秋の七草
春の七草は,1月7日の人日(じんじつ)に粥に入れていただく七草粥でお馴染みですが,秋の七草はあまり馴染みがないかもしれません。
秋の野に 咲きたる花を 指(および)折り
かき数ふれば 七種(くさ)の花
萩の花 尾花 葛花(くずはな)
撫子(なでしこ)の花
女郎花(おみなえし)
また藤袴 朝貌の花
上記の2首は,山上憶良(やまのうえのおくら)の歌です。これらの七草は,今では,萩,薄(すすき),葛,撫子,女郎花,藤袴,桔梗で,これが秋の七草となります。
山上憶良は万葉歌人ですから,今から千年以上前から,秋になると野に七草が咲き乱れ,人々に愛でられていたことがわかります。万葉集には約4万5,000首以上の歌が収められています。その約3分の1が植物を詠んでいるといわれ,その中でも筆頭が萩だそうです。
木の花包と草花包
折形のバイブル的存在の伊勢貞丈の『包之記』では,「木の花包」と「草花包」が紹介されています。
貞丈はそこで木は天,つまり上方にあるので陽であり,草は地に生えるので陰であると述べています。同じ花でありながら,木の花と草花とでは陰陽の違いがあるのです。当然,折形の包みの姿にも陰陽の違いが現れます。秋の七草は陰の花となり陰の姿となります。数字も陰陽に分けられ,偶数が陰,奇数が陽になりますので,『包之記』の「草花包」の図版を参考に示しましたが,尖った山形が2つとなっていて偶数(=陰)であることがわかります。
東アジア全域に広がる陰陽思想は,世界を仮に2つに分類し,その二極が相互に補完し合い,相反するものがバランスをとり合い秩序が保たれるというダイナミズムを持った考え方です。決して固定化していくことではありません。
折形デザイン研究所がその陰陽思想を踏まえて新しい草花包みをデザインしました。秋の七草を盛り合わせるもよし,個別に包むのもよし。
万葉の草花
今回は,華道家の横山美恵子さんにご協力いただき秋の七草を折形で包み,贈りものにする試みをご紹介します。秋の七草は日本の里山の道端に自生している草花ばかり。丁寧に自然を観察すると万葉集の時代の草花がわれわれの暮らしのそばにあることに驚かされます。
自然と人の営みがインタラクティブに接触している里山は,実は先端的な場で,そこには先人たちの知恵が継承され,持続可能性のヒントが隠されているようです。その里山の道端に千年前から自生している万葉の植物には,愛でるだけではない,薬効も含め忘れ去られた知恵があると思われます。例えば葛の根は葛根湯(かっこんとう)に,花には葛花(かっか)というめまいを止める薬効があります。他の七草にもたくさんの薬効があることが知られています。そういった背景も含めて贈りものにしたいと思います。
同じ時空を今生きていることの喜びを分かち合う贈りものになるのではと考えています。