第6回
日新 本牧埠頭
A突堤ロジパーク計画
ICT活用による働き方改革を模索しているのは,大規模現場だけではない。
日新本牧埠頭A突堤ロジパーク計画工事事務所は,現場の実状に適った活かし方に着目し,
支店や当社グループ会社と手を携えながら実現を図った。
キーワードは,興味とトライアル。現場の施策とマインドをリポートする。
【工事概要】
日新 本牧埠頭A突堤ロジパーク計画
- 場所:横浜市中区
- 発注者:日新
- 設計:当社横浜支店建築設計部
- 用途:梱包工場,事務所
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規模:S造(基礎RC造)
2F 延べ約10,898m2 - 工期:2020年4月~2021年6月
(横浜支店施工)
横浜市の本牧埠頭に,国際総合物流を手掛ける日新の新たな物流センターが誕生した。最大80tの荷重に対応した天井クレーンなどを設え,京浜地区の輸出事業の中核地点として,7月から営業を開始している。
設計・施工を担った当社横浜支店では,管轄する全現場がプロジェクト着工時に,建築工事管理グループICT支援チームとICT活用に関する打合せを行う。事務所や現場内インフラから施工管理に関わる活用法までのリストをもとに,現場は工期や規模,コストに合わせて導入するICTメニューを検討する。
「日進月歩で新たなICTツールが生まれています。それを支店でまとめ,できることを提示してもらえるのはありがたいです」と現場を率いた杉村直樹所長は話す。今回の取組みも,この打合せが契機となった。
遠隔消点灯システムをアレンジ
「100Vの電源は制御できないのか」。ICT支援チームから遠隔消点灯システムの紹介を受けた杉村所長は,咄嗟に口を開いた。
紹介されたのは,現場に点在する分電盤電源を工事事務所のパソコンから集中制御できるシステム「エミット」。パソコン画面から分電盤の状況が確認・制御できるため,照明器具などのON/OFF操作に関わる時間を大幅に削減するとともに,消し忘れもなくすことができる。当社東京建築支店機材部およびグループ会社の大興物産が共同で開発したものだ。
もっとも,既存のエミットは200Vの電源しか遠隔制御ができない仕様だった。「この現場では100Vと200Vの仮設照明が混在しています。また,100V電動工具などの夜間充電による火災発生要因の芽を,技術的に摘みたいという思いもありました」。杉村所長の要望を受け,ICT支援チームと現場は,横浜支店安全環境部機電グループや大興物産と連携し,100・200V両方の電源の遠隔制御について,技術的な検証を行い,制御できることを確認した。
工事事務所のIoT化
工事事務所のIoT化にも取りかかった。ICT支援チームは所内設備のリースを行う大興物産とともに,所外からスマートフォン(以下,スマホ)で所内設備をコントロールできる仕組みの導入を検討した。打合せを重ねた末に採用したのが,ネットワーク接続型の高機能学習リモコン「iRemocon※(アイリコモン)」だ。
※グラモの登録商標
iRemoconはスマホやタブレットなどの通信機器と連携し,設定を行えばどのスマホからでも操作ができる。現場事務所に設置する標準的な設備に,赤外線受信装置を付加するだけで照明やテレビ,エアコン,換気扇など,さまざまな設備のIoT化を低コストで果たした。
入社9年目の齊藤鋭(さとし)工事係は,「電源の切り忘れ防止もそうですが,一番うれしいのは所外からエアコン操作ができるようになったことです。真夏や真冬でも,事務所到着時までに快適な室温にしておくことができます」と効果を実感。杉村所長も,「私も若手の頃からこういうことができたらいいのに,とずっと思っていました」と微笑んだ。
施策を推進するマインド
現場の幹部クラスが出席することが多いICT支援チームとの打合せに,杉村所長は齊藤工事係を参加させた。今後を担う若手社員に,積極的に現場を変えてほしいという思いがあったからだ。齊藤工事係は,「今回の取組みによって特に若手所員の負担が確実に減りました。ただそれ以上に,自らもアイデアを発信して現場を改善していきたいと考えるようになりました」と語る。
杉村所長はまだまだ現状に満足していない。「分電盤は最終的にはスマホから遠隔制御できるようにしたいですし,標準的な現場事務所の仮設ハウスもスマートロックにしたいと考えています。私の役割は,世の中に溢れている色々な情報に興味をもち,現場管理の効率化や環境改善に向け,種を蒔いていくことです。それをこれからの現場を担う方々にブラッシュアップしてもらいたいと思っています」。さらなるトライアルが楽しみだ。
現場効率化の力になりたい
―大興物産
遠隔消点灯システム「エミット」の改良・導入など,現場効率化に大きく貢献したのが当社グループ会社の大興物産だ。担当した東京支店建設工事部東京機材センターの佐藤篤史主任は,「工事エリア内に異なる電圧が混在するのはどこの現場でもあり得ることです。それをコントロールできるようになったと,好評をいただけて良かったです」と充実した表情で語った。現在は,現場から要望に挙がったスマホ・タブレット対応システムの開発を進めているという。「現場の方々から挙げていただく要望は私たちにとって貴重なものです。現場のICT化が進む今,ニーズに即したものを提供していきたいです」。