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Solutions-4 質が高く,自由度と更新性の大きな空間づくり

時代の要請に応え続ける使命をもった医療施設の課題を,
現状の機能を維持しながら将来変化を見据えた独自構法・特許技術で解決

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Needs 先進医療・急性期医療へ対応したい→Solutions 高機能化にふさわしい空間計画

高機能化によって病院のブランド力を高める動きは都心部でも起こっている。東京都済生会中央病院(東京都港区)は,開設100周年記念事業である主棟建設が当社の設計施工で本年グランドオープン。一連の建替え事業のフィナーレを迎えた。東京タワーを目の前に眺めるこの病院の新しい顔として,高度医療を提供できるスペースの創出と,その歴史にふさわしい品格あるデザインが求められた。

手術室は画像診断装置が一体化したハイブリッド手術室を含めた全12室に増室。近年広がりを見せる低侵襲手術といった高度な治療を可能にするとともに,患者と医療スタッフ双方の負担を大きく軽減する手術設備だ。また,再整備を行った産婦人科には,陣痛から分娩,産後の回復まで同室内で行えるLDR**を新たに3室設けるなど,最新の医療ニーズに沿った計画としている。

災害拠点病院として,救命ICUと救急専用病棟をもつ救命救急センターの整備など,今後の医療需要を見据えた機能を強化した。ハード面では免震構造の採用に加え,コージェネレーションシステム,非常用発電,災害用井戸などを敷地内に備え,災害時に万が一インフラがストップした場合でも,地域の中核病院としての役目を果たす。

低侵襲手術:切開や注射の傷を小さくしたり,麻酔の時間を短くするなどして患者の体への負担を従来より低減させた手術。

**LDR:陣痛ピーク時の陣痛室から分娩室への移動や,出産直後の分娩室から入院室への移動を行わない,母体への負担が少ない病室。

写真:ハイブリッド手術室

ハイブリッド手術室

写真:全体で535床をもつ東京都済生会中央病院全景

全体で535床をもつ東京都済生会中央病院全景

東京都済生会中央病院主棟

場所:
東京都港区
発注者:
社会福祉法人恩賜財団済生会
支部東京都済生会
基本設計:
横河建築設計事務所
実施設計:
当社建築設計本部
規模:
S造一部CFT構造(免震構造) B1,
14F 465床 延べ30,250m2
工期:
2015年2月〜2018年5月

(東京建築支店施工)

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図版:着工前・着工後

困難な課題を解決する技術と工夫

すでに高密度に利用された敷地にあって,建設地は当初から旧主棟北側の駐車場部分に限られた。そこは北側には既存の新外来棟が近接する上,計画地の一部地下には,現役で使用されている放射線治療のためのリニアック棟があるという厳しい施工条件。狭隘な敷地の中でリニアック棟をまたぐように建設された大スパンの構造は,当社の施工力の賜物だ。

外観デザインでは正面性をもつ端正な左右対称のファサードで新しい「病院の顔」をつくり上げた。内部には東京タワーを望むデイルームや病室,会議室など,都心ならではの空間を実現している。

図版:既存リニアック棟をまたぐ構造

既存リニアック棟をまたぐ構造
柱と梁を格子状に剛接合し、全体で耐力を高めるフィーレンディール架構の大スパン構造で,地下の既存部をまたぐ「ストライド構法」を採用した。さらにリニアックの真上に血管造影室を新設することで,敷地面積が限られているなかで1階の機能拡充を実現した

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Needs 更新しながら使い続けられる耐用年数の長い建物にしたい→Solutions 改修による平面変更を見据えた大スパン構造

「KIP-RC構法」

大スパン構造は建物内の柱の本数が少なく,将来の間仕切り変更への柔軟な対応を可能にする。ニーズの変化に応じ,改修しながら使い続けていく必要のある医療施設に適した構造だ。Solutions-2で紹介した座間総合病院では,「KIP-RC構法」を採用している。これは,大スパンを実現する当社保有技術のひとつ。圧縮力に強い鉄筋コンクリートの柱と,軽くて曲げに強い鉄骨の梁を組み合わせたハイブリッド構造である。

KIP-RC構法は,耐震性に大きく影響するとされる柱梁接合部がねばり強く,巨大地震の揺れでも接合部の破壊が起こらない安全性が実証されており,MCPの観点からも有効に働く。また,平面計画の自由度が増すとともに,柱間の広さがストレッチャーや車椅子の通行の妨げになったり,院内サインを見えにくくする問題も解決する。

図版:従来のRC架構(上)とKIP-RC構法(下)の比較イメージ

従来のRC架構(上)とKIP-RC構法(下)の比較イメージ

「可変ホスピタル®

当社はこれまで培ってきた設計・施工のノウハウをもとに開発した,医療施設向けの技術を提供している。病室の設備更新時の下階への影響を小さくする「可変ホスピタル®」や,先に紹介した「KIP-RC構法」,約5~10年間隔での更新が一般的なMRIの機器入替え短工期化を実現する「シースルーMRIユニット」,可動間仕切りによって手術室の大きさを手術の方式に最適化する「フレキシブル手術室」などの多彩なメニューで,自由度と更新性の大きな空間づくりをサポートする。

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図版:従来工法(左)と可変ホスピタル(右)の比較

従来工法(左)と可変ホスピタル(右)の比較

Commentary 「最高の建物をつくる志の高さ」

2016年,北星記念病院(北海道北見市)は,北星脳神経・心血管内科病院から名称を変更し,移転新築を完成させた。上層階は白色塗装に一部が打放し仕上げでモノクロームな印象の外観のこの病院は,来院車両と救急車搬送を分離してそれぞれの動線を確保しつつ,近隣住戸対策として,周囲の比較的静かな環境維持への配慮も考慮した,コンパクトで効率的な配置となった。病棟のゾーンごとにコントロール可能な空調システムを採用し,年間を通じて患者の居住快適性を高めるように配慮されている。

数多い制約のなかで「最高の建物をつくる」という志の高さが感じとれたと語るのは,同病院の松岡高博院長。「私自身は,何ら意見も要望も述べておりません。病院の次世代を担う若手職員を信頼してすべてを任せた結果で建物が完成しました。施工者の鹿島JVおよび設計者には当院の職員をご指導くださり,本当によかったと感じております。採光に配慮した明るいリハビリテーション室,ホテルロビーのような待合室で,外来患者さんも増加傾向にあり,新築を機に病院職員の士気も上がったように感じられます。携わっていただきましたすべての皆さんの真摯な姿勢に理事長として心より感謝しております」。

写真:医療法人社団高翔会 理事長 北星記念病院 松岡高博 院長

医療法人社団高翔会 理事長
北星記念病院
松岡高博 院長

写真:北星記念病院外観

北星記念病院外観

北星記念病院

場所:
北海道北見市
発注者:
医療法人社団高翔会
設計:
アトリエジーセブン
規模:
RC造 B1,4F,PH1F 延べ7,335m2
工期:
2015年5月〜2016年9月

(北海道支店JV施工)

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