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4  Interview

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2010年,宇宙飛行士として国際宇宙ステーション(ISS)で活躍した山崎直子氏は,
前ページで紹介した京都大学SIC有人宇宙学研究センターでの特任准教授,
当社が参画するスペースポートジャパン代表理事をも務める。
最前線で宇宙の魅力を発信する山崎氏に,宇宙開発や宇宙事業の現在地と,
建設業そして鹿島に込める期待を聞く。
(聞き手:大野琢也関西支店建築設計部副部長)

民間宇宙旅行時代と
スペースポート構想

2021年は「宇宙旅行元年」と言われるなど,民間宇宙旅行が次々と成功を収めた大きな一年でしたね。

山崎

ヴァージン・ギャラクティック社,ブルーオリジン社,それからスペースX社のニュースが席巻しましたね。10人以上の方がもう民間宇宙旅行を経験しました。私が今活動している「スペースポートジャパン」は,2018年に設立した非営利型一般社団法人で,鹿島さんをはじめ約50社,10ヵ所ほどの自治体さんと一緒に取り組んでいるところです。30年来の構想があった地区など,具体的に4ヵ所でスペースポート計画が動き出しました。

この背景には,2017年にスペースX社が「スターシップ」という新しい大型宇宙船を開発し,ニューヨークと上海を39分で結ぶ構想を発表したという大きなニュースがあります。そうなったときに,アジアの拠点が中国一極になってしまうことに危機感を覚えたんですね。ですから,日本にもそうした輸送のハブを早めに準備することが必要ではないかということで立ち上げたのです。

そして,スペースポート(港)の実現にあたってはまちづくりとも密接に関わってくると思っています。道路網などの交通インフラ,周辺の施設が必要となるほか,スペースポートの周りには保安区域として人が住めないエリアができますので,その空間を災害物資保管施設とするであるとか,物流拠点とするなどのアイデアがすでに出てきており,幅広くとても大きな構想になると思っています。

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図版

※一般社団法人Space Port Japan(スペースポートジャパン)。日本にアジア初のスペースポートをつくり,日本を宇宙旅行ビジネスの拠点とし,宇宙産業および関連産業の発展を目指すことを目的に設立。当社も正会員企業として参画している
©canaria, dentsu, noiz, Space Port Japan Associattion

長期の視点をもった技術と人づくり

そうですね。建設業としてもウォッチしていくべきプロジェクトと思っています。そうしたなか,当社は月面での遠隔自動施工についてJAXAとの共同研究でA4CSELの技術を宇宙にも展開させようとしています。現在,月面での施工や基地建設というのは,どのような構想があるのでしょうか。

山崎

JAXAの宇宙探査イノベーションハブで遠隔施工技術に取り組まれていることは伺っており,とても期待しているところです。現在,世界に目を転じると,米NASAが主導する「アルテミス計画」がすでに国際協力で走り出しており,2025年にアポロ以来,最初の女性と最初の有色人種を月面に送るということを発表しています。その後は段階的に月面にインフラをつくっていく構想があります。国内企業も自動車メーカーなどから,宇宙事業への参入が発表されています。ですから,2020年代後半から2030年代にかけて,本格的に月面での活動が活発になってくると思っています。

さらに,アラブ首長国連邦(UAE)はすごく勢いがありますね。2117年に,火星に数十万人規模のコミュニティをつくると発表しました。最初にドーンと大きな目標を掲げ,そのために人工衛星,火星探査機(昨年打上げ)に続いて金星に小惑星探査機を打ち上げていくという計画を立て,着実に技術を培っていくマイルストーンをもっています。加えて,宇宙開発をやっている目的として人を育てたいことを力説していました。宇宙開発は裾野が広いので,いろんな分野の人が集まってきます。そこから20年後,30年後に国を背負ってくれるような人材を育てていきたいと。こうした長期の視点に立った技術と人づくりへの目的をもっていることが印象的でした。

