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福島の今を知る[大熊町編] 中間貯蔵施設

写真:受入・分別施設の現場

受入・分別施設の現場(2018年2月7日 現場撮影)

中間貯蔵施設の役割

福島県では,原子力発電所事故後,県内43市町村において除染作業が実施されてきた。除染により発生した放射性物質が付着した表土,枝葉や落ち葉といった廃棄物はフレキシブルコンテナバッグ(フレコンバッグ)に詰められ,各自治体内の仮置き場等に保管されている。その量は最大でフレコンバッグ約2,200万袋(約2,200万m3)にのぼると推定され,福島復興の足かせとなっている。国は様々な検討を重ねた結果,福島県内の除染に伴い発生した土壌や廃棄物等を最終処分までの間,安全に集中的に貯蔵するために,中間貯蔵施設を整備する方針を定めた。建設候補地についても双葉郡8町村での施設設置の検討を福島県に要請。東京電力福島第一原子力発電所を取り囲む大熊町・双葉町の民有地・公有地あわせて約1,600haが候補地となる。大熊町では,住民説明会等を経て,2014年12月に建設を受け入れ,翌2015年,双葉町もこれに応じた。

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前例のないプロジェクト

環境省が2016年度に本格着手した中間貯蔵施設の整備は,現在5工区に分かれ順次進められている。一部工区(他社JV担当)では施設が完成し,昨秋から除染土壌の輸送・処理・埋立てが始まった。

当社JVが担当する「平成29年度中間貯蔵(大熊1工区)土壌貯蔵施設等工事」は,中間貯蔵施設を構成する「受入・分別施設」「土壌貯蔵施設」の設計・施工をはじめ,「除染土壌等の輸送」「受入・分別施設の運営」「土壌貯蔵施設の埋立て」に至る中間貯蔵運営をトータルで担う。2017年5月に着工した工事は,早期復興を目指し,施設計画と並行し施工を進める。フェーズ1となる現在は,除染土壌の受入れ・分別処理を行う受入・分別施設と,同施設から約500m離れた敷地に処理土壌を埋め立てる土壌貯蔵施設を建設し,両者を土壌運搬用ベルトコンベヤで結ぶ。今後,順次施設を拡張していく予定だ。

中間貯蔵施設という前例のないプロジェクトを指揮する小沢明正所長は,これまで上下水道等の環境施設工事,汚染土壌対策工事等に携わってきた。その経験から,当工事に向け立ち上げたプロジェクトチームの中心となり,技術開発から関わった。「中間貯蔵事業は福島県の復興の加速に直結する重要なプロジェクトです。しかし,施設用地となる地権者の方々にとっては,住み慣れた土地を手放さざるを得ない事情を抱えています。復興に携わる業務に対する誇りと大切な土地への思いを胸に,丁寧な仕事をしていくことが我々の使命です」。

写真:小沢明正所長

小沢明正所長

7月の施設稼働を目指し,現在,造成工事と受入・分別施設の建築工事が急ピッチで進む。ここでは,造成,建屋,処分場,プラント等,土木・建築・環境と様々な要素をあわせもつ工事内容となる。現場には,土木系・建築系・機電系・IT系・事務系の多様な社員のほか,技術研究所や環境本部からも専門性の高い社員が常駐し,協同で業務にあたっている。「本社・支店の関係部署の協力により,各種技術・ノウハウの洗い出し,検討,技術開発を行いました。震災復興関連業務の経験も活かされており,まさしく鹿島の総合力を発揮すべき仕事です」(小沢所長)。

