オフィスビルにおける最も大切な評価基準は,ワーカーの満足度である。
“ここで働く優越感” “様々な刺激からたかまる知的好奇心” “守られているという安心感” “自然環境とまじわる優しさ”——
価値あるオフィスビルを創出するために,当社はワーカーの感性を触発する多彩なシーンをデザインしている。
都市間競争力とオフィス
昨年から今年にかけ,当社が担当した大型オフィスビルが続々と竣工しています。いま日本のオフィスマーケットは,グローバルな企業が大きなターゲットのひとつです。欧米の企業がアジアの拠点としたい人気都市は,シンガポール,上海,東京の3都市と言われています。“ジャパン・アズ・ナンバーワン”と言われたバブル期の勢いはありませんが,羽田空港の国際化で都心へのアクセスも向上し,都市間競争力は高まりをみせています。大手デベロッパーは大きな投資をして,日本だからこそできる最先端の機能とアメニティを用意したオフィスビルを建設し,競争に勝ち抜こうとしているのです。
オフィスビルのトレンド
それではいま,どんなオフィスビルが求められているか――。かつて,都市機能の集中が好ましくないとされた時代がありましたが,近年はビジネスに必要なさまざまな機能が集約されてきています。例えば,ビジネスの中心地に本社を置き,周辺にはその機能をサポートするグループ会社や関連企業を集め,研究部門は研究に相応しい環境のエリアを用意する。機能の「集積」と「分担」という考え方にシフトしていると言えるでしょう。
これまでオフィスの価値は,業務の効率性や経済性という観点で評価されていましたが,創造性やオリジナリティを重視した付加価値創造志向を強める方向へ評価が変わっています。オフィスは業務を処理する場所から,人々が集い何かを生み出す生産の場所という位置付けに変化しつつあるのです。価値創造の場の範囲は,企業が一般的に執務空間として占有する狭義のオフィス空間に止まらず,実はオフィスビル全体,さらに言えばオフィスビルが立地する街全体にも拡がってきています。街全体を「オフィス」として捉えていく視点が必要になっています。知的生産性を高めるためには,「集中する場所」「ほっと安らぐ場所」「人が集う場所」「刺激をうける場所」・・・など,ワーカーの感性にうったえる“静・動”さまざまな空間や場面が必要です。そういった意味でオフィス,商業あるいはホテルや住宅など,さまざまな機能を併せ持つ“コンパクトシティ”にオフィスを構えることが重要となるのです。
当社施工で1968年に開業した霞が関ビルディングは,40年経ったいまも時代に合った機能を付加して競争力をつけています。オフィス機能や空調・電源などの設備改修を行う一方,低層階の飲食店を大規模リニューアルし,「霞(かすみ)ダイニング」として周辺オフィスのワーカーも取り込む賑わいを創出し,ビルの付加価値を高めています。今年4月に東京臨海副都心地区にオープンした「ダイバーシティ東京オフィスタワー」は,隣接する巨大な商業施設と一体になった刺激的な街の中で仕事をする新しいスタイルです。近隣公園の豊かな自然と商業,オフィスが融合する「中野セントラルパークサウス」も,贅沢な環境と言えるでしょう。両者とも当社が基本計画から携わったプロジェクトです。いまオフィス・デザインは,ビル単体を設計するというより,街をデザインしていく感覚ですね。
安全から安心へのシフト
東日本大震災後,顧客から求められるニーズが「安全」から「安心」に変わってきたことを感じます。お客様の中には「大地震の際,隣りのビルとぶつかったりしないのか」と質問をされる方がいらっしゃいます。超高層ビルでこれだけの揺れを経験したのは,恐らく世界で初めてでしょう。不安感を抱くのは当然で,皆さんの素直な気持ちなんですね。デベロッパーからは,免震でオフィスビルを建設したいという要望が急増しています。安心を得たいというニーズだと思います。
当社が震災後すぐに着手したのが,超高層ビルの大きな揺れをどうやって早く収束させるかという安心の技術でした。「免震」と同等の効果が得られ,汎用性の高い制震技術を開発中で,実現の目途がついています。既存の超高層ビル用の制震技術も開発済みです。このスピード感は,ゼネコンならではのなせる技だと思います。例えば,既存のビルを耐震改修しようという時,どういう技術を使ってどうやってつくっていくかまで,設計・施工・技術開発系部署などが協働して考えて答えを出せるわけです。豊富なノウハウと総合力による裏付けのある技術は当社の強みですね。
今後は中・小のオフィスビルの建設・リニューアル案件が増えてくると思われます。Sクラスの大型オフィスの周辺に集積する小さなオフィスビルにも同等のクオリティを提供し,全てのワーカーが同じレベルの環境で仕事ができるようにしていきたい。我々が知的生産性を高めるオフィス環境をデザインしていくことで,日本の都市間競争力が高まることを期待しています。