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モビリティ・ライフ 世界のりもの周遊記 最終回 瀬戸内海 渡るもよし,くぐるもよしは島めぐり

写真:尾道~向島フェリーは,日常生活に欠かせないモビリティ

尾道~向島フェリーは,日常生活に欠かせないモビリティ。向島は,中世にこのあたりで活動した海賊,村上水軍の時代から現代まで造船業で知られる

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生活に密着したフェリー

日本の島の数は6,852(海上保安庁『海上保安の現況』1987年による)と,世界でもかなり多い。そのため島々を往き来できる橋はしばしば我が国の象徴的なモビリティシーンをつくりだす。

技術者が研鑽を重ねたおかげもあって,かつては想像もされなかったような場所で架橋が実現している。その代表と言えるのが,瀬戸内海をまたいで本州と四国を結ぶ3つのルートだろう。連載最終回はその中から,広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶしまなみ海道と,岡山県倉敷市と香川県坂出市を結ぶ瀬戸大橋を訪れた。

図版:地図

今回のスタート地点となった尾道は寺町,坂町などで知られる瀬戸内観光の定番スポットである。JR山陽本線尾道駅から徒歩で,千光寺山ロープウェイ乗り場へ。3分ほどで瀬戸内海を一望する標高144.2mの千光寺山山頂に着く。

眼下では山と尾道水道に挟まれた細長い平地に建物がひしめき合い,対岸の向島(むかいしま)との間を小さなフェリーが行き交う。尾道ならではの眺めを堪能するために,多くの観光客がこの地を訪れる。

帰りは歩いて山を下りる。幅1〜2mほどの細い道が多く,人とすれちがうのもやっと。ところどころに階段もあり,自動車はもちろん自転車も使えない。この地で暮らすにはさまざまな苦労がありそうだが,それでも住み続けるのはやはり,人々が情緒あふれる景観に誇りをもっているからだろうか。

ふもとまで下りると,まもなく尾道水道にたどり着く。山から見えた向島行きのフェリー乗り場では,ちょうどフェリーが着いたところだった。尾道水道は幅200〜300mなので,乗船時間は3〜5分ほど,運賃は大人でも100円程度だ。

写真:千光寺山ロープウェイと尾道水道

千光寺山ロープウェイと尾道水道

写真:尾道水道を挟んで手前が尾道市街。奥が向島

尾道水道を挟んで手前が尾道市街。奥が向島

船首のランプウェイが開くと,歩行者や郵便配達のバイク,自動車が陸に上がり,自転車に乗った学生たちが一斉に乗り込む。その活気からフェリーが生活の一部であることがうかがわれる。

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自転車で海を渡れる道

いよいよしまなみ海道へ向かう。ここからは自動車で進むことにする。しまなみ海道の正式名称は西瀬戸自動車道といい,10本の橋で9つの個性豊かな島々を結ぶ高速道路だ。そもそもは自動車専用道路として整備されたが,沿道の島々の住民の往来に配慮し,歩行者・自転車・原動機付自転車のための道もつくられた。しかもほとんどの島に乗り捨てできるレンタサイクルターミナルが設けられ,延長70〜80kmのサイクリングロードが整備されている。その結果,希少な「自転車で海を渡れる道」として注目を集めた。その噂は海外にも広がっており,今ではレンタサイクルでしまなみ海道を行く外国人の姿もめずらしくない。

途中,高速を降りて生口島(いくちじま)に立ち寄る。レモンの生産量が日本一という島だけあり,レモン畑があちこちに見られ,のんびりとした雰囲気の島だ。島の西岸には尾道市との合併前の町名を残した瀬戸田港があり,尾道や西隣りの三原へ向かう船が出ている。

再びしまなみ海道に戻り,颯爽と風を切るサイクリストを横目に見ながら,美しい斜張橋で知られる多々羅大橋を渡る。これで大三島に入り,さらに伯方島(はかたじま)を経て大島に至る。

