ホーム > KAJIMAダイジェスト > August 2021:特集 カーボンニュートラルと建設業 > CO2-SUICOM

CO2-SUICOM

経済産業省が策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」にて,
当社CO2-SUICOMの名が取り上げられ,話題となっている。
コンクリート製造の常識を覆した画期的なコンクリートの仕組みと実例を解説。

国内唯一の実用化コンクリート

「CO2-SUICOM®」(シーオーツースイコム,以下スイコム)とは,「CO2-Storage Utilization for Infrastructure by COncrete Materials」の略称(商品名)で,コンクリートが固まる過程でCO2を吸い込み,コンクリート内部に固定することでCO2排出量がゼロ以下となる,究極の環境配慮型コンクリートだ。

これは2008年に,当社・中国電力・デンカ(のちにランデスが参画)により世界で初めて開発した技術で,すでに商品として実用化されているものでは国内唯一のCO2吸収コンクリートである。

2020年10月に菅首相が「2050年カーボンニュートラル」,脱炭素社会の実現を宣言したことを踏まえ,経済産業省は同年12月「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定した。その中で,具体的に実用化されたCO2吸収型コンクリートの例として「CO2-SUICOM」が取り上げられ,世界から注目を浴びている。

図版:CO2-SUICOM(スイコム)の仕組み

CO2-SUICOM(スイコム)の仕組み

改ページ

製造中にCO2を「吸い込む」

コンクリートは,セメント,砂利(粗骨材),砂(細骨材),水の4つの材料で構成される。その中の主要な材料であるセメントは製造過程において主原料である石灰石(CaCO3)を1,400℃以上の高温で焼成するため,大量にCO2が発生する。地球温暖化問題が叫ばれる中で,これが長年課題となっていた。

前ページで紹介した低炭素コンクリートのように,セメントをほかの材料に置き換えることでCO2排出量を低減できるが,ゼロにはならない。そこで当社は,セメントと基本的に同じ成分である特殊混和材(γ-C2S(ガンマシーツーエス))の利用方法をデンカと共同開発。この混和材は水ではなく,CO2と反応して硬化する性質をもつ。セメントの半分以上をそのγ-C2Sや産業副産物などに置き換えたのがスイコムで,製造中にCO2を文字通り「吸い込む」。材料を置き換えるCO2の排出量低減効果に加え,CO2を実際に吸い込む量を加えることで,トータルのCO2排出量ゼロ以下を実現した。コンクリート製造の常識を覆した画期的なコンクリートなのである。

コンクリートは,セメントと水が水和反応を起こして硬化することで強度を得る。固まるまでの保護や処置を養生というが,スイコムは,セメントの代替である特殊混和材γ-C2Sと,高濃度のCO2を養生槽の中で接触させ(炭酸化養生),大量のCO2を強制的に吸収させることを可能にしたコンクリートだ。現在実用化しているものは,そのγ-C2S自体を化学工場で発生する産業副産物(副生消石灰)を原料とする上に,供給するCO2には火力発電所の排ガスなどを利用する。産業副産物の有効利用と,コンクリートへのCO2の大量固定により,スイコムはつくればつくるほどCO2を削減するのである。

図版:炭酸化養生システムによるスイコムの製造

炭酸化養生システムによるスイコムの製造

改ページ
図版

一般的なコンクリートブロック製造時のCO2排出量は288kg/m3。セメントの代替に特殊混和材,高炉スラグ,フライアッシュを使うことでCO2は197kg/m3削減,さらにコンクリートの炭酸化反応によるCO2固定量が109kg/m3で合計306kg/m3削減となる。つまり,CO2-SUICOMはCO2の排出量を18kg/m3マイナスにできる

PROJECTS

CO2-SUICOMの活用
――土木・建築事例

製造過程のCO2排出量がゼロ以下になるコンクリートとして実用化された国内唯一のCO2吸収型コンクリートであるスイコム。その大きな特長は,炭酸化養生により表面が緻密になることで海水などの浸食を防ぐため,過酷な外部環境にも対応できることだ。またアルカリ度が低く中性に近いため,自然環境にやさしく,生物との共存にも適している。そのため,2011年からスイコムは土木分野でコンクリートブロック,コンクリート埋設型枠,プレキャストコンクリートパネルのコンクリート製品など,各所に使われてきた。

建築分野では,2012年,Brillia ist 中野セントラルパークのバルコニー天井部分に初めて採用。一般にバルコニーなど長期にわたって外気に曝される部位に用いる鉄筋コンクリートは,中性化により劣化が生じる懸念があるが,スイコムを用いることで躯体コンクリートの保護にも有効とされる。建物のモジュールに合わせて目地のない大型パネル(3,985mm×1,305mm×40mm)で製造でき,意匠性の観点からも建築分野に適用しやすい製品となっている。

今後も採用プロジェクトを検討中であるほか,適用範囲を広げる技術開発にも取り組んでいる。多くの実例を身の回りで見られる日も遠くない。

改ページ
図版:道路の境界ブロック

道路の境界ブロック

図版:埋設型枠としての使用例

埋設型枠としての使用例

図版:中国電力福山太陽光発電所全景(広島県福山市)

中国電力福山太陽光発電所全景(広島県福山市)

図版:舗装ブロック

舗装ブロック,境界ブロック,
フェンス基礎ブロックに採用している。写真は舗装ブロック

改ページ
図版:Brillia ist 中野セントラルパーク(東京都中野区)

Brillia ist 中野セントラルパーク
(東京都中野区)

photo:Nozomu Shimao / SS

図版:バルコニー天井部分に採用している

バルコニー天井部分に採用している

改ページ
NEWS

世界初! 都市ガス機器の排ガスから
コンクリートを製造

今年7月,東京ガスと当社は,都市ガス機器利用時の排ガスに含まれるCO2からCO2-SUICOM(スイコム)を製造する技術に共同で取り組むことに合意。東京ガス千住テクノステーション(東京都荒川区)にて地先境界ブロックの試験製造を行い,同社日立LNG基地の外構工事に導入した。都市ガス機器利用時の排ガスを活用したコンクリートの製造は世界初の試みとなる。

今後,無筋プレキャストコンクリートブロックを中心に本格的な商品化に向け,CO2固定量をさらに増加させる技術開発を進める予定だ。これからもCO2の削減と脱炭素社会の実現に貢献していく。

図版:スイコム製造試験設備

スイコム製造試験設備
(東京ガス千住テクノステーション)

図版:試験製造したスイコム

試験製造したスイコム
(地先境界ブロック)

図版:東京ガス日立LNG基地で設置されたスイコム

東京ガス日立LNG基地で設置された
スイコム

ContentsAugust 2021

ホーム > KAJIMAダイジェスト > August 2021:特集 カーボンニュートラルと建設業 > CO2-SUICOM

ページの先頭へ