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鼎談 CO2-SUICOM, 開発から展望を語る

CO2-SUICOM(スイコム)は約10年前に実用化されたが,そもそもの開発の発端は,
別の機能性コンクリートにあった。
その開発のきっかけから,CO2吸収型コンクリートへと展開した道のり,そして課題と展望とは。
当時の開発担当者で今は東洋大学で教鞭を執る横関康祐教授と,スイコムの今後の展開を牽引する
坂井吾郎当社技術研究所主席研究員,開発に長年携わる取違(とりちがい)剛 同・上席研究員が語った。

古代コンクリートにあった
「炭酸化」

横関

古代ローマやイスラエルの遺跡が今も健全な状態で残っているように,現在の製法とは異なるもののコンクリートは歴史のある建材です。30年前から,技術研究所(以下,技研)ではコンクリートの長期耐久性を研究していました。そのなかで,中国・西安市の郊外にある大地湾遺跡から発掘された5,000年前の住居跡のコンクリートを調査したのです。ローマンコンクリートなどは,気硬性セメントといって今とは全く違う方法で硬化するのですが,中国のものは現在のコンクリートに非常に良く似た水硬性セメントでつくられ,強度も約10N/mm2と高く,非常に驚きました。

その理由の鍵となるものが炭酸化にあり,表面が緻密になって水が内部に浸食しないことで耐久性が維持されていたのです。その結果を用いて長寿命化コンクリート「EIEN®」(以下,エイエン)を開発しました。「1万年コンクリート」というキャッチフレーズで非常に注目を集めました。

改ページ

エイエンを広めるため,様々なバリエーションをつくったのですが,その中でCO2を吸収する側面に着目したシリーズを検討していると,火力発電所で大量にCO2を排出する電力会社に興味を持ってもらいました。取違さんと一緒に,のちにスイコムを共同開発する中国電力さんへ提案書を持って行きました。

図版:中国・大地湾遺跡

中国・大地湾遺跡
(出典:『日経サイエンス』1987年7月号)

図版:ローマンコンクリートの例,ローマ・パンテオン遺跡

ローマンコンクリートの例,ローマ・パンテオン遺跡
©Jean-Christophe BENOIST, Wikimedia Commons

取違

中国電力さんとは2007年から基礎研究を始め,2010年度に,実際に排ガスに含まれるCO2を吸わせて適用した事例が誕生しました。そのスイコム第一号は,石炭火力発電所である中国電力三隅発電所の排ガスを利用したものです。さらに,副産物として出る石炭の燃えかす(石炭灰)も,特殊混和材と一緒にセメントの代替材料とし,産業副産物の有効利用につなげました。この製品は,中国電力福山太陽光発電所の舗装ブロックやフェンス基礎などに使用されています。

図版:スイコムでつくったコンクリートブロックの打込み確認

スイコムでつくったコンクリートブロックの打込み確認

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図版:スイコムの生産拠点中国電力三隅発電所(島根県浜田市)

スイコムの生産拠点
中国電力三隅発電所(島根県浜田市)

技術者の疑り深さと
試行錯誤

坂井

当時,まだ私はこのプロジェクトの担当ではなかったのですが,コンクリートの炭酸化つまり中性化というのは常識的にはNG(鉄筋コンクリートの場合は内部の鉄筋がアルカリ性を保てず錆びてしまうため)であるのに,あえてそこに挑むと聞いて,技術者としては「すごい発想」だと思いました。

横関

本来,中性化はコンクリートの強度自体にはほとんど影響がないはずなのですが,本当に問題があるのかを知りたいという研究者の「疑り深さ」からの着想でした。昨今の土木に関する学会では,中性化そのものは大きな問題とならないとの議論が出てきており,従来の常識が変わりつつある状況です。

坂井

ただ実用化にあたって,コンクリートは,ある程度固まらないと型枠から外せないのですが,固まる時間が長いと生産効率が悪くなることが課題となりました。

取違

そうですね。強度が出てからではCO2を吸いにくく,タイミングが早ければ早いほどたくさん吸います。ですからコンクリートを加圧して固めた後すぐ型枠を外す,即時脱型方式で成形し養生を行って製造できる商品の開発を重点的に進めてきました。

