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折りと包みと結びと歳時

花火の包み

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線香花火は、その燃え方が段階ごとに、蕾、牡丹、松葉、散り菊と変化し、
まるで人生のようだと、たとえられています

迎え火と送り火

「お盆」とは,盂蘭盆会(うらぼんえ)のこと。仏教行事でしたが,日本古来の祖霊信仰と習合しています。地域や風習の違いがありさまざまですが,「盆と正月」は一年の節目とされ,昔は奉公人にも休みが与えられ故郷に帰る習慣がありました。今日では旧暦で行う旧盆が一般的で,盆の入りが8月13日で盆明けが8月16日の4日間となっています。

お盆には多くのところでは,「迎え火」と「送り火」が行われています。迎え火は,盆の入りの黄昏(たそがれ)時に,まずお墓の前の灯籠に火をつけ,その火を提灯(ちょうちん)に移して家に持ち帰り,家中の明かりをその火に改めて,盆の間は絶やさぬようにするというしきたりがあり,この明かりで「お出(いで)やれお帰(かえ)りやれ」としてきました。しかし,民俗学者の柳田國男によればこの仏教のしきたりも,日を拝みまた雷火(らいか)を崇信(すうしん)した古い神道や,遠く火の発見の時代にまで遡(さかのぼ)ることができるかもしれないと言われています。仏教伝来以前の祖霊信仰と,さらに遡って火に対する人類の根源的な畏怖の感情が相まって迎え火と送り火の風習が生まれたようです。

日本人は一神教ではなく,八百万(やおよろず)の神を崇(あが)め,正月には門松を立て依代(よりしろ)とし,年神様(としがみさま)を招来し,松が取れるまでの7日間は家の中にいていただく習慣を持っています。

一方,盆の間の4日間は火が依代となり,祖霊を迎えて共に過ごします。そう考えると,櫓(やぐら)を組み提灯を掲げ,円陣で舞う盆踊りも,精霊舟で灯籠などを流す精霊流しも,そして今回取り上げる「花火」にも意味深い「火」が関わっているのです。

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花火職人によって心を込めて調合した火薬を手染めの和紙に包み撚ってある
『不知火牡丹』(筒井時正玩具花火製造所)。その手染めの紙縒りをもどし、結びにほどこしている

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花火は日本の風物詩

花火のルーツは黒色火薬で7世紀の中国で発明され,16世紀に鉄砲と共に日本に伝来したとされていますが,その後,火薬から花火が作られるようになりました。国王から親書を携え来日した英国人が,中国渡りの手筒花火を徳川家康に献上したという話や,また,伊達政宗は中国渡りの花火を楽しんでいたという記録が残っていたりします。さらにそれ以前にもイエズス会の宣教師たちが,花火を仕掛けて人々を驚かせたという話も伝わっています。異国の香りを漂わすハイカラな風物として花火は珍重されていたようです。

こうした中で,庶民が気楽に楽しめる鼠(ねずみ)花火や線香花火が玩具としてはやり,あっという間に人々を魅了しました。しかし,花火が原因の火事が多発し慶安元(1648)年には江戸市中での花火禁止のお触れも出されています。

その後,八代将軍吉宗の時代には,隅田川の川開きの際に川施餓鬼(かわせがき)*が執り行われ,その際に花火を打ち上げたのが好評を得て恒例となり,現代に続く納涼行事となったようです。

今回,ご紹介する折形で包まれた花火は,純国産線香花火「不知火(しらぬい)牡丹」です。この線香花火は四段階の変化を楽しめる花火で,最初は蕾,次に牡丹,松葉となり,最後に散り菊と時間を追って火花の姿が変化します。手漉き和紙と,手で撚(よ)る紙縒(こよ)りの伝統の技術がそれらを支えているのはいうまでもありません。

迎え火を焚いて祖霊を受け入れ,その魂と共に過ごし,送り火で天へと帰す。お盆には静かな時間を取り戻し,しめやかに御霊(みたま)の安泰を祈りたいものです。

今回は半紙で折る折形の折り手順を示しましたので,気持ちを込めて,折形で包み,贈り物にしていただけたらと思います。

*川での死者の霊を弔うため川辺や船中で行う法会

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①書道用半紙を1/4に裁断。それを横位置に据え右上を折り下げ折り筋をつける

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②左下を折り上げ折り目をつける

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③折り目を垂直の位置に回転させ、三角形を返し返しで三等分に折る

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④右側も同様に折る

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⑤左側の真ん中の三角形を右側にかぶせる

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⑥完成。上のように花火の紙縒りをほぐしたものを水引きに見立てて、中心を撚って結ぶ

参考文献:
柳田國男『年中行事覚書』講談社学術文庫,1977
折形デザイン研究所+小澤實『半紙で折る折形歳時記』平凡社, 2004

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やまぐち・のぶひろ

グラフィックデザイナー/1948年生まれ。桑沢デザイン研究所中退。コスモPRを経て1979年独立。古書店で偶然に「折形」のバイブルとされる伊勢貞丈の『包之記』を入手。美学者・山根章弘の「折形礼法教室」で伝統的な「折形」を学び、研究をスタート。2001年山口デザイン事務所、同時に折形デザイン研究所設立。主な仕事に住まいの図書館出版局『住まい学大系』全100冊のブックデザイン、鹿島出版会『SD』のアート・ディレクターなど。著書に『白の消息』(ラトルズ、2006)、『つつみのことわり』(私家版、2013)、句集『かなかなの七七四十九日かな』(私家版、2018)など。2018年「折りのデザイン」で毎日デザイン賞受賞。

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