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2  Observation 宇宙進化史をひもとく
巨大実験施設建設

トンネル坑内(提供:東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)

ノーベル物理学賞受賞をもたらしたスーパーカミオカンデの後継となる,
ハイパーカミオカンデの建設が着工した。当社は現在アクセス坑道の建設を進めており,
素粒子研究の発展や宇宙進化史の解明が期待される施設の礎を築き始めた。

カミオカンデの後継をつくる

昨年5月,岐阜県飛騨市神岡町で「ハイパーカミオカンデ」の着工記念式典が行われた。東京大学が建設を進める「ハイパーカミオカンデ」は,現在稼働中の「スーパーカミオカンデ」の後継となる新しいニュートリノ観測施設。素粒子の統一理論や宇宙進化史の解明が期待される施設だ。

当社は2020年から周辺道路の切回しや施工ヤード内の整備を開始, 5月から施設へのアクセス坑道となるトンネルの掘削を行っている。坑口から最大6.6%の下り勾配で計画された1,873.5mのアクセス坑道は, ハイパーカミオカンデを設置するにふさわしいだけの非常に堅硬な岩盤を掘削してつくられる。そうした良質な地盤を活かしロックボルトの補強は行わず,吹付けコンクリートで安定性を確保し,工期の短縮を図る。

図版:全体の模式図

全体の模式図。建設中のアクセス坑道は坑口から1,873.5m。
その先にアプローチ坑道が続き,地表から650mの地下空洞にハイパーカミオカンデがつくられる

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[工事概要]

東京大学(岐阜県神岡)
ハイパーカミオカンデ
(アクセス坑道掘削)工事

場所:
岐阜県飛騨市
発注者:
東京大学
規模:
延長1,873.5m,断面23.5m2
工期:
2021年4月~2022年2月
(中部支店施工)

一日も早い実験開始に向けて

昨年11月中旬に現場を訪ねた際はアクセス坑道が半分まで到達した頃で,ちょうどトンネル内の発破作業が始まるところだった。坑口付近で見守っていると発破前のサイレンが場内に響きわたり,カウントダウンの音声が流れた。やがて乾いた発破音が3, 4回鳴り,トンネル内部に空気を送り込む風管が大きく揺らぐ。換気が落ち着くと,重機が慌ただしく入っていき,砕かれたズリを搬出していった。こうした発破作業は一日に4回行われている。

現場を統括する渡邊正所長に工事の様子を聞いた。「車線のある道路トンネルなどとは異なり,掘削した岩石を運び出すなど特殊な用途のトンネル工事とあって細心の注意を払っています。一日でも早く実験開始ができることを望まれていますので,より効率的な工程となるよう設計提案を行うなど,工期を守って次の工事にバトンを渡せればと考えています」。敷地は奥飛騨の山間地にあり,通信環境の整備ひとつとっても苦労する現場だが,所員たちは限られた条件下で「期待に応えよくやってくれている」とのこと。所員,協力会社の労務管理にも配慮し,この岩盤の硬さ同様,一枚岩となって取り組んでいるようだ。

「準備段階の工事とはいえ,一技術者として後世に残る仕事,技術となる事業に関われていると自負しています」と語った。

アクセス坑道は2月の完成を目指す。

図版:渡邊正所長

渡邊正所長

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図版:アクセス坑道坑口

アクセス坑道坑口。右側の太い風管は坑内に空気を送り込むもの。発破の瞬間,風管は大きく波打つ

図版:仮設ヤード全景

仮設ヤード全景。右側の坑口から山側に,ハイパーカミオカンデの施設が建設される予定

Message

世界をリードする
施設をつくる

図版

東京大学宇宙線研究所
神岡宇宙素粒子研究施設
塩澤眞人 教授

1996年に実験開始したスーパーカミオカンデは,ノーベル物理学賞につながる素粒子ニュートリノの質量の発見を成し遂げ,素粒子物理学を牽引してきました。一方で,ニュートリノが他の素粒子に比べて100万倍以上軽い理由や,宇宙が現在の姿になった原因がニュートリノの性質にある可能性など,新たな謎が生まれ,調べなければならないことが増えたのです。そうしたなかで,2020年にハイパーカミオカンデ建設計画が開始されました。

しかし, 構想自体は20年以上にも及ぶものです。故小柴昌俊先生が1992年,スーパーカミオカンデの実験開始前にすでに後継装置の形状を検討していましたし,私はそれを受け,1999年に論文を発表して以降,地盤調査や計画・設計検討を重ねてきました。今や20ヵ国,約500名もの研究者を集める大プロジェクトとなっています。

予算が承認され計画が決定するまでは,たくさんの研究者の将来がかかっていることも含めてプレッシャーで押しつぶされそうでしたが,無事に採択され,こうして鹿島さんがアクセス坑道の工事を進めてくださっていることを有り難く思っています。

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ハイパーカミオカンデは,スーパーカミオカンデに比べて水槽の有効体積は約10倍,光センサーも4倍の約4万個が設置され,スーパーカミオカンデの100年分のデータを約10年で観測することが可能となります。ニュートリノ振動研究や,陽子崩壊の発見など,宇宙の成り立ちに関わる謎を解き明かすことを目的にしています。

地下空洞完成は2024年度,観測開始は2027年度の予定に向けて,現在装置の設計や調達のマネジメント,工程,安全管理を国際協力のもと行っています。実験装置としての性能は妥協したくないため,日々知恵を出し,検討している最中です。水槽の大きさが約68m×71mという大規模な構造物を地下650mに建設することやそれに設置されるセンサーなどの技術力,たくさんの国から人を集めての研究など,日本でしか実現できない可能性もあり,世界が注目するプロジェクトなのは間違いありません。

観測開始後に成果を出すことでこれからも日本がニュートリノ研究の中心として,世界をリードしていきたい。鹿島さんには,是非一緒に挑戦していただければと思っております。

図版

ハイパーカミオカンデにおける観測装置の仕組み(上)と,施設全体の模式図(下)。円筒形をしたハイパーカミオカンデ内に設置される水槽壁面が上図に示した超高感度光センサーで覆われ,非常に透明度の高い純水が注入される。超新星爆発などで発生する素粒子・ニュートリノと水の衝突によって発生する「チェレンコフ光」をセンサーで検出する仕組みだ(提供:いずれも東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)

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