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施工と計画で培われる
若手の柔軟な現場力と
次世代につなぐ思い

東武竹ノ塚駅付近高架化工事

この工事は,まちを東西に分断する2ヵ所の踏切を除去するため,
地上を走る複々線の線路を段階的に高架化する長期プロジェクトだ。
制約が多い都市部の現場を引っ張るのは,ここで鍛え上げられた30代以下の若手社員たち。
現場所長は自らが経験で得たものを彼らにつなごうと,
組織面からサポートをしている。

【事業概要】

東武鉄道竹ノ塚駅付近
高架化工事III工区

  • 場所:東京都足立区竹の塚~西竹の塚
  • 事業者:足立区
  • 発注者:東武鉄道
  • 施工者:鹿島・東武谷内田・熊谷・
    東鉄特定建設工事共同企業体
  • 規模:高架橋(RC構造・鋼構造)約360m
    (4線分:上下急緩行線) 
    高架ホーム島式1面
    (幅員9m,延長170m)
    高架下駅舎および関係施設
    (S造平屋建1式) 
    仮駅本屋(S造2階建)1式 
    仮ホーム島式1面 
    事業線軌道工:1式 
    仮設地下通路工:1式 
    仮設工事:1式
  • 工期:2012年8月~2024年3月(予定)

(関東支店JV施工)

地図
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線路切換ごとに追われるタイトな工程

東京都足立区にある竹ノ塚駅周辺は,大規模な住宅団地を中心とするベッドタウンが広がる。東武スカイツリーライン(伊勢崎線)では,5番目の乗降者数を誇る駅だ。現在,同駅付近の延長1.7kmを連続立体交差化する工事が佳境を迎えている。当社JVは駅部とその前後にある2ヵ所の踏切を含む,延長約360mの工区を担当する。

図版:駅予定地を通過する上り特急列車

駅予定地を通過する上り特急列車

事業を進める足立区に連続立体交差事業の事業認可が下りたのは2011年。工事は,南北方向に延びる4本の線路の西側に下り急行線用の高架橋を構築することから始まった。着工から4年経った2016年に下り急行線の線路を高架橋に切り換えると,そのほかの線路を段階的に西側へ移設。今秋には,東側のスペースに構築した高架橋へ上り急行線用の線路を切り換える。

「当工区は施工量が多く,線路の切り換えに間に合わせるため,昼夜を問わず,必死で工事を進めてきました」。江口元(げん)所長はこのように語る。

完成した上り急行線用の高架橋は予定通り今年5月に軌道工事に引き渡した。ほっとしたのも束の間,現場は後に控える緩行線の高架橋工事の計画に余念がない。竹ノ塚駅には,緩行線を走る普通列車だけが停車する。次はいよいよ駅舎の施工だ。

図版:江口元所長

江口元所長

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図版:高架化の手順
現場平面図
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図版:南側から見た工区全景と第37号踏切

南側から見た工区全景と第37号踏切。
左奥の高架橋は下り急行線,手前が建設中の上り急行線,2020年5月撮影(現場撮影)

図版:駅舎イメージパース(東武鉄道提供)

駅舎イメージパース(東武鉄道提供)

施工で培われた現場力を計画へ

プロジェクトの序盤では,線路の下を横断する仮設の駅地下通路の工事も進められた。橋上駅舎や歩道橋は,高架橋建設の支障になるので,代わりとなる施設を地下に確保する必要があった。

江口所長は入社26年のキャリアの大半が,東武鉄道の発注する鉄道工事だ。伊勢崎線の北千住駅改良工事など3つの現場では,営業線直下に地下構造物の構築を手掛けた。その経験から,2012年にこの現場で地下通路を担当することになった。

当時現場の次席だった江口所長のもとに,地下通路の工事の途中から配属されたのが亀田卓志工事課長だ。「地下通路の掘削終盤から現場に加わり,地下通路の躯体工事を担当しました。その後,計画グループに移り,高架橋工事の詳細計画立案を任せてもらうことになりました」と,亀田課長は振り返る。

