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燃料取り出し―2号機

事故直後の福島第一原子力発電所

建設時の2号機西側構台

Part 2 施工

上部躯体が健全だった2号機の作業は2015年から始まった。
原子炉建屋内部の調査や既存物撤去,除染作業を目的とした
アクセスルートをつくるための準備工事。そこには被ばく低減のため
省人化や機械化を図る様々な技術が駆使されていた。
そしていよいよ建屋上部解体――,という段階での計画変更。施工現場の声を聴く。

被ばく低減のために

現在,2号機の西側にはオペフロへアクセスするために設けられた大きな構台と,その作業床上に全面が囲われた前室が設置されている。構台の規模は横38m,縦16m,高さ29.7m。重機による外壁開口作業のスペースを確保する目的で作業床が外に張り出し,作業中のダスト飛散対策のため周囲が覆われている。このように,西側構台は上部の重量が重い。狭隘部に建設する構台の耐震性を確保するため,制震装置は原子炉建屋を介して接合させる構造が採用されている。

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図版:西側から見た2号機

西側から見た2号機  出典:東京電力ホールディングス

施工にあたり考えなくてはならなかったのが社員や作業員の被ばく低減。当時,建屋周りの線量は平均で0.37mSv/hと, 1日あたり1~2時間程度しか作業をすることができないエリアがあった。そこで,鉄骨のユニット化施工を計画。低線量エリアでユニットを地組みし,それをユニットごとに現地に運び,大型クレーンで積み上げていった。

※放射線管理について 現在,当社の線量管理基準は40mSv/年,80mSv/5年。2018年から現場は東京電力の規定20mSv/年に準拠している(法定限度は50mSv/年,100mSv/5年)

図版:ユニットの地組み

ユニットの地組み

図版:地組みしたユニットの吊り込み

地組みしたユニットの吊り込み

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また,制震装置の取り付け作業にも被ばく低減の工夫が施された。作業時間を短くするため,制震装置は現場形状に合わせ精度誤差を簡単に調整できることが求められたが,既製品ではそのニーズを満たすことができなかった。そこで,現場は当社技術研究所とともに,モルタル充填型座屈拘束ブレースの両端に3次元追従機構を備えた「ハイブリッド座屈拘束ブレース」を開発。また,制震装置取り付け時の鉄筋探査と削孔作業を遠隔化するなど,作業の省人化と機械化を実現した。

「事前に作業エリアの線量を計測し,工程に沿って1人あたりの作業時間を決めます。しかし,現地で作業を始めるとどうしても予定より早く被ばく量がかさみ,作業を中断せざるを得ないことがあります」と谷山元祥副所長はこの環境下で工事を進めていく難しさを語る。プロジェクト室も率いる井上所長は打合せにより現場を離れることも多いため,谷山副所長は現場全体を管理する役割を担う。「条件の中でできることを考え,工程を管理していきます」。

図版:谷山元祥 副所長

図版:鉄筋探査・削孔作業を有人で行う場合の作業イメージ

鉄筋探査・削孔作業を有人で行う場合の作業イメージ

図版:遠隔装置による作業イメージ

遠隔装置による作業イメージ

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図版:遠隔鉄筋探査・削孔装置

遠隔鉄筋探査・削孔装置

図版:制震装置取り付け位置
図版:ハイブリッド座屈拘束ブレース

ハイブリッド座屈拘束ブレース。芯材に塑性変形する鋼材を配置し,周囲をモルタル充填した鋼管で拘束。ブレースの両端にボールジョイントを設けたことで,3次元の調節を可能とした

図版:鋼管(座屈拘束)
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長い2週間

西側構台設置後の西側外壁開口工事は,壁解体時に放射性ダストを飛散させないことが命題だった。開口の大きさは横5.23m,縦6.65m。原子炉建屋内の空間線量は58mSv/hと非常に高く,開口後は作業エリアが高線量となることが予想された。現場は,遠隔操作による放射性ダストを飛散させない制御解体を実施するため,モックアップを製作し,使用する遠隔重機での操作トレーニングを重ねた。「開口作業は2週間ほどで終わりましたが,下準備を含め色々なことをやりました」と工事を担当した影山泰工事課長代理は振り返る。

壁解体モックアップ

壁解体モックアップ

図版:影山 泰 工事課長代理

施工手順は,まずコア削孔を行い,外壁をウォールソーでブロック割に切断。その後,解体ブロックに把持金物を取り付け,それを無人遠隔重機で1つずつつかみ,抜き取っていく。ウォールソーで外壁を切断する際に計画的に躯体を残したり,撤去対象ブロックのみを取り出せるように外壁に2種類の金物を取り付け,引っ張る力に対して抵抗を設けたりするなど,線量低減とダスト飛散防止に知恵を絞った。そして2018年6月,オペフロへのルートがつながった。現在はメーカー他社が西側開口から内部に遠隔で進入し,調査や除染作業を行っている。「他社の取組みによって内部の線量は低減されています。次につながる仕事ができたと思います」と影山工事課長代理は話す。

図版:開口工事状況

開口工事状況

図版:遠隔操作室

遠隔操作室

図版:西側外壁開口工事イメージ図

西側外壁開口工事イメージ図。無人遠隔重機で1つずつ撤去対象ブロックを抜き取る

計画変更,そしてこれから

「2号機の作業は変更も多かったです」と谷山副所長や影山工事課長代理は話す。福島第一原子力発電所の廃炉は,今まで誰も取り組んだことのない未知の作業。時が進む中,調査が進む中で,求められる事柄も変わってくる。西側構台設置から西側外壁開口の着手まで約1年空いたことに続き,今度は建屋上部を全面解体するプランAから,建屋側面に開口を設けるプランBに方針が大きく転換されることが決まった。それでも,「プランA実施のため,社外の色々なメーカーとも検討を行いました。そのつながりができたのは良かったですし,今後の選択肢が広がると思います。次の計画に向けて準備をしたいです」と2人は前を見据える。

昨年11月,入社6年目の濱田創工事係が現場に配属された。濱田工事係は以前から,福島第一原子力発電所の廃炉は当社が果たさなければならない事業と捉えており,今回の配属も「若手のうちに経験を積みたい」と自ら手を挙げたという。「今まで映像でしか見ていなかったものを実際に現地で見ると,正直驚きを覚える部分もあります。廃炉を1つの道として,ここでしっかりと学びたいです」と強い意欲を示す。

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濱田工事係は配属されてから感じたことに,現場事務所を運営するシステムが独自のやり方で整っていることを挙げた。例えば業務の引継ぎに関して。現場特有の作業計画や進捗などを所員全員で共有する目的で実施する会議や,引継ぎの際に作成する資料が決まっており,お互いにフォローし合える体制が築けているという。工事グループを束ねる影山工事課長代理はこう話す。「線量管理の関係で,ここでは同じ人が毎日現場に行くことができません。そのため,互いへの引継ぎを前提とした今の体制に行き着きました。ただ,この体制がベストだとは思っておらず,今も正解を模索しているところです」。

現在,現場は雨水対策や共用ボイラ建屋解体工事を行いながら,プランBに向けた施工計画を練っている。「まだまだこれからの現場。若手にも挑戦してほしいです」という谷山副所長の呼びかけに,濱田工事係も「廃炉という長いスパンの工事をともに取り組む,同世代の仲間が欲しいです」と続いた。

図版:濱田 創 工事係

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