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図版:アルテミス計画

アルテミス計画 ©NASA

宇宙での技術は地球上でも役立つ

なるほど。当社ではまた,京都大学SIC有人宇宙学研究センターとの共同研究を進めています。遠心力利用による人工重力施設へのご所感や,期待についてお伺いできますか。

山崎

私も子供のときからいろいろな未来予想図を描くなかで,宇宙にコロニーができるのか,皆が宇宙に行くようになるのか,などと思いを馳せていましたけれども,重力の違いからの課題設定と解決法の発想や,具体的な施設設計に落としこまれているという点に驚き,とても感動しました。スケール感や見える景色にも圧倒されますし,何よりも格好いいですね。逆にお伺いしますが,施設のつくり方や材料についてはどのようにお考えなのですか。

はい。3Dプリンターなどによる自動施工や,当社でやっている遠隔施工を活用してできればと考えています。宇宙空間では気圧差が構造的に問題になると思われ,カーボンナノチューブのような引張力に強く軽い材料は地球から持っていき,重い物は天体上にある材料を使うことを考えないといけないと思っています。

山崎

宇宙で培う技術は地球上でも役に立つはずです。ぜひ地球と宇宙とをつなぐような技術のイノベーションを起こしていただきたいなと思い,応援しております。

大きなビジョンを発信する

ありがとうございます。それでは,宇宙開発にあたり,建設業,そして当社に対して期待されることをお伺いできますか。

山崎

これから本当に,宇宙空間に大きな建築物が実現していく時代になると思っています。現在,約100m×75mの規模の ISSが宇宙でいちばん大きい構造物です。でも,きっと輸送コストが下がればもっと大きい構造物ができますし,さらに宇宙で工場ができれば宇宙空間でさらに現地の材料を調達して,大きな建築物ができていくと考えています。

スペースXやUAEの例なども見ていますと,やはり大きなビジョンをもつことはとても大切だなと思っています。それは宇宙と建設業がこれから融合していくときにも一緒ではないでしょうか。ですから鹿島さんにおかれましては,是非,未来に向けたビジョンを鮮明に発信していただけたらと思います。最初は難しいと言われているようなことでも,皆が賛同してくれるような未来に向けたビジョンがあると,そこにいろいろな人と技術とリソースが集まってくる。皆さんを惹きつけるような,そんな場であって欲しいな,と期待しています。

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「宇宙飛行士」のいなくなる未来に

なぜ鹿島が宇宙を,ということを聞かれることもあります。しかしすでに人工衛星データを用いた解析技術など,今や地上におけるビジネスや生活においても宇宙空間が非常に身近な状況にもなっています。そうした期待に応えられるような研究開発をますます進めていきたいと思います。最後になりますが,今,山崎さんはどのようなビジョンを抱かれていますか。

山崎

やはり将来,もっとたくさんの人が宇宙と行き来でき,宇宙というものが皆さんにとって身近になるというのが今の夢であり,ビジョンですね。「宇宙飛行士」という言葉がなくなるぐらいに,普通に人が宇宙に行く時代が来て,宇宙でのエンジニアだったり,建築家だったり,先生だったり,コックさんだったり…,もっと様々な役割が細分化されて人が活躍していければという夢を抱いています。冒頭のスペースポートジャパンの活動もその一環ですが,まずは地球上にそうした場がないと始まらないので,場づくりと法整備,環境整備などを行いつつ,宇宙へのビジョンをもっている鹿島さんをはじめ,いろいろな方と一緒に協力していけたらと思っています。

じつは,私自身は学校の先生に憧れていたので,月に寺子屋のような学校が開けたらいいなと思っているんです。そこへいろんな国から学生さんが集まり,地球から離れた場所で地球を見ながらいろんなことを学んでいく。そうした人たちがまた地球に戻っていくと,きっと今よりも国際協力しながら人類が発展していくのではないかなと思うんですね。是非,人工重力施設で実現し,それをA4CSELの知見を活かした遠隔施工でつくることに期待しています。

たいへん興味深いお話とご提言を,どうもありがとうございました。

(2021年11月4日,オンラインにて収録)

図版

やまざき・なおこ
2010年,スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗し,
国際宇宙ステーション(ISS)組立補給ミッションSTS-131に従事。2011年,宇宙航空研究開発機構(JAXA)退職後,
内閣府宇宙政策委員会委員,一般社団法人 Space Port Japan代表理事,公益財団法人 日本宇宙少年団(YAC)理事長,
環境問題解決のための「アースショット賞」評議員などを務める。

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