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除染土壌を扱う業務となるため,作業員の被ばく低減,作業時の事故・トラブルの発生防止が大きな課題となる。受入・分別施設のプラントは,人が介在する頻度を最小限に抑えるよう自動運転化を目指した。輸送車両からのフレコンバッグの荷下ろし,分別処理に伴う破袋方法,土壌等のふるい分けなど,処理工程の各所に当社独自の技術や工夫が施されている。分別処理効率の向上を図るため,新たに開発した選別補助材「泥DRY®(デイドライ)」は,埋立て後の環境にも配慮した。プラントの設備機械の設置,試運転を控え,小沢所長は工事の意気込みを語る。「石巻・富岡町の廃棄物処理業務を経験した機電社員に施工管理を担当してもらい,万全の体制を整えます。現場は様々な工種が錯綜する状況ですし,今後は福島県全域が作業エリアとなります。当現場のスローガンである“業務の見える化”“職場の風通し”を念頭に,安全第一で施設完成を目指します」。

図版:フェーズ1 施設配置図

フェーズ1 施設配置図

図版:受入・分別施設処理イメージ

受入・分別施設処理イメージ

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ICTを駆使した管理

土壌貯蔵施設の埋立てに向けて,安全かつ効率的な除染土壌の輸送が大きな課題だ。当工事では,約33ヵ月間で福島県内の複数の市町村から約85万袋の除染土壌の輸送・分別処理・埋立て業務を完了させる予定となっている。最盛期には,1日に10tダンプトラック延べ250台を使用し,フレコンバッグ1,500袋を施設に運び入れる。当社は本格輸送に先立ち,2016年1月からの約1年間,パイロット輸送を実施。2万4,000袋分のフレコンバッグの荷積み・輸送・荷下ろし等の作業方法を確認し,課題点の抽出・検討を行った。

今回,大規模輸送の管理を取り仕切るのは武井和浩副所長。東京電力福島第一原子力発電所の廃炉作業に関わる無人化施工のIT環境構築支援や作業員の被ばく管理システムの開発などに尽力したIT技術者だ。輸送計画の策定,輸送物・輸送車両の管理システムの構築にICTは欠かせないと話す。「除染土壌を載せた工事車両が,一般道路を使用し輸送を行います。他工区の輸送も考えると相当の車両数になるため,綿密な輸送計画が求められます。輸送物については,重量・線量とともに,積込み所在地・輸送車両・輸送日・処理日・埋立てエリアを記録・管理することが条件です。ここでは,〈災害廃棄物処理業務(石巻ブロック)〉で開発した〈GPS車両運行管理システム(スマートG‐Safe®)〉を改良して使用します」。

写真:武井和浩副所長兼輸送課長

武井和浩副所長兼輸送課長

このシステムは,工事車両にタブレット端末を設置し,GNSSにより車両の位置情報・速度監視・危険箇所の注意喚起・ルート変更の誘導などを,運行管理者とドライバーの双方向通信により管理する。また,タグを使用し,輸送廃棄物の情報を記録・管理できるトレーサビリティ機能をあわせもつ。輸送時には,当システムを中枢に,輸送管理者が工事車両の運行状況をリアルタイムに監視する。「現場に整備した作業間連絡調整会議用のテレビ会議システムを,各積込場と運行管理者との調整ツールとして活用できないかも検討中です。輸送車両の施設入場・荷下ろし・退場までの運用設計も詳細に行い,輸送業務全体で効率化を図ります」。来るべき輸送に備え,武井副所長は輸送業務の最終調整に入る。

土壌貯蔵施設の施工や,今後始まる埋立て作業にもICTの有効性を期待する小沢所長。ダムや造成工事に用いられるドローンを使用した空中写真測量による3次元設計データの作成やマシン制御付き重機による施工支援など,当社のICT技術を当現場に最適化する検討を行っていく。「色々と試行錯誤しながら工事を進めている状況ですが,これは発注者も同様です。ともに少しでもスピード感のある合理的な解決ができるよう,当社の力を発揮して事業の推進に貢献したい」(小沢所長)。

