昨年に引き続き,今年の夏も電力不足が深刻化しています。2年目に入った“節電の夏”。
当社は,ワーカーの知的生産性を損なわずに節電を実現するシステムの運用を開始しました。
いま話題の「デマンドレスポンス」と
当社が開発した「鹿島スマート電力マネジメントシステム」について解説します。
節電の夏
今年の夏は,東京電力と東北電力管内を除き,平日のピーク電力を5~15%削減する目標が定められ,企業の対応が求められています。企業の節電では,電力需要が低い土日祝や夜間に仕事を行う「ピークシフト」やピーク時間の電力を削減する「ピークカット」などが一般的な方法です。企業には様々なビジネス上の制約もあり,「ピークシフト」で対応できる企業は一部で,現実的には多くの企業で「ピークカット」することを迫られています。当社は昨年に引き続き,2010年の使用電力に対して,一律15%以上削減することを目標としています。
デマンドレスポンスとは?
ピーク電力をどのように削減していくか?注目を集めているのが「デマンドレスポンス」という技術です。直訳すると「需要応答」。もともと電力供給が安定していない諸外国で検討が進んでいました。電力会社が供給する電力が需要を賄えない時,リアルタイムに供給側から利用側へ電力需要の調整を求め,それに利用者が応じる仕組みです。協力すると,削減量により報奨金が支払われたり,料金が安くなるなどのインセンティブを与えています。ダイナミックプライシング(時間別電力料金体系)と呼ばれ,日本においても一部の地域で家庭向けに試行されています。
日本での「デマンドレスポンス」は,まだリアルタイムに供給側から利用側へ要求する仕組みは整備されていないため,節電目標に対して利用側で需要を調整する「デマンドコントロール」といえるでしょう。
使用電力の「見える化」と需要調整
定められた節電目標を達成するには,まず電力を何に使っているか把握する必要があります。15年程前からオフィスビルにはBEMS(ビルディング・エネルギー・マネジメント・システム)の導入がはじまり,電力の用途を簡単に「見える化」することができています。例えば,鹿島赤坂別館の夏期間には,冷暖房の空調に約43%,照明に約21%,パソコンやプリンタなどのコンセント電源から約25%,そのほかエレベータや共用エリアの空調・照明などに約12%を使っていることがわかります。
ピーク時間に,これらを組み合わせ,何を削減するかを見極める必要があります。昨年の夏,真っ暗で暑いオフィスを経験された方も多かったのではないでしょうか。これは「デマンドカット」と呼ばれ,いわば強制的に需要を抑える方法です。私たちは,節電をしていても快適なオフィス環境を確保し,知的生産性を低下させないことを目指しました。昨年,社員約400人を対象とした節電実験とアンケートを行い,快適性と省エネの関係を調査し,空調よりも照明に使う電源を削減した方が快適性を損なわないことがわかりました。
鹿島スマート電力マネジメントシステム
この結果を組み込み,電力の削減率に応じて,空調,照明,コンセント電源を自動的に制御するのが「鹿島スマート電力マネジメントシステム」。昨年,得られた知見により,快適性を確保しながら節電目標を達成できます。現在,鹿島赤坂別館にて稼働中で,ピーク時に目標を上回る20%以上の節電が可能と試算しています。全自動節電制御を既存のオフィスビルに導入したのは国内初。中央管理室で設備機器を管理している一般的なオフィスビルであれば,導入することができます。
システムの仕組みは,天気予報や気温予測,過去の電力需要から,その日にビルで利用する電力需要を予測し,節電する時間帯や削減量を設定します。その情報から,快適性を損なわないレベルで空調,照明,コンセント電源を自動的に制御していきます。節電時間帯が過ぎると通常運用に復旧します。また,電力供給側からの削減要求にリアルタイムで対応する「デマンドレスポンスモード」と年間の消費電力を抑える「省エネ節電モード」をニーズに合わせて選択することができます。
すべての人が快適で持続可能な節電
一人ひとりのワーカーに目を向けると,それぞれに快適な空間は違います。私たちは,その違いにも注目しています。例えば,あと1%電力を削減することが求められた時,ある人が快適だと思う温度を1度上げなければならないこともあります。この時,ほかにも削減するものがあれば――。小型バッテリーを搭載したノートパソコンやパントリーで利用されている電気ポット,小型冷蔵庫など仕事に影響が小さい電力を節電できれば,快適性を損なわずに済みます。このコンセント負荷についてもスマートタップで制御できる仕組みを一部で運用開始しています。次のステージでは,すべての人が快適に,知的生産性を高める環境をつくりながら,持続可能な節電を実現していきます。
私たちは,安定的に供給される電力を如何に効率良く使うかを考え,省エネやCO2削減に貢献する技術を開発してきました。しかし,東日本大震災で状況は一変し,限りある電力を効率的に使う方法が求められるようになっています。これまで培ってきた技術に,実証実験の結果を加味して生まれたのが「鹿島スマート電力マネジメントシステム」。“ストレスのないスマートな節電”を開発コンセプトに,将来予想される再生可能エネルギーを含めた多様な電力供給や電力需給に応じた料金体系などにも十分対応できるシステムだと自負しています。今後は,ひとつの建物だけで考えるのではなく,ビル群で電力をバランス良く使う方法も考えていきます。お客様への提案を通して,ワーカーはもちろんのこと,ビル管理者にもストレスのないスマートな節電社会に貢献していきます。