横関

検証は,プレキャストコンクリートメーカーであり環境意識の高いランデスさんの協力をいただきました。岡山の工場へ週末のたびに向かい,通常の製品の製造ラインを止めて養生槽を使わせてもらっていました。

取違

CO2をよりたくさん吸収させるため,特殊混和材の量や,ほかに使用する混和材の種類を変えたり,手を替え品を替え2年ほど試行錯誤をしました。うまくいかないことがほとんどでした。

いろんなパターンを検証するため,通常は行わない製法や材料,養生環境などを試したので,養生槽が何度もエラーで止まってしまいましたね。

坂井

水和反応を促進するために,養生槽は通常,水分を潤沢にしないといけないのですが,スイコムの養生には乾燥が必要です。ランデスさんは水分をコントロールする術はもっていますが,普段は必要のない管理をしてもらっていたわけですね。まさに,思いに呼応してくれたパートナーあってのものですね。

取違

私は入社してからほぼずっとCO2と付き合っていますが,ランデスさんには本当に感謝をしてもしきれないです。

図版:脱型方法と炭酸化養生方法の検討の様子

脱型方法と炭酸化養生方法の検討の様子

今後の展開

取違

今のスイコムは無筋のプレキャスト部材をターゲットにしています。そのため,日本のすべてのプレキャストコンクリートがスイコムに替わったとしてもCO2削減量としては大きなインパクトにはなりません。領域を広げていく必要があります。

坂井

昨年,NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の公募委託事業「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2有効利用拠点における技術開発」にスイコムが採択されました。今後は鉄筋コンクリートや,現場打ちコンクリートに展開できるよう,開発を進めていきます。エイエンでは現場打ちをした経験もありますし,中国電力さん,三菱商事さんに加え,金沢工業大学さん,横関先生のいらっしゃる東洋大学さんと共同研究を行っています。

高いハードルがありますが社内でも部署横断チームをつくり,戦略的に実例を増やすことに挑戦しています。

横関

戦略を重視した組織横断的なチームづくりには非常に期待をしています。

坂井

コスト面には課題がありますが,国内で唯一実用化されているCO2吸収コンクリートに価値を見出してくださる民間企業からの関心が増えています。身の回りで目に触れる事例が増えることで,量産によるコスト低減が期待できます。

現場打ちのコンクリートを減らしてプレキャスト化を進める近年の施工の合理化の流れの中ではプレキャスト埋設型枠など,薄くてCO2も吸わせやすいコンクリートの採用が広がりつつあります。

横関

一般に言えることですが,新技術に対して国内の法規制や実績主義の壁が厚いのは課題です。一方で欧米を中心にCO2吸収コンクリートに携わるベンチャー企業はすでに20社ほど立ち上がっています。電気自動車を立ち上げた自動車産業を見習い,オールジャパンで業界を挙げてスピード感をもって進めていくべきです。

坂井

CO2削減はナショナルプロジェクトです。先駆者としてやってきたからには土木・建築の境界も越え,サプライチェーンも含めた仕組みづくりが大事だと考えています。横関先生とご一緒に,CO2吸収型コンクリートに関してはNO.1だと言えるようにやっていきたいと思います。

(2021年6月14日,技術研究所にて収録)

写真

横関康祐教授(中央)
東洋大学理工学部都市環境デザイン学科教授。1967年生まれ,当社入社後,技術研究所,東京土木支店,土木管理本部に所属し,コンクリートの長期耐久性に関する研究,技術開発の推進,技術提案などを担当。東京湾横断道路などの大型プロジェクトのほか数多くの現場支援を行った。
2020年に東洋大学に着任。サステイナブル材料・施工研究室を立ち上げ,スイコムの応用研究のほか,維持管理・長寿命化技術,高強度コンクリートのワーカビリティ,水質浄化技術,発電技術など幅広い研究を行っている。

坂井吾郎技術研究所主席研究員(右)
取違剛同土木材料グループ上席研究員(左)

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