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対談:これからの災害対応に向けて

千曲川堤防緊急復旧工事が完了し,現在,今後の本格復旧に向けての方針が立てられている。
長谷川賢市国土交通省北陸地方整備局河川部広域水管理官と芦田徹也北陸支店長に,今回の緊急復旧工事を振り返ってもらうとともに,将来起こり得る災害に対する建設業の役割と対応について語ってもらった。(敬称略)

写真:長谷川賢市

長谷川賢市

(はせがわ けんいち)
国土交通省 北陸地方整備局
河川部 広域水管理官
1962年生まれ。
1985年国土交通省(当時,建設省)
入省。
2014年千曲川河川事務所副所長,
2018年北陸地方整備局
河川部広域水管理官,
現在,千曲川緊急治水対策
出張所長も兼ねる。
写真:芦田徹也

芦田徹也

(あしだ てつや)
執行役員・北陸支店長
日本建設業連合会 北陸支部長
1959年生まれ。1985年鹿島入社。
2008年関西支店大滝ダム地すべり
対策工事事務所長,
2014年横浜支店土木部長,
2017年同支店副支店長を経て,
2018年執行役員,北陸支店長。
現在,日本建設業連合会
北陸支部長も務める。

緊急出動要請の経緯

長谷川 このたびの緊急復旧工事については,厳しい工期のなか,無事故無災害で終えた努力に大変感謝します。

芦田 災害対応はわれわれ建設業の使命と考えております。早急に人員を確保し,資機材調達を実行することは,大手建設会社の真価を問われるところでもあります。ところで,長谷川さんはどのような状況で13日の発災を迎えられたのでしょうか。

長谷川 私は広域水管理官の立場から直轄ダム,1類ダムの所管をしております。12日17時40分に千曲川が非常体制に入ったことを受け北陸地方整備局も非常体制に入り,災害対策本部に詰めて事前放流などの指揮監督を行っていました。堤防の決壊箇所についてはライブカメラで越水を確認していましたが,翌13日5時30分に決壊したことがわかり,すぐに現地指令班として被災状況の確認に向かいました。

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図版:13日7時,決壊した堤防の様子

13日7時,決壊した堤防の様子

芦田 13日の朝,被災状況が次々と報告されてくるなか,緊急復旧工事の出動要請はどのように行われたのでしょうか。

長谷川 千曲川河川事務所では災害協定に基づき地元建設会社5社に出動要請を行い,7時10分から仮堤防の応急工事に着手していただいております。私は,現地指令班として堤防決壊箇所の早期復旧と浸水エリアの湛水排除を担いました。また,同行した河川調査班による沿川で浸水した25ヵ所の浸水深調査の指揮も行いました。

芦田 早急な対応をなされていると思います。災害対応はやはり初動が重要となりますね。

長谷川 さらに8時12分に本局から日建連に鋼矢板仮締切堤防工事の出動要請を行っています。

芦田 はい。私は日建連北陸支部長という立場で,北陸地方整備局から災害協定に基づく要請を受けました。8時30分に緊急災害対策本部を開設。その後,会員各社を招集し,14時に緊急災害対策本部会議を開きました。会議では,受領した「災害復旧工法(案)」をもとに,対応が可能かどうかなどの情報共有を行い,協議の結果,対応会社として当社と大成建設の2社を推薦することに満場一致で決定し,日建連はその決定をすぐに北陸地方整備局に報告しました。

長谷川 災害復旧工法(案)については,4年前(2015年9月)の鬼怒川での災害対応工事を参考にしたと聞いています。

芦田 はい。推薦した2社とも鬼怒川での緊急復旧工事を経験していたこと,また被災地近くで工事を行っており,拠点としての対応体制がすぐに整えられることを考慮しての推薦となりました。

早期の工事完了のために

芦田 今回,鋼矢板仮締切堤防を短期間で施工するにあたり,北陸地方整備局からいろいろな配慮をいただきました。

長谷川 発災後できるだけ早く担当出張所長や経験豊富な防災エキスパートと現地確認を行い,早急に鋼矢板仮締切堤防の起終点を決定し,その後矢板の必要長を決めました。

芦田 おかげさまで資機材の調達を早く行うことができました。鋼矢板仮締切堤防の中詰め土砂についても,当初想定していた土取り場の土砂は仮堤防で使用されていたため,早い時点で24時間対応可能な土取り場の確保を指示することができました。

長谷川 特殊車両通行許可申請については,許可証など可能な限り迅速に交付が受けられるよう助言を行いました。

芦田 工事エリアのすぐ近くまで報道機関や一般の方が車両を駐車しており,資機材の搬入や施工ヤードの確保に苦慮しました。ただし,常に報道機関のカメラが向けられていることで現場では良い意味で緊張感がありましたが。

長谷川 工事車両の運行に支障が生じないよう,実際にはどのような対処をされていたのでしょうか。

芦田 堤防道路では駐車車両が多く,大型車のすれ違いが困難だったため,あらかじめセーフティコーンで囲った「すれ違いゾーン」を一定間隔で設置していました。

長谷川 なるほど,現場ならではのノウハウですね。

図版:昼夜体制で行われた緊急復旧工事

昼夜体制で行われた緊急復旧工事

今後の災害対応と
大手建設会社の役割

長谷川 気候変動の影響により,全国の1時間降水量50mm以上の年間発生回数が漸増しています。この状況に対応するには,河川・堤防整備などのハード対策に加え,ソフト対策である地域連携や警戒避難体制,住民への円滑な情報提供など,総合的な対策が必要です。今回の災害を受け,現在信濃川水系でも緊急治水対策会議を開き,対策プロジェクトを進めているところです。

※全国の1時間降水量
50mm以上の年間発生回数

(全国1,300地点あたり)

  • 1984~1993年:年平均236回
  • 1994~2003年:年平均256回
  • 2004~2013年:年平均313回
  • 2014~2018年:年平均318回
  • 2019年1~11月:376回

(気象庁データによる)

芦田 当社も鬼怒川のときと同様に今回の工事について記録を残し,今後の人材育成に役立てたいと考えています。また,今回災害対応の伝承も念頭に置いた人員配置を行いました。現地派遣メンバーは,若手職員が中心となって施工にあたり,経験豊富なベテラン職員が安全面を管理するといった構成です。

長谷川 長年災害対応の仕事に従事していますが,最近は若い人たちが現場に出る機会が少なくなってきていますね。なるべく一緒に現地に行って,その経験やノウハウを伝えるようにしています。

芦田 また,ICTツールを活用し,図面確認や工法・仕様の変更,昼夜体制の申送りなどの連絡や指示の情報共有を行いました。また,ドローン撮影やWebカメラにより現場の状況を本社や支店でもリアルタイムで確認できます。こうしたICTツール活用が,大きなトラブルもなく安全に工期内に終わらせることができた要因のひとつです。

長谷川 地質の情報が少なく時間の制約があるなかで,工程・工法の臨機の修正に対応する現場力,さらにはICTの活用を含めたその技術とマネジメント力,大手建設会社として鹿島はそれらすべてを備えている。

芦田 派遣した職員の就労環境を整備することも,会社として十分に配慮しなければならないところです。

長谷川 今回,現場で鹿島の若手職員と話す機会がありました。早期復旧のために貢献したいと意識も高く,大変心強く感じました。これからも大いに期待しています。

(2019年12月6日 長野市内にて開催)

図版:完成した鋼矢板仮締切堤防[12月16日撮影]

完成した鋼矢板仮締切堤防[12月16日撮影]

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