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汚染水対策

汚染水処理水貯蔵タンク

汚染水処理水貯蔵タンク 出典:東京電力ホールディングス

汚染源を「取り除く」,汚染源に水を「近づけない」,汚染水を「漏らさない」の
3つの基本方針に沿って進められる汚染水対策。
その対策は廃炉作業が続く限り実施されていく。「目立つ工事ではありません」。
その所員の言葉の裏側には真摯に現場に向き合う姿があった。
当社が取り組む汚染水対策の一部を紹介する。

Part 1 滞留水流出防止対策

福島第一工事事務所の涌澤一章所長,深谷秀晴工事課長代理,三浦光太工事課長代理の3人は,東日本大震災以降,それぞれ別々の経緯から廃炉作業に携わることとなった。涌澤所長は震災発生翌月に短期ということで福島第一原子力発電所に赴任。以来,緊急対応工事やサブドレン浄化設備など様々な工事を担い,廃炉作業を支えてきた。もうすぐ9年。「廃炉作業に関わる全ての人が苦労しています。少しでも協力したいという気持ちは,赴任当初から変わっていません」と涌澤所長は現場への想いを語る。

涌澤所長率いる福島第一工事事務所は,即時対応チームとも呼ばれ,ガレキ撤去や雨水対策,止水対策など多種の工事を受け持つ。滞留水対策工事もその1つ。目的は,津波が起こった場合に建屋内に流入した海水が地下に滞留している水と混ざり,引き波により建屋外へ流出することの防止。出入り口への水密扉の設置や,床開口閉塞などの対策を講じている。「地道な作業といえますが,簡単ではありません。1つの開口を塞ぐのに半年ほどかかったこともあります」と深谷工事課長代理と三浦工事課長代理は工事内容を説明する。作業場所では建屋が壊れているため既設のクレーンは使用できない。そのため,新たに仮設の設備を設置するなど工事は段階を踏む必要がある。そこで立ちはだかるのが線量の問題だ。過去には高線量下での作業のため,1人あたりの作業時間が1日5~10分ほどに限られたこともあったという。「ローテーションを組みながら作業を行うため,熟練工がいません。そのディスアドバンテージを打合せなど作業外の時間を有効に使うことで補っています」と深谷工事課長代理は語った。

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図版:水密扉設置前

水密扉設置前 出典:東京電力ホールディングス

図版:水密扉設置後

水密扉設置後 出典:東京電力ホールディングス

深谷工事課長代理と三浦工事課長代理はともに震災発生後に当社に中途入社した。福島県出身の深谷工事課長代理は2013年に入社。それまで地元ゼネコンで福島第二原子力発電所内の工事を長らく担当していた。「福島第一原子力発電所の廃炉作業であればこれまでの自分の経験が活かせると思いました」と入社を決めた経緯を話す。

同じく福島県出身の三浦工事課長代理は,2012年に入社する前から福島第一原子力発電所の修繕工事やメンテナンス作業を担当していた。震災後の福島第一原子力発電所を,「状況が一変し,今までの知識だけでは通用しません。機械化や無人化など新しい試みをやっていかないと」と話す。その一方で,チームは新しい技術を導入していくことの難しさも感じている。「工事範囲が広く,作業場所が様々。また工期が短いです。最先端のことを取り入れようと考えてはいるのですが,なかなかできていない現状が歯がゆいです」(深谷工事課長代理)。

これからもそのジレンマと向き合う日々となるかもしれない。しかし,3人を支える共通した決意がある。「頼まれたことはできないとは言いません。どうしたらできるかだけを考えていきます」。

写真:深谷秀晴 工事課長代理, 涌澤一章 所長, 三浦光太 工事課長代理
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Part 2 トレンチ滞留汚染水対策

福島第一原子力発電所にはトレンチと呼ばれる配管やケーブルを収納している地下トンネルが多数存在する。震災後,2~4号機海水配管トレンチ内にタービン建屋から漏出した高濃度の汚染水が滞留した。トレンチ内に滞留した汚染水の海洋流出を回避するため,汚染水の除去とともに除去後のトレンチの閉塞が進められた。発電所内には今も未閉塞のトレンチが残っており,順次対応を行っている。

「地上からコンクリートポンプ車で水中不分離・超高流動の充填材を打ち込んで,トレンチ内部を汚染水と置換していく工事です」と佐用佳史工事課長。汚染水で満たされたトレンチ内は配管や電線ケーブルが輻輳した状態にあるだけでなく,充填材の投入口が約85m離れたところに限定されるなど,入念な準備を要する難工事だ。内部が高線量で現地を確認することができないトレンチは,形状や内部の様子を図面や特殊なカメラを用いて行った詳細な事前調査をもとにし,施工計画を立案。構造が複雑化している箇所は3DCAD化するなど見える化して作業を進めた。「計画通りに作業が進んでいるかを判断できるのはカメラ観測と計測です」。予定していた数量の充填材打込み後,固化した充填材の高さを計測し,その結果と調査結果を照らし合わせることで作業進捗を確認していく。

図版:作業イメージ図

作業イメージ図 出典:東京電力ホールディングス

また,作業は慎重を期す。トレンチ内は場所によっては今でも高濃度の汚染水が滞留しており,注入管や水位計に付着した水は一滴さえも外部に漏らすことは許されない。入社6年目の三木佑介工事係は赴任当初,特殊な環境下での作業に戸惑うこともあったという。「汚染水も見た目は普通の水と変わりません。慎重に取り扱わなくてはいけないということを,本当の意味で理解するところから始まりました」。

昨年10月に赴任した三木工事係。特殊な環境下ではあるが,現場を少しでも改善したいと常に考えながら取り組んでいる日々を「とてもやりがいがあります」と話す。「どの現場であってもリスクや条件を踏まえ,作業員さんのことを考えながら自分の力を尽くし,施工していくことに変わりはありません」。

図版:ポンプ車でトレンチを閉塞する様子

ポンプ車でトレンチを閉塞する様子
出典:東京電力ホールディングス

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「確実に震災後の現場から,通常の現場に戻りつつあります」。土木統合事務所の日比康生所長はそう語る。福島第一原子力発電所での作業は,依然として被ばくリスクはある。それでも,発注者をはじめ事故直後から奔走し続けてきた多くの企業の尽力があって,現在,原子炉建屋周辺の放射線量は格段に低減されている。また,数年前は休日がとれない時期もあったが,今では週休2日を確保するよう努めている。

福島は新たな故郷と話す日比所長。「これまで全国から多くの社員が応援に駆けつけ作業にあたってきました。これからは,将来を見据えて若い社員がこの現場を経験後,他現場で修行を積み,再び戻ってきて貢献できるようになればいいですね」。

たくさんの人々が関わり合ってここまできた今の福島第一原子力発電所を,様々な想いを持つ人々がつないでいく。そうして廃炉への長い道のりの歩みを進める。

写真:佐用佳史 工事課長, 日比康生 所長, 三木佑介 工事係

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