二人はともに,2013年に完成した東武伊勢崎線の終点伊勢崎駅の高架化工事を担当していたことがある。亀田課長の仕事ぶりをよく理解していた江口所長は次のように説明する。「従来のやり方では,工期内に間に合わないような現場です。そこで,河川工事や災害復旧工事などの施工経験も豊富な亀田課長を,課題解決に対する柔軟な発想に期待して,計画グループのリーダーに指名しました」。

図版:亀田卓志工事課長

亀田卓志工事課長

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図版:下り緩行線と仮ホーム

下り緩行線と仮ホーム。上の高架橋は下り急行線。右手奥に仮地下通路へ続く階段が見える

若手の柔軟な発想で工法を変更

「計画を担当するようになり,工事完成までのステップを繰り返し検証しました。その中で,踏切上に架設する長さ約30mの橋梁を,大型クレーンではなく別の方法で架設できないか模索するようになりました」。亀田課長がこのように話すのは,駅南側にある第37号踏切,通称「大踏切」の上空に架ける合計4本の橋梁のことだ。

2015年に1本目に施工した下り急行線用の桁は,3つの主桁を1本ずつ,クレーンで架設した。2本目となる上り急行線用の桁も同様のやり方で施工できる。だが,残る3本目,4本目は供用中の2本の橋梁に挟まれる。そのうえ,地上の仮線の線路や架線に近接するので,大型クレーンによる架設は明らかに困難だった。

図版:2015年に実施したクレーンによる第37号踏切直上の桁架設(現場撮影)

2015年に実施したクレーンによる第37号踏切直上の桁架設(現場撮影)

協力会社も交えて架設計画を吟味した結果,今年4月に実施した2本目の橋梁は送り出し工法で架設することになった。高架橋上で組み立て桁を隣接する架設地点の方向へ水平に移動させ,地上に配置した大型多軸台車で受け替え,さらに移動する。大型多軸台車に搭載した大型ジャッキにより降下作業まで一連の流れで行うことが可能で,クレーンを使わず,桁を一括で架設できる。

大型多軸台車を道路橋の桁架設などに使った事例は多々あるが,今回の架設のように送り出し架設と組み合わせるのは稀だ。工事を発注する東武鉄道にとって初の試みだった。

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「安全で確実な工法であることを関係各所に理解していただく必要がありますが,施工のイメージを平面図上で説明しても,なかなかうまく伝えられず苦労しました」と話すのは,亀田課長とともにこの架設計画を具体化していった大草陽太郎工事係だ。

入社10年目の大草工事係は入社した翌年,着工直後のこの現場に配属された。当時は施工グループとして,高架橋を担当していた。

説明に苦慮した大草工事係が目を付けたのが,CIMだ。現場の状況を点群データとして3Dスキャナーで取得し,これに3D-CADで描いた桁や大型多軸台車の位置を施工ステップごとに再現した。画面上で任意の視点から見た工事の状況を表現できる。大草工事係は「複雑な施工ステップを関係各所に説明する際,スムーズに理解してもらえました」と,その効果を語る。

図版:大草陽太郎工事係

大草陽太郎工事係

図版:2020年4月に実施した大型多軸台車を用いた送り出し工法による第37号踏切直上の桁架設

2020年4月に実施した大型多軸台車を用いた送り出し工法による第37号踏切直上の桁架設
photo: 石島邦彦

図版:点群データと3D-CADを組み合わせて作成した送り出し架設のイメージ

点群データと3D-CADを組み合わせて作成した送り出し架設のイメージ。左の画像が送り出し前,右が送り出し途中。
上段が俯瞰での視点。下段が地上での視点。赤い部分が架設した桁本体を表す

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実務経験を反映したCIM活用

全社的にCIMが推進された2016年は,既に着工から4年が経過していた。「すべてを適用するのは,必ずしも効率的ではありませんでした。現場の実態に合わせて,的を絞った活用を心掛けました」と江口所長は話す。

