京都大学との共同研究
当社広告のキャッチコピーにもある,「次の現場は,宇宙です」となるだろうか。
昨年,「宇宙建築」を掲げ,遠心力を利用する人工重力施設をテーマとした
京都大学SIC有人宇宙学研究センターとの共同研究がスタートした。壮大な構想の一部を紹介する。
人類の宇宙進出の課題に挑戦する
ここまで見てきたように,人類が宇宙に進出するための準備が進む一方で,宇宙空間や低重力天体への長期間の滞在が人体の健康に悪影響を及ぼすことが懸念されている。そこで,宇宙空間や天体上に地球環境に近似した重力(1G)を再現し,そこで居住することで低重力の弊害を減らすことがひとつの方策と目されている。
こうした「人工重力施設」の構想は19世紀末にすでにその萌芽が見られ,1968年公開の映画「2001年宇宙の旅」で宇宙空間に浮かんだ円環状の宇宙ステーションで具体的にイメージ化された。また米国の物理学者,ジェラルド・K・オニール氏によって「スペース・コロニー」(1969年)として公表されているなど宇宙開発において関心の高い構造物だ。
昨年,当社では,遠心力を利用する人工重力施設をテーマとした京都大学SIC有人宇宙学研究センターとの共同研究がスタートした。「宇宙建築」と題されたこの人工重力施設研究は,水の入ったバケツを持って回転させても水がこぼれない遠心力の仕組みを重力に見立て,より実現可能なスケールで検証を行うものだ。宇宙空間,月,そして火星などそれぞれ特有の重力環境によって形態の変化する居住施設や,それらを移動する交通機関などの構想を提案している。プロジェクトの中心メンバーを担う当社関西支店建築設計部の大野琢也副部長は,「宇宙空間においても居住環境構築は,建設業界の使命」と語り,その実現性に向けた検討を始めている。
こうしたアイデアは一見,遠い未来の創造物のようだが,じつは自動化施工技術,高耐久性および高張力材料開発,閉鎖生態系研究など,現在建設業界でも取り組む様々な新技術がまさに地続きとなって構想につながっている。建設技術が宇宙空間にも適用できる時代はそこまでやってきていると言えるだろう。
大胆な発想を現実化したい
京都大学大学院 総合生存学館
SIC有人宇宙学研究センター
山敷庸亮 教授
1990年,京都大学工学部卒業。
1999年,京都大学博士(工学・環境地球工学専攻)。
京都大学防災研究所准教授などを経て現職。
専門は地球惑星科学(水資源工学,水環境工学,太陽地球系科学)。
土井隆雄宇宙飛行士らとともに,アリゾナ大学人工隔離生態系Biosphere2を用いたスペースキャンプ(SCB2)を企画,実践。
21世紀後半における人類の月・火星居住を想定し,我々SIC有人宇宙学研究センターでは宇宙社会の実現を目指し研究を進めています。まず地球生態系の代表を「コアバイオーム」,生命維持システムに必要な技術体系を「コアテクノロジー」,また,これらを備えた循環型の社会を「コアソサエティ」とそれぞれ名づけ,学問体系の構築を行っています。
今回鹿島さんと共同で開発する〈ルナ・グラス〉〈マーズ・グラス〉などの宇宙建築は,人工重力という宇宙移住の基幹技術,すなわち「コアテクノロジー」を支えると同時に,地球から持参すべき生態系を育む「人工の海」の存在が特徴です。現在このような大胆な宇宙建築の構想は他国にも例がなく,宇宙時代を見据え,世界に先駆けてこの基幹技術を現実化したいと思います。「夢」を「形」にして,広く世界に問うことにより,新しい人類の未来が開けてゆくと確信します。