞も受賞している。「新技術の採用は発注者がダム再開発技術の未来を真摯に考えているからこそ実現した。まさに英断だったと思います」(滝口所長)

写真:滝口紀夫所長

滝口紀夫所長

写真:ダム湖内に投入される台座コンクリート型枠

ダム湖内に投入される台座コンクリート型枠

写真:再開発事業の概要図

再開発事業の概要図

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施工者の経験が重要になる

「再開発は,ダムだけでなく臨海とトンネル,機械…。様々な分野の知見・人材が必要になってきます。土木の総合的な力,会社として鹿島全体の力が試される。腕の見せ所でしょうね」。施設改造工事の乗り込みから現場を指揮してきた鈴木聰副所長はいう。掘削から仮設備の整備,仮設構台の構築,仮締切基礎の水中施工,そして堤体削孔──。再開発事業は,工種が多岐にわたるのも特徴で,その一つひとつがクリティカルパスになるため遅れが許されない。加えてヤードが狭く,機械設備など他工事と作業が輻輳する。

仮締切後に行われた堤体削孔では,約6m角の矩形断面を掘り進めた。通常のトンネル工事と異なるのは,コンクリートで構築された堤体には崩落する恐れが少ないこと。支保工が不要になり,測量とズリ出し以外は掘削を続けることができる。その分,機械の損耗が激しくなるのも特徴だ。もうひとつ異なるのが,削孔時の振動対策。ゲート操作など既設構造物に影響を与えないように配慮がなされる。特に貫通部については,一般部よりも振動が大きくなることや,仮締切に不測の事態が生じることを避けるため,ワイヤーソーを使って分割切断・撤去する「無振動貫通工法」を採用した。貫通断面積100m2は国内最大級である。

こうして施設改造工事は順調に進み,堤体削孔は2014年11月に完了を迎えた。これから最盛期を迎えるのが,既設減勢工改造工事である。ここでは,約半世紀前に完成した鶴田ダムの減勢工を改修して,ダムの安全性をより一層高めるものである。この工事により,減勢工の延長は約120m延伸されることになる。

写真:鈴木聰副所長

鈴木聰副所長

写真:水中作業の効率と安全性を高める飽和潜水システ

水中作業の効率と安全性を高める飽和潜水システム。大水深で作業する飽和潜水ダイバーは,1ヵ月の作業期間中その水深と同じ高気圧のシステム室内で生活する。水中の作業場所へは,同様に加圧されたこの水中エレベータで行き来する。期間終了時に減圧して大気圧に戻され,システム外に出ることができる

写真:堤体削孔作業の様子

堤体削孔作業の様子。トンネル削孔用の自由断面掘削機(200~240kW級)を適用した。振動抑制,削孔精度に細心の注意を払いながら施工を進めた。2013年度に3条,2014年度に2条の合計5条の削孔を実施

写真:監査廊内部

監査廊内部。付け替えをした発電用取水管が既設監査廊と交差するため,監査廊の切り替えが行われた。付け替えは,堤体への影響を最小限にするため無振動工法で実施している。上部に見えるのが発電用取水管

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この工事を率いているのが,武井昭所長だ。「運用しながら,ダムの直下流で工事を進めるにあたり,既設ダムからの放流のリスクをどう見るか。非常に難しい判断を迫られます。去る6月10日深夜に放流予測が毎秒2,000トンを超えたときには,一瞬頭のなかが真っ白になりました」。放流に先立って作業を中断し,作業従事者をはじめ重機や仮設材を逃がさなければならない。この6月は連日の降雨に見舞われ,放流を巡ってダム管理所との連絡確認に追われた。ダムの放流操作は昼夜,休日を分かたず行われるので,緊迫の毎日だったという。「出水期には施工しない期間をつくるしかないが,事業工程を遅らせることはできない。その時期になにをするか。施工計画が肝要になる」と武井所長。ダムの機能維持と放流の可能性,求められる幅広い知見──再開発の特殊性に対応するためには,施工者として経験が重要になる。「再開発やリニューアルは,ゼネコンが積極的に携わっていくべき分野。ダムに限らず施設を運用しながら進める工事は,経験が一番ものをいうと思います。ここで蓄積される施工経験と人材は間違いなく貴重な財産になるものと確信します」。

鶴田ダムの再開発は,2018年3月まで続く予定だ。

写真:武井昭所長

武井昭所長

写真:3期工事の完成予想パース

3期工事の完成予想パース

写真:現場写真(2015年7月)

現場写真(2015年7月)

Column ダム再開発とは…

既設ダムの堤体嵩上げや放流設備の構築,貯水池掘削などを行い,機能保全・拡充を行うことをダム再開発と呼ぶ。ダムの新設に比べて事業期間が短いことや環境におよぼす影響が小さいこと,費用対効果が高いなどのメリットがあり,実績は近年増加傾向にある。ただし,ダム再開発は,既設ダムを運用しながら調査・設計・施工するため様々な制約が伴う。施工時の水位に応じて仮締切が必要となるほか,出水期には洪水調節が行われることもあり,綿密な施工計画が欠かせない。

当社でも,1974年に嵩上げが完了した三川ダム(広島県)を端緒に,山王海ダム(岩手県)や五十里ダム(栃木県)などで30を超える再開発事業の施工を手がけてきた。現在も全国各地で施工を行っている。

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Column 新技術「浮体式仮締切工法」

鶴田ダムで初適用されたのが,「浮体式仮締切工法」である。当社と国土交通省九州地方整備局,ダム技術センター,日立造船の4者が共同開発した仮締切工の新技術だ。

この技術では,扉体の内・外側面に鋼板(スキンプレート)を貼って浮力室とし,底蓋と一体化させることで台座コンクリートの構築を不要とした。浮力を利用するため,地上ではなく湖面上で組み立てが可能になり,設置場所まで曳航することができる。潜水作業が大幅に軽減し,安全性が向上するとともに,工期やコストの低減,品質確保にも大きく貢献する。その有効性から,今後も各地で活躍が見込まれている。

写真:従来式

従来式

写真:浮体式

浮体式

Interview 鶴田ダムが地域に果たす役割

鶴田ダムは,半世紀近く地域を洪水から守り,電力を供給してきました。2006年の大出水を受けて再開発事業がはじまりましたが,当然,流域住民の生命・財産を守るのが事業の第一使命です。ダムの洪水調節機能を維持し,発電事業者との調整を進めながら,監督官として,日々ダムと向き合っています。

建設当時の文献が十分に残っていないなか,現場では再開発事業ならではの特殊な工法や新技術なども積極的に取り入れながら事業が進められています。こうした新たな挑戦は一定以上の成果を収めており,ここで育まれた技術が将来に役立てられるものと確信しています。

写真:岩元隆太郎 建設監督官

現在国交省では,積極的に広報活動を展開しています。事業の目的と効果を一般の方にわかりやすく説明して理解してもらうことを企図し,旅行会社や旅館組合と連携したインフラツアーや夏休みを利用した現場見学会も開催しました。幅広い年齢層の方が参加しており,九州外から見学に来られることもあります。2011年に450人だった鶴田ダムの年間見学者数は,2014年には3,200人まで増え,多くの方から好評を頂いています。

私も一人の土木技術者として,つくるからにはいいものを後世に残せるようつくりたいという思いがあります。検査が厳しいといわれることもありますが,これも地域の重要な事業に携わっているという思いの表れです。現場では,協力会社の技術者一人ひとりがプロ意識をもって臨んでくれています。これからも全員が一丸となってものづくりに励んでいければいいと考えています。

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