初めて本格的に活用したのは,下り緩行線を仮ホームに一夜で移設した2017年だ。作業手順を説明した動画をCIMで作成し,作業員に施工イメージを周知した。

その後,クレーン作業時の支障物のチェックといった施工計画の検証に活用した。現在は土木と建築が一体となって,CIMを使った駅部の施工計画を進めている。手順の違いによっては,クレーンで施工できなくなる範囲が生じるため,タイトな工程の中,手戻りになるリスクを未然に防ぐのが狙いだ。「パズルを埋めるような綿密な計画には,CIMは欠かせません」(江口所長)。

図版:CIMで作成した作業説明用イメージ画像

CIMで作成した作業説明用イメージ画像。下り緩行線の仮ホーム移設時に用いた。
黄色い部分は当日一夜で撤去する範囲を示している

こうしたCIMの導入を現場で取り組んできたのが,今春まで計画グループに在籍していた神崎真吾担当(現在,土木設計本部地盤基礎設計部鉄道・基礎グループ)だ。「この現場に来てからCIMに携わるようになりましたが,正直ここまで活用できるとは想像していませんでした。ただ,複数あるツールをそのまま現場に適用できるわけではなく,現場自らが声を出して,改善していくことの大切さも感じています」。入社3年目に土木設計本部からこの現場に配属され,3年間で施工グループと計画グループをそれぞれ経験。現場の醍醐味を実感できたという。

図版:神崎真吾担当

神崎真吾担当

図版:2018年に上り緩行線を移設した際の様子(現場撮影)

2018年に上り緩行線を移設した際の様子(現場撮影)

現場で鍛えられるリーダーシップ

施工グループで現場の最前線を率いるのも若手だ。「若手社員を現場のリーダーに据えることで,鹿島の社員として,現場を引っ張る自覚を持たせるようにしています」と,江口所長は話す。鉄道営業線に近接する工事であるが故に,施工中,社員が常に現場に張り付く。そのことは,若手を育成するうえで有利だという。

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新入社員のときから,この現場で鍛え上げられた入社5年目の蔦尾亮太工事係はこう話す。「現場内のコミュニケーションが密で,勤務シフトで自分が不在になるときも,同僚だけでなく,協力会社にも気軽にフォローをお願いしやすい雰囲気があります」。

この現場では,JV所員全員がシフト勤務による所定休日の完全取得を実行している。これは江口所長が入社2年目に配属された北千住駅の現場での経験が大きく影響しているという。江口所長は当時のことを次のように振り返る。「休工日なしで昼夜フル稼働している現場でしたが,当時(25年前)としては珍しく,社員は完全週休2日制でした。ただ,先輩が休日の時は,すべて自分がやらなければなりません。最初のうちは失敗や大変な経験もしましたが,逆に厳しい環境が,図面を読み込んだり,現場をよく見たりすることにつながりました。そうした自分のやり方によって,徐々に協力会社がついてきてくれるようになり,経験の足りなさをカバーできるという自信がつきました」。

図版:蔦尾亮太工事係

蔦尾亮太工事係

蔦尾工事係をはじめ若手社員3名が担当する建物や道路,線路に挟まれたエリアは,まさにうなぎの寝床のような現場だ。現場への搬入口は端部に限られる。そこで,線路と線路の間の空いたエリアから線路上空を跨いで,資材を搬入した。作業できるのは,夜間の2時間20分のみ。その間に1日分の材料を搬入する。多過ぎると現場が手狭になり,逆に少ないと作業が進まない。

「毎回使用する材料の種類と量が異なるので,日々の実績を見て判断するしかありません」と蔦尾工事係は話す。軌道に乗るようになると,搬入と並行して鉄筋を組むなど,より一層の効率化を図った。

かつての施工グループで蔦尾工事係を直接指導し,現在は計画グループから成長を見守る亀田課長は次のように話す。「現場を任せられた若手は,責任感を持って仕事に取り組みます。わからないことは先輩に質問したりと意欲的で,目に見えてレベルアップしています」。

江口所長が大切にしてきた「技術と思いをつなぐ」という信条は,こうして先輩社員から後輩へ確実に受け継がれている。

図版:JV所員集合写真

JV所員集合写真

photo: 大村拓也(現場撮影以外は同氏撮影)

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