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特集 カーボンニュートラルと建設業

「2050年温室効果ガス排出ゼロ」を呼びかける国際社会。
当社は2013年に「鹿島環境ビジョン トリプルZero2050」を策定,
「低炭素」「資源循環」「自然共生」を軸に環境配慮型社会の構築に取り組んできた。
今月の特集では,カーボンニュートラルに向け
いよいよ本格化する建設業の動きの中で,
当社が目指す指標や具体的活動,プロジェクトを紹介する。

図版:新しい成長戦略としての「カーボンニュートラル」

図版:常務執行役員・環境本部長

常務執行役員・環境本部長
新川隆夫

昨秋の菅首相の所信表明演説や経済産業省の策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」は多くの人に衝撃を与えつつも,時代の流れとして受け止められています。エネルギーは日本社会にとって重要な要素であり,これまでも日本の社会構造はエネルギー転換と共に大きく変化を遂げてきました。

「2050年カーボンニュートラル」に対し,かつての建設業界であれば各社が同じ方向に取組みを進めていましたが,これからは企業,業界ごとに戦略の違いが強く出てくるでしょう。つまり,これは新しい成長戦略として捉えるべきチャンスと考えています。

このほど,当社グループでは政府の方針や顧客からの要請を踏まえ,脱炭素目標を見直しました。

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カーボンゼロへの施策として,大きくは事業から排出されるCO2削減の検討と,カーボン・オフセットが考えられます。前者については,「徹底的な省エネルギー」「重機のハイブリッド/電動化,燃料の低(脱)炭素化」および「使用電力の脱炭素化」また後者については,「再生可能エネルギー電源への投資」「カーボンクレジットの取得」そして「CO2フリー水素など次世代エネルギーの調達・使用」という施策を検討しています。

※カーボン・オフセットとは日常生活や経済活動において避けることができないCO2などの温室効果ガスの排出について,まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行い,どうしても排出される温室効果ガスについて,排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資することなどにより排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方(環境省ウェブサイトより)

温室効果ガス(CO2)排出量削減目標としてカーボン・オフセットを含め,スコープ1とスコープ2を対象に,(2013年度比)2030年度50%削減,2050年度100%削減(カーボンニュートラル)を設定。一方,スコープ3については「鉄・セメントの製造時排出」や「建物運用時の排出」などを対象と捉え,2023年度でのSBT取得を目指す

スコープの分類と考え方。スコープ1は自社(重機使用などによる直接排出),スコープ2は発電所など(電力供給による間接排出),スコープ3は関連する他社,いわゆるサプライチェーンの排出を指す

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生産性向上とセットで

現場におけるCO2削減について当社は,2013年から生産性向上とセットにして取り組んできており,すでに20%削減を実現しています。早い段階から「トリプルZero(ゼロ)」を掲げてきたひとつの成果ですが,今後は現場で減らすだけでは成り立たないわけです。

さらなる徹底的な省エネに向け,当社は環境データ評価システム(edes)を用いて2020年度から全現場のCO2排出量データを月単位で把握しています。これは建設業界で最も早い取組みです。現場におけるCO2削減においては,このデータに基づいて排出量予測管理(eカツ)を行います。edesとeカツをセットで運用していくことで,それぞれの現場で排出量のシミュレーションができ,生産性向上と結び付けながらの削減活動でCO2排出量のいわば予算管理を推進していきます。

カーボン・オフセット

現場での削減によってもなお不足する削減量を,グループ全体での再生可能エネルギー電源への投資などのカーボン・オフセットで賄います。月報5月号でも特集した洋上風力や,太陽光発電などの再生可能エネルギー電源への投資,当社グループが保有する森林も炭素固定によるカーボンクレジットとなります。昔から当社グループが社有林をもっていたことは,こうした点でも先見の明があったと思います。

加えて,今注目されているのが低炭素コンクリート由来のクレジットです。当社が開発したエコクリート®はカーボンクレジットの取得が可能になりました。そして,今テレビなどでも多数報道されているCO2-SUICOM®(スイコム)です。

スイコムが注目を浴びているのは,ひとつにはそのキャパシティの大きさです。たとえば2020年度当社は約275万m3のコンクリートを使用しましたが,そのうち約半分にスイコムが使われ,そのクレジットが得られると,当社の排出するCO2のほとんどがオフセットされます。今後,脱炭素化が進行するにつれ,そのCO2吸収能力はさらに注目されるでしょう。

また,ライフサイクルをCO2の視点で見直した場合には建設時も重要ですが,建造物が一生涯にCO2をどれだけ出すのかと考えることも大切です。その結果,製造時に低炭素で製造される建材の使用や,ZEBのように建物運用時のエネルギーまでを考えに入れることで,どんなアレンジになるのか,どういうレイアウトになるのか考えが違ってくるだろうと思います。こうした価値観の変化する時こそ,今あるものを見直すべきです。スイコムは10年前(2011年)に実用化された技術です。非常に地道に続けてきたことが,日の目を見る状況に変わりました。第二,第三のスイコムのようなポテンシャルを秘めた技術が当社にはまだ潜んでいるかもしれません。

まちづくりとエネルギー

冒頭でもお話ししたように,エネルギーと社会は切り離せない関係にあり,これからの地域の時代には,まちづくりや,まちのありかたそのものにエネルギーが密接に関係していきます。当社は発電所などをはじめ地元や地域と密接な仕事をしてきており,まちづくりにも大きく関わってきているといえます。本特集でも紹介する「しかおい水素ファーム®」のある,北海道鹿追町と「地域スマートソサエティ構想」連携協定を締結し,喜井知己町長をはじめ,町の人たちと未来図を描き,そこに必要なピースを当てはめていく取組みが進んでいます。

北海道に限らず,日本の各地では今,人口減少や,地域産業などへの課題を抱えています。特に北海道は2018年の胆振(いぶり)東部地震によるブラックアウトの経験があったことで,地産地消のエネルギーによっていかに地域を存続させるかという意識をお持ちです。そういったことの解決に当社が持っている技術を活かして,一緒に答えを探すことができると思います。

建設業界なり,鹿島なりの,ハードだけではないソフト的なノウハウによって,まちの姿をつくることができるのではないかと考えています。

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