「大宮」で進行する
駅周辺再開発の
リーディングプロジェクト
大宮駅東口大門町2丁目中地区
第一種市街地再開発事業施設建築物等
新築工事
JR大宮駅東口大門町2丁目の再開発として進行中の大規模複合施設新築工事では,
その規模や構造的特徴,工程上の問題から「逆打(さかう)ち工法」を採用。
免震装置と取り合うことから構真柱(こうしんちゅう)の施工精度確保に向けた取組みのほか,
エレベータの吊シャフト構築工事やホールの足場計画など,現場のさまざまな挑戦を紹介する。
【工事概要】
大宮駅東口大門町2丁目中地区
第一種市街地再開発事業施設建築物等
新築工事
- 場所:さいたま市大宮区
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発注者:大宮駅東口大門町2丁目中地区
市街地再開発組合 - 設計:山下設計
- 用途:公共公益施設,店舗・業務施設,駐車場
- 施工:鹿島・松永建設特定業務代行共同企業体
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規模:S造一部SRC造(地上),
SRC造一部S造(地下)
B3,18F,PH1F 延べ82,043m2 - 工期:2018年3月~2021年10月
(関東支店JV施工)
地域のシンボルとなる大規模複合施設
「東日本の玄関口」として東日本全体の発展を牽引する役割を担うJR大宮駅。いま駅周辺の再開発事業が進められている。なかでも本施設は,大宮駅東口のリーディングプロジェクトとして新たな魅力の創出や周辺地域とのつながりなど,今後の地域活性化のシンボルになるものと期待されている。
本施設は,低層階が商業施設となる。また中層階には「さいたま市民会館おおみや」が移転し,大ホール・小ホール,集会室,展示室,スタジオなどを兼ね備えた公共公益施設階となる。高層階には業務・オフィス,地下階には駐車場が配される。
「もともと低層階は,3階床を先につくってタワークレーンの構台とし,鉄骨ヤードや荷捌きを行う場所にしていたため,後施工となっています」とこの現場を取り仕切る安井啓(やすいひらく)所長は工事の進捗状況を説明する。
現場を訪れた4月時点では,すでに躯体・外装工事が完了。これからは1~9階の商業施設・公共公益施設階が施工のメインとなり,約半年後に控える竣工日へ向けた工事が進んでいた。
柱頭免震取付けでの逆打ち工法
逆打ち工法は,1階床を先につくって地上と地下を同時に施工する方法だ。一般的に,工期を大幅に短縮でき,工事中の騒音も低減できるという利点がある。しかし,今回この工法を採用した理由はそれが主ではない。地盤の状態を考慮し,また敷地のほぼ全面に建物が建つ計画であることから,先に地下階をつくり地上階を順次積み上げていく順打ち工法では,地下階の山留め壁の構築が非常に難しいという状況があったためだ。「逆打ち工法で先に1階床を構築し,それを支えとして山留め壁をつくることを考えました」と安井所長はこの工法を採用した経緯を説明する。
さらに,逆打ちした構真柱の柱頭に免震装置が取り付けられるという構造上の特徴があった。「柱頭免震取付けで逆打ち工法を採用したのは,当社では東京建築支店で1件あるぐらい。ほとんど実績がありませんでした」。安井所長は状況を考察したうえで逆打ち工法を選択した。
±0mmの精度目標に挑戦
現場では,逆打ち工法の経験者が安井所長含め,たった2人しかいなかった。構真柱の設置計画を託された三ノ輪幸弘工事課長も初めて経験する1人だ。
まず三ノ輪工事課長が取り組んだのは,社員の経験不足を補うため,施工検討会や勉強会を開き,社員全員の管理能力向上を図ることだった。「JVを組む地元の松永建設さんといっしょに,本社や東京建築支店の力を借り経験値の底上げに取り組みました」。
構真柱は長さ約20m,最大重量約40t,製作はタイで行った。形状はクロスH型で柱頭部ほど幅広くなっており,のちに頂部へ免震BPL(ベースプレート)を一体化したハーフPCaを取り付ける。構真柱や免震BPLとも各工場でそれぞれの製作基準内で製作されるため,正規寸法からの誤差(公差)はその後の取付け精度に大きく影響する。構真柱設置レベルは,それらの公差を踏まえたものとしなければならない。さらに柱頭に取り付けられる免震装置やオイルダンパーなどの種類によって設置レベルが異なる。通常,構真柱の施工だけであればそれほどの精度は求められない。しかし,当現場では構真柱の柱頭に免震装置が取り付けられるため,±3mm以内という極めて高い施工精度が求められた。そこで「施工精度の目標をあえて±0mmに設定し挑戦しました」。三ノ輪工事課長はQC工程表を具体化した「施工1(ワン)シート」を全93本の構真柱に対して作成。そこに公差や設置レベルのほか,鉄骨・鉄筋の情報,コンクリート打設や溶接管理の方法など,必要な情報をすべて数値化して書き込み,品質管理を行った。「まず間違えないためにはどうすればよいかということを念頭に置いて考えました」と施工1シート発想の原点を語る三ノ輪工事課長。これにより各担当者の管理レベルを高めて均一化し,現場で計算を誤るなどのヒューマンエラーを徹底的に排除した。「これを見れば誰も間違えないといえるものを,魂を込めてつくりました」。
完了後の品質検査では,すべての免震装置が±0mmに近い±3mm以内に納まっていた。「このシートを完璧に仕上げたことが成功の鍵となりましたね」。安井所長はこの挑戦を高く評価する。
現場最大のクリティカルパス