大島には2ヵ所の展望台があり,南北に橋を見渡すことができる。島の北側にあるカレイ山展望公園からは,たった今通った伯方島・大三島の向こうに多々羅大橋が,南側にある亀老山(きろうさん)展望公園からは,これから渡る来島海峡大橋が望める。この全長4,105mの世界初の三連吊り橋,来島(くるしま)海峡大橋の眺めは壮観だ。日本の橋梁技術の高さを教えられる。

写真:多々羅大橋を渡る自転車

多々羅大橋を渡る自転車

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写真:大島,亀老山展望台より来島海峡大橋を望む

大島,亀老山展望台より来島海峡大橋を望む

フェリーで向かうアートの島

来島海峡大橋を,瀬戸内海の雄大な島並みを眺めながら渡ると四国に上陸する。ここから高速道路を東に100kmほど走った坂出市に,今回2つ目のルート,瀬戸大橋が架かる。

この壮大なスケールの連続した6つの橋の上を瀬戸中央自動車道が走る。瀬戸大橋は,しまなみ海道の橋とは異なり,自動車か鉄道でしか渡れない。ただし,坂出市の与島(よしま)にはパーキングエリアがあり,路線バスで,途中の岩黒島と櫃石島(ひついしじま)に降りることはできる。

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写真:瀬戸大橋。香川県与島からの眺め

瀬戸大橋。香川県与島からの眺め。「瀬戸大橋」は,海峡部9.4kmに架かる6つの橋の総称

道路の下に鉄道が走っていることも,しまなみ街道にはない特徴だ。JR四国の瀬戸大橋線(本四備讃線)で,東京と高松を結ぶ寝台特急「サンライズ瀬戸」などが走る。与島パーキングエリアには時刻表が用意してあり,橋を渡る列車を眺める人や写真を撮る人も見られる。

瀬戸大橋を渡って本州,岡山に再上陸し,海岸沿いを東進すると宇野港に着く。かつて瀬戸大橋ができるまでは,ここから高松へ,本州と四国を結ぶ鉄道連絡船(宇高連絡船)が往き来していた。今は高松をはじめ,直島,豊島,小豆島などの島々を結ぶフェリーが運航している。

フェリーでアートの島,直島へ。宇野港~直島間は約2km,約20分の航行だ。安藤忠雄設計の地中美術館や,草間彌生をはじめ世界的アーティストが手掛けたオブジェなど,島のあちこちで個性的な芸術作品と出会うことができる。島内にはバスも走っているが,端から端まで3kmほどなので,徒歩はもちろんレンタサイクルでめぐるのも楽しいだろう。

写真:直島,宮浦港に接岸中のフェリー

直島,宮浦港に接岸中のフェリー

写真:直島,島内各地区をめぐるには町営バスが便利

直島,島内各地区をめぐるには町営バスが便利

橋を渡るか。船に乗るか。手段は違うけれど,個々の島々が訪れる人々を独自の表情で迎えてくれることは共通している。瀬戸内めぐりの魅力はフェリー・鉄道から自動車,徒歩,自転車まで,さまざまに乗り換えてスケールの異なる体験ができることにある。モビリティはこうした島の個性を味わうためにもあることを実感した。

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図版:今回めぐったエリア。しまなみ海道(西瀬戸自動車道),西瀬戸尾道インターチェンジ~今治インターチェンジ間は約60km

今回めぐったエリア。しまなみ海道(西瀬戸自動車道),西瀬戸尾道インターチェンジ~今治インターチェンジ間は約60km。瀬戸中央自動車道,坂出インターチェンジ~児島インターチェンジ間は約20kmの道のり

*編集註……文中の瀬戸大橋,来島海峡大橋,地中美術館は当社が施工に関わった。

森口将之(もりぐち・まさゆき)
モビリティ・ジャーナリスト,モーター・ジャーナリスト。1962年東京都出身。早稲田大学卒業後,1993年まで自動車雑誌編集部に勤務。フランス車を専門としていたが,パリ市が環境政策を打ち出したのをきっかけに,2000年前後から交通,環境,地域社会,デザインを中心に評論活動を展開。現在は世界の各都市をめぐりながら,公共交通のかたちについて取材に取り組んでいる。著書に『パリ流 環境社会への挑戦』(鹿島出版会,2009年)など。

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