図版:GPS車両運行管理システム(スマートG-Safe®)による「車両監視」と「輸送物のトレーサビリティ管理」イメージ

GPS車両運行管理システム(スマートG-Safe®)による「車両監視」と「輸送物のトレーサビリティ管理」イメージ

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図版:土壌貯蔵施設構造イメージ

土壌貯蔵施設構造イメージ 二重遮水シートおよび浸出水処理を備えた施設

福島復興を担う社員たち 中間貯蔵(大熊1工区)土壌貯蔵施設等工事

写真:中間貯蔵(大熊1工区)土壌貯蔵施設等工事

写真:東北支店 大熊1工区中間貯蔵工事事務所 脇田伸吾 工務課長(土木)

東北支店
大熊1工区中間貯蔵工事事務所
脇田伸吾 工務課長(土木)

私は,東京土木支店で高速道路建設等の工事を経験後,2016年1月から「中間貯蔵施設プロジェクトチーム」の一員になりました。途中半年間,パイロット輸送現場も兼務し,工事受注に備え準備してきました。

今回の技術提案書には,工事全体の計画からフレコンバッグの輸送方法,プラント機械の処理方法,埋立て技術など,関連部署から活用できる技術を洗い出し,実験等を繰り返して,提案内容を作り込みました。なかでも,プラントの機械設備の能力は,各社の提案で最も技術力が問われるところです。技術開発に携わった人間として,その完成度に期待が高まります。

当現場では監理技術者として,工事全体の調整役を任されています。中間貯蔵施設の稼働によって「2020年には身近な場所から仮置き場をなくす」という,国家的なプロジェクトに携わることに誇りをもって,福島の早期復興を目指します。

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写真:東北支店 大熊1工区中間貯蔵工事事務所 渡辺哲雄 機電課長(機電)

東北支店
大熊1工区中間貯蔵工事事務所
渡辺哲雄 機電課長(機電)

震災時は,青森県の大間原子力発電所の現場にいました。被災地の応急復旧対応のために仙台入りし,その後,計画段階から「災害廃棄物処理業務(石巻ブロック)」に参加。プラントの設計・組立てから運転管理,解体まで担当しました。「富岡町廃棄物処理業務」でも同様の施設を担当し,今回で震災廃棄物関連業務は3現場目です。

廃棄物処理のプラントは,普通の土木では使用しない機械を扱うので,過去の現場での経験値・ノウハウが活きてきます。今回は,入札時に提案した設計に従い機械を組み立て,運転調整・管理していきます。現在,機械の製作中のため,事前準備を行いプラント工事に備えています。これだけの物量を処理するプラントは,これまでに経験がありません。色々と不具合が出てくることが考えられますので,最初1~2ヵ月の調整作業が重要です。機電担当者3名,力を合わせ頑張りたいと思います。

写真:東北支店 大熊1工区中間貯蔵工事事務所 志村英典 次長(建築)

東北支店
大熊1工区中間貯蔵工事事務所
志村英典 次長(建築)

震災復興関連業務は,岩手県で「岩手缶詰大船渡工場」の再建工事・増築工事を担当。その後,宮城県で石巻市,女川町と2件の魚市場再建工事に携わり,今回福島県で被災地3県目となります。

私は大熊町隣の双葉町の出身で,実家は帰還困難区域内にありました。当現場の赴任にあたり,初めて故郷の現状を目にし,他県と比べ復興状況の遅れを改めて実感しました。双葉町でも中間貯蔵施設を建設中であり,地元の人たち同様,私自身も複雑な思いがありますが,どこかに施設をつくらなければ,福島の復興は始まりません。この重要なプロジェクトを無事完成させることが,私ができる故郷への貢献だと考えます。

現在,建築工事は最盛期を迎えています。建築系所員は私を入れ3名。少人数ではありますが,気を引き締めて作業にあたっています。機電の渡辺課長とは,以前同じ現場で肩を並べた仲間。20年ぶりの協働となります。大型プラント設備が設計通り収まるよう,責任をもって引き渡したいと思います。

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