「着工前から6号機エレベータ(EV6)の本設稼働がこの現場最大のクリティカルパスだといわれていました」と三ノ輪工事課長は当時の状況を振り返る。
EV6は地下3階から最上階の18階までつながる。しかし,その位置が逆打ち躯体工事を進めるために活用せざるを得ない大きな開口部のなかにあり,本来であれば基礎工事が完了するまでシャフト工事に着手できない。さらに,それを待っていると小ホールなどを占有している工事用仮設EVが一向に撤去できず施工が進まないため,EV6を先行して構築し,本設稼働させることにした。
シャフトの地下部分はグループ会社「アルテス」と一体となって検討し,1階床からの吊シャフトにする計画にした。反力を得るため,RC仮設梁と鋼材仮設柱を設置してPC鋼棒の先行緊張を行った。
「施工数は増えてしまいましたが,全体の工期を大きく短縮することができました。また,その結果,躯体クラックなどの発生もなく,品質確保,安全性の担保につながりました」。加えて,三ノ輪工事課長はシャフト壁のPCa化を行った。非常に狭小のなかでの作業となるため,大幅に作業効率が落ちる懸念があったが,PCa化したことで歩掛が上がり,工程短縮,作業効率向上につながる効果が得られた。
早期の工事計画とあらかじめ必要な作業や処理を明確に定め,事前に問題点を解決していたことで,当初予定していたマイルストーンより10日ほど前倒しすることができた。
足し算で考える大空間の足場計画
本施設の中層階には大小2つのホールが入る。大ホール(1,400席)は6階から東側屋上にあたる11階まで,小ホール(340席)は西側7・8階吹抜けとなる。
この2つのホール施工を任されたのは,入社14年目の福田孝裕工事課長代理だ。「ホールの建設にはさまざまな工種がかかわってきます。1つのホールがまるで1つの現場かと思うぐらいの工種の多さでした」。工事計画段階では舞台の専門用語を勉強することも必要になった。作業手順が複雑となるため,約1ヵ月かけてクリティカルパスを落とすことがないよう工程を細かく書き出し,計画を立てた。
「足場は足し算で考えていきました」という福田工事課長代理。最終仕上げに必要な足場を最初に考え,そこから手順を逆算し1層ずつ加えていくというという考え方だ。たとえば,本ホールは遮音構造のため壁が2重になっているが,まず最内側の壁となる「浮遮音壁」のための足場を考え,次に「固定遮音壁」と呼ばれるその外側の壁のための足場を足していく。さらに各施工ステップに合わせて足場のステージレベルを変更するなど,全体を3次元的に捉えながら足し算の考え方で計画する。
「足場組みでは脚の位置決めが重要になります。組み始めの際には,必ず協力会社に墨出ししてもらって位置を決めました」と福田工事課長代理は力の入れどころを説明する。ほかにもタワークレーンに頼らない大型機器の搬入方法や,遮音構造特有の納まりを確実に実行するための管理方法など,さまざまな検討を重ねた。
「三ノ輪工事課長はクリティカルな部分ですが完成するとすべてが隠れて見えなくなるところ,福田工事課長代理の担当するホールはこの施設でいちばんの見せ場ともいえるところ,2人の担当工事は非常に対照的でしたね。彼らの挑戦を含め,所員,協力会社1人ひとりの働きでようやくゴールが見えてきました」と工事の困難さを熟知する安井所長は皆の労をねぎらう。
工事完了まであと3ヵ月,これからは商業施設・公共公益施設階の内装工事が施工の中心になる。
自動計測器の開発
従来の構真柱の位置管理は,表層ケーシングに基準を罫書きし,罫書部に水糸を張って,人の手でスケールを当てて管理した。しかし,スケールの当て方や数値の読み方は人それぞれ異なるため,精度を定量化できる手法とはいえない。そこで当現場では山留の計測器を扱っている会社に協力してもらい,“タイムリーに・高精度で・関係者全員で可視化できる”ことを目標にした「自動計測器」を開発した。
この自動計測器は,高精度で計測できる距離計と位置情報を正確に可視化するための自動水平機能付きレーザー墨出し器が取り付けられており,専用タッチパネル盤に構真柱の位置情報が表示される仕組みだ。
構真柱の調整は,3方向に設置した自動計測器の計測データを確認しながら調整架台で行う。X・Y・Z方向やねじれ方向を調整,水中ジャッキで位置固定し,すべての免震装置の設置位置±3mm以内を実現した。
なお,開発した自動計測器は2020年12月に特許を取得している。
現場で活躍中の女性社員3人から一言!
●北野由樹さん[工事係・11年目](写真右)
前の大規模施設の現場で2年半ほどさまざまな工事を経験し,昨年5月末から本現場に配属。現在は主にホールの躯体工事と防水工事を担当している。「たくさんの工種がかかわるなか,ものの置き方や人の動線など調整が大変ですが,うまく工事を進めていくことにやりがいを感じています」
●安部彩華さん[設備工事係・3年目(5月から東北支店に配属)](写真中央)
入社して初めての現場配属となった本工事。現在,内装と設備工事の進捗管理を担当している。「来週には特別高圧受電を控えています。工程の進捗管理上,キーデートとなるため気が抜けませんが,自分の調整でうまく現場が流れていくのを感じたときには達成感があります」
●澤野詩帆さん[設備工事係・2年目](写真左)
この現場にきてまだ半年だが,安部さんの業務を引き継ぎ,これからは1人で設備工事の進捗管理を担当する。「最初難しいと感じていたスケジュール調整が,最近少しずつできるようになってきたことは自身が成長できている部分だと思います。責任を持って頑張っていきたいです」