震度6強の強い揺れと大津波により,福島第一原子力発電所は電源の大部分を喪失。
原子燃料を冷却することができず炉心損傷が始まり,
これに伴い発生した水素ガスは原子炉建屋内に充満,次々と爆発を引き起こした。
その中で,水素爆発に至らなかったのが2号機だ。
使用済燃料プールからの燃料取り出しに向けて準備工事を進めてきた最中の2019年10月,
工法の見直しが発表された。その計画の現場を追う。
建屋残存という障壁
「2号機は水素爆発を起こしていないから難しい」。2号機燃料取り出しの計画・施工を指揮する井上隆司所長は,以前そう話していた(本誌2016年11月号)。2号機は隣接する1号機の水素爆発により原子炉建屋の壁の一部破損などはあったが,今も建屋全体が残っている。燃料を取り出すためには,オペレーティングフロア(以下,オペフロ)で作業を行う必要があるが,内部の線量が高く現状のままでは難しい。当社は燃料取扱設備を担当する東芝とともに,オペフロ上部を全面解体し,カバー架構を設置して取り出す工法(以下,プランA)を提言。2015年11月,その方針に決まった。
ただし,建屋解体時の汚染ダスト飛散対策の信頼性向上の観点から,東芝と当社はプランAに並行して,上部躯体を解体しない工法の検討を進めていた。2018年11月~2019年2月に東京電力が実施したオペフロ調査では,事故当初と比較すると線量が低減している傾向が確認され,遮蔽対策を適切に実施することによりオペフロ内でも限定的な作業であれば行える見通しが得られた。そうした様々な検証の結果,今回改めて採用に至ったのがプランBだ。南側に構台・前室を設置した上で,南側外壁に小開口を設け,燃料取扱設備を横からオペフロにアクセスさせ,遠隔操作にて燃料を取り出す。プランBへの計画見直しは,汚染ダスト飛散リスク低減のほかにも,雨水流入抑制,建屋解体工期の短縮などの効果が期待できる。「プランAについてもダストが飛散しない解体方法を色々考えました。ただ,既にプランBへ気持ちを切り替え準備を進めています」。(井上所長)
難工事となるプランB
当社は,南側構台・前室,外壁開口,燃料取扱設備が走行するランウェイガーダを設置する役割を担う。「単純に構造物をつくることはできます。ただ,高濃度の放射性物質を扱う設備なので,全てのリスクを想定したものでなければいけません」と計画を担当する中越淳郎工事課長代理は話す。
課題の1つは耐震性能を満たすこと。原子炉建屋に隣接して構台を建てるため,間にエキスパンションを設ける。これは通常の建築物と同様だが,今回はそれをランウェイガーダにも適用する必要がある。高線量の原子炉建屋内での作業は限定的となるため,ランウェイガーダは構台から張り出す格好となる。そのランウェイガーダ上を約300tの燃料取扱設備が稼働しても問題ない性能を保ちながら,地震発生時は原子炉建屋と干渉しない構造にしなければならない。「たとえ作業中に東日本大震災以上の揺れが起きても耐えられる構造を目指しています」。そう話す中越工事課長代理は東芝とともに検証を繰り返している。
オペフロでの作業時間を増やすため,線量低減対策も検討している。担当は宮崎美穂工事課長代理。3号機原子炉建屋カバーリングで遮蔽体設置計画を担当した。「建屋上部が残存する今回は,3号機のように大型クレーンを用いて遮蔽体を設置することはできません。閉鎖空間で効率的に遮蔽を行うため,コンクリートを用いることを検討しています」。遮蔽コンクリートは,作業員の被ばく低減の観点から高い流動性やひび割れ抑制などの機能が求められる。宮崎工事課長代理は当社原子力部や技術研究所と連携して,そのニーズを満たす高流動・繊維補強・重量コンクリートを開発。既に周辺建屋の雨水対策工事に適用し効果を確認している。
役割の追求,その先に
中越工事課長代理と宮崎工事課長代理は,当社KTビル(東京都港区)にあるプロジェクト室を拠点に業務を行っている。施主の東京電力をはじめ,東芝,当社関連部署とともに中長期的な目線で現場と向き合い,計画をまとめていく。中越工事課長代理は,現場とは離れた場所で計画を立てているからこそ大切にしていることがあるという。「線量というリスクをはらむこの現場で,今の計画が,現地の作業員さんに安全といえるものになっているか,と常に自問自答しながら取り組んでいます」。現在,原子炉建屋周辺の線量は当初より低減され,構台を構築台を構築する場所は有人作業を許容できる環境になってきている。「だからといって,線量管理基準値内に収まるよう作業ができればいいという話ではありません。それぞれの工程の中で,少しでも被ばく低減の可能性を探るのが私たちの仕事です」(中越工事課長代理)。
作業エリア周辺には近接している施設や設備が多い。また,様々な工事が同時並行で進められるなど,限られた条件で実現可能な計画が求められる。それらの難題に取り組むことに,宮崎工事課長代理はやりがいを感じていると話す。「微力ではありますが,プロジェクト室での小さな検討の積み重ねが,福島の復興につながっていくのだと思っています」。
立ちはだかる障壁は決して低くはない。その一つひとつを,現地で作業をする人々のため,復興のために,乗り越えていく。