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CUT 1: キャンパスの象徴

学校施設の変遷とトレンド

学校の校舎は,時代とともに姿・かたちを変えてきた。遡れば江戸時代の教育は,近所の様々な年齢の子どもたちを集めて読み書きを教える寺子屋が一般的で,主に寺や神社などが使われた。明治維新以降は欧米の影響で近代的学校制度が始まり,大きな校舎で同じ教科を同じ学年の子どもたちに一斉に教える教育システムに変わり,それが現在まで引き継がれている。そして戦後には,人口の増加とともに均質的な教室が廊下に面して並ぶ鉄筋コンクリート校舎が標準となり,全国に広がった。教育現場は整備された一方,個性に欠ける校舎を多くつくり出す結果も招いたといえる。

1970年代以降,学校は量より質の時代に入った。特に1980年代以降は,少人数学習やチームティーチングなどの教育の個別化や多様化の方針が打ち出され,多目的スペースの設置が推奨された。また1990年代以降は,教育情報化の方針のもと,コンピュータやインターネットなど情報環境の整備を推奨した。しかし,このような新たな教育思想に基づき,空間や設備を用意し,十分に活用している学校は多いわけではない。

学校ブランド戦略

学校の特色を表す個性的な校舎やキャンパス空間は,他校との差別化や学校のブランド価値を向上させる大きな要素となる。新たな伝統を表す外観デザインや,過去の記憶を継承する内外部空間,立地特性を活かしたキャンパスのゾーニングなど,新しさと古さを効果的に融合させることで新たな価値を生み出すことができる。

当社は,学校のブランド化を意識している学校経営者が多いことに着目し,競合校や類似校がどこで,アピールポイントは何か,また本校の強みは何かを明示している。

そのうえで,競合校との差別化を図るため,ソフトとハードの両面で何を売りにするか優先順位付けをし,ブランド化へ向けてアプローチしている。また,学校経営者の意向やこれまでの歴史への想いを一つひとつヒアリングし,既存校舎との調和,樹木や歴史的遺構の保存などにも配慮しながら,学校の個性や伝統を反映した建物外観やキャンパス空間を設計してかたちにしていく。

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図版:巣鴨中学校・巣鴨高等学校

巣鴨中学校・巣鴨高等学校
伝統を繋ぐ学園の象徴としてのギムナシオン(体育館)。イチョウをモチーフとしたアルミ鋳物の防球フェンスを纏う

図版:多摩美術大学 アートテーク

多摩美術大学 アートテーク
アートテークは,キャンパスで最も高い丘の中腹に,量感のあるキューブが埋め込まれるイメージで建てられた

図版:共立女子学園 共立講堂

共立女子学園 共立講堂
1938年に竣工した共立講堂は,80年超にわたり日比谷公会堂と並ぶミュージシャンの聖地として名を馳せた昭和時代から,式典・講演会・在校生の発表の舞台として今も使用され,歴史を繋いでいる

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図版:順天堂大学 新研究棟

順天堂大学 新研究棟
1906年に落成した旧本館のファサードの復元(翻案)。順天堂の歴史継承と存在感を創出している

魅力的な教育空間づくり

近年の学校を取り巻く環境には,少子化やグローバル化の進展,いつどこで起こるかもしれない自然災害の脅威,中高一貫教育や共学化への流れなど,大きな変化が起きている。この中でこれからも選ばれる学校となるためには,学習に集中できる環境や,クラスメイトや友人,教職員との交流の場,災害に強く安全な校舎,省エネ技術の導入,そして社会と学校を繋ぐユニバーサルデザインなど,他校にない魅力を発信し続けていく必要がある。

当社は,ワークショップの開催などにより,設計計画の段階から教職員や生徒を巻き込むことで,学校のニーズを表現している。個性的なデザインの校舎,機能的で使いやすい設備・サイン計画まで,トータルなデザイン力により生徒たちを惹きつける魅力的な教育空間づくりを行っている。

グランドデザインの提案

学校の建替えとは,これまで積み重ねてきた歴史や文化と,新しくつくられた校舎が共存していくことを意味する。新・旧が調和した魅力と,使いやすい機能性を同時に維持していくためには,将来を見据えたグランドデザインが不可欠となる。

当社は,グランドデザインの大切なポイントとして,地域・まちとの接点をどうするか,どこをキャンパスの入口・正門にするのかを重要視している。また景観との調和やアクセス性にも配慮しながら,学校の魅力を最大限に引き出す計画を提案している。

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図版:台北日本人学校

台北日本人学校
新キャンパスは70年以上の歴史や卒業生たちの想い,卒業制作壁画などのあたたかなメッセージを受け継ぎ,これからの児童・生徒へバトンを繋ぐ

図版:桜美林大学東京ひなたやまキャンパス

桜美林大学東京ひなたやまキャンパス
地域に開かれたキャンパスを表現する象徴的なエントランス。3層分のカーテンウォールを進むと,桜美林大学文化芸術学群の様々な活動を発信する,エントランスホールや学生ギャラリー,メディアセンターなどがある

図版:慶應義塾大学日吉記念館

慶應義塾大学日吉記念館
伝統を継承し,キャンパスの新しい顔となる記念館。建物は既存建物の列柱を踏襲したシンメトリーな構成とし,四季の変化に映える白の外観となっている

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図版:千葉商科大学付属高等学校

千葉商科大学付属高等学校
正門からの視認性が高い,新校舎のシンボルタワー。学校の基本理念「柏葉の精神」を表現し,歴史と記憶を継承した外装デザインとなっている

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