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Part 2 第一滝本館

図版:大浴場から地獄谷を望む

大浴場から地獄谷を望む 提供:第一滝本館

一番に選ばれる宿であるために

自然湧出量1日1万t,国内に全10種類あるとされる泉質の9つを堪能できる登別温泉。
この日本有数の温泉地に,第一滝本館はまだ北海道の名がつく前から宿を構え,
訪れる人々に癒しの湯とくつろぎの時間を提供してきた。
第一滝本館と当社の関わりは半世紀以上に遡る。施工者としてつくり,守ってきたものを探ってみたい。

やさしさから生まれた宿

北海道登別市の老舗旅館。登別温泉の源泉から最も近い場所にあり,開放感あふれる大浴場で地獄谷を望みながら,5種類の泉質を源泉かけ流しで楽しむことができる。現在,約5万3,721m2の広大な敷地に,総客室数393室を構える第一滝本館。その始まりは,小さな湯治宿だった。

地図
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1858(安政5)年,江戸の大工職人滝本金蔵は幕府の派遣で蝦夷に渡り,幌別(ほろべつ)で駅逓(えきてい)所の建設に携わっていた。その頃,妻の佐多はひどい皮膚病に悩んでおり,登別温泉の噂を聞きつけた金蔵は山道を分け入り,そこに治療のための湯小屋を建て,湯治を始めた。やがて佐多の皮膚病は快癒。その効能を広めたいと湯守りの許可を取り,湯宿を設けた。第一滝本館のルーツだ。近年では外国人宿泊客も増えており,金蔵のおもてなしの精神は世界に広がっている。

図版:昭和初期の第一滝本館 提供:第一滝本館

昭和初期の第一滝本館 提供:第一滝本館

創業160年以上の長い歴史をあゆむ第一滝本館と当社の関わりもまた半世紀以上にわたる。拡張と改築を繰り返し現在に至る施設の多くは,当社施工によるもの。近年は建物の耐震性確保と快適性・機能性の向上を目的とした耐震改修工事を,旅館の営業を続けながら,一棟ずつ進めている。当社は2019年8月に南館とエントランス,今年7月に西館の工事を施工した。第一滝本館の歴史の一端は,当社の歴史でもあるのだ。

図版:第一滝本館全景(2014年) 提供:第一滝本館

第一滝本館全景(2014年) 提供:第一滝本館

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interview 施主と施工者。互いに共有してきた歴史を振り返りながら,第一滝本館が目指す旅館づくりを伺った。

写真

photo:Shinjiro Yamada

北海道支店
営業部(建築担当)
営業グループ 次長
山本貴博

第一滝本館
経営企画室
シニアリーダー
眞柳志乃

第一滝本館
取締役
経営企画室 室長
新岡 修

北海道支店
第一滝本館改修工事事務所
所長
菅原真一

共有してきた歴史

山本 改めて調べたところ,当社が担当した最初の工事は,1964(昭和39)年の滝本別館の建設でした。今は営業されておりませんが。

新岡 少し離れたところに建てられた建物ですね。そうでしたか。

山本 その次が,東館(1966(昭和41)年)。

新岡 その後,西館(1972(昭和47)年),南館(1978(昭和53)年)。そこから少し間が空いて,大浴場(1986(昭和61)年),佳水館(1989(平成元)年),そして本館(1990(平成2)年)です。本館の建設をもって,当時の新増築プロジェクトは一段落。これらはすべて鹿島さんの設計・施工で建てていただきました。

眞柳 本館新築直後,西館の建替えをご提案いただいたと伺っています。話もかなり進んでいたそうですが,バブルがはじけて立ち消えになったとか。

山本 今年,西館の改修工事を担当させていただきましたが,もしかしたら全く別の建物になっていたかもしれませんね。

菅原 私より4,5歳上の北海道支店建築系社員の多くが,第一滝本館さんの工事に何かしらの形で携わっていました。担当していた先輩方に,「温泉の効能で肌つやがいいだろ」と自慢されたことを覚えています。(笑)

新岡 私は入社以来ずっと鹿島さんとお仕事をしてきました。最も記憶に残っているのは1983(昭和58)年の登別集中豪雨のこと。当時地下にあった旧大浴場に大量の水が流れ込み,約2,300m2の浴場がすべて土砂で埋まりました。もう当分は営業できないだろうと落胆していた矢先,鹿島さんが大勢の作業員さんとともに駆けつけ,なんと3,4日で復旧してくれました。鹿島さんの力を強く感じた瞬間でした。

山本 当社と第一滝本館さんの強い絆を感じるエピソードですね。これからも何かあればすぐ駆けつける,頼りになる存在でありたいです。

お客様のニーズを捉える

眞柳 第一滝本館の魅力はなんといっても温泉です。私たちはその温泉をより多くの方々に楽しんでいただきたい。そのために,お客様のニーズを取り入れた施設の提供を心がけています。例えば今回,布団で寝るのがつらいというお客様のお声を受けて,ほとんどが和室だった館内に洋室を設けました。また,バスレーンにハイデッカーバスが通れるように屋根をかさ上げしました。

菅原 施工中は迂回路の検討や仮設資材置場の提供など,われわれに配慮していただきとても助かりました。エントランス改修工事ではメインロビーを移設していただきましたが,大変ではなかったでしょうか。

新岡 大変でした。けれど,なんとかなるものですね。(笑)

眞柳 全館休館したからといって必ずしも工期が短くなるわけではないと伺い,一部閉館という形で営業を続けました。こちらも騒音や振動対策についてわがままを申し上げましたが,しっかりとご対応いただきました。工事期間中,お客様も「何が出来るの?オープンしたらまた来るね」と楽しみにされていました。

新岡 これからも“和”の趣を大切に,時代に合わせて,お客様が求めているものを取り入れた施設づくりを行っていきたいです。そして,お客様に一番に選ばれる宿でありたい。夢は日本一です。
(敬称略)

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