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新横浜駅を掘り下げる
神奈川の新しい結節点

相鉄・東急直通線 
新横浜駅地下鉄交差部土木工事

新横浜駅に乗り入れる第4の鉄道路線「相鉄・東急直通線」を建設する。
駅のプラットホームを設けるのは地下4階で,最大深さ33mまで掘削する。
地中で直角に交差する地下鉄の既設躯体の仮受けを経て,
地下4層構造の躯体構築に邁進する現場の姿を追った。

【事業概要】

相鉄・東急直通線
新横浜駅地下鉄交差部土木工事

  • 場所:横浜市港北区
  • 発注者:横浜市交通局
  • 設計者:八千代エンジニヤリング,日本交通技術
  • 規模:開削土工62,000m3,躯体工12,500m3
    土留工3,900m2
    地盤改良工φ4.0m376m,計測工一式,
    導坑工193m,地下鉄仮受工など
  • 工期:2013年4月~2020年3月

(横浜支店JV施工)

図版:工事現場地図

神奈川を東西に結ぶ鉄道新線

1964年の東海道新幹線の開業とともに新設された新横浜駅は,横浜市中心部に直結する横浜市営地下鉄ブルーラインやJR横浜線が乗り入れる港町ヨコハマにおける陸の玄関口だ。現在,この一大ターミナルで2022年度の開業に向け,神奈川県東部を横断する新しい鉄道ルート「相鉄・東急直通線」の建設が進む。

今年11月に開業する「相鉄・JR直通線」を合わせると,総延長は12.7kmに上り,その大部分が地下区間になる。既存の路線と相互直通運転することで,東京都心と県中央部が一本のルートで結ばれ,新横浜駅は神奈川県内の東西方面からのアクセス向上が期待されている。

当社JVは同線の新横浜駅のうち,整備主体である鉄道・運輸機構から横浜市交通局が工事を受託した延長76.5m,幅29mの開削トンネルの施工を担っている。同局が運行する横浜市営地下鉄ブルーラインの駅と直交する部分だ。地下2階にある地下鉄のホームの直下を深さ33mまで掘り下げ,地下4階に2面3線のホームを設ける。地下を掘削し,躯体を構築している間,既存の地下鉄のトンネルを杭で仮受けする「アンダーピニング工法」で施工することがこの工事最大の特徴だ。

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図版:路線図

図版:仮受け状態の地下鉄の躯体(現場撮影)

仮受け状態の地下鉄の躯体(現場撮影)

図版:本受け後の地下鉄の躯体と地下2階部分の施工状況

本受け後の地下鉄の躯体と地下2階部分の施工状況

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地下鉄を貫通させ深夜に地盤改良

工事中は現場直上に位置する交差点に架かる円形の歩道橋もアンダーピニングする必要がある。地下鉄の躯体のほかにも,新線と並行して電力用のシールドトンネルが近接しており,これらに悪影響を及ぼさないように常に挙動を監視してきた。

図版:地上の様子(現場撮影)

地上の様子(現場撮影)

現場を率いる岩下直樹所長は,次のように話す。「異常を示すものはありませんでしたが,掘削中は複数の計測機器が様々な挙動を示し,何かしらのアラートが出ることもあったので,ずっと気が抜けませんでした」。

横浜支店を中心に共同溝や高速道路の山岳トンネル,高架橋を手掛けてきた岩下所長が副所長として現場に着任したのは,開削する範囲の外周に地中連続壁を施工する工事が始まった2015年のことだ。

「地下鉄の駅躯体を貫通し,地上から駅躯体直下を地盤改良するという特殊な施工方法を確実に遂行することが,着任時,私に課された最大の使命でした」と,岩下所長は明かす。

図版:岩下直樹所長

岩下直樹所長

開削時の土留めとなる地中連続壁は,最下端が深さ36m。ただし,地下鉄の躯体を横切る部分は地上から施工できない。そこで,あらかじめ躯体の下を止水するために地盤改良したうえで,躯体の下に導坑を掘削し,高さ4mに満たない導坑内でも打設可能なTMX工法で柱列杭を施工することによって,地中連続壁を構築する方法を採用した。

地盤改良に用いたのは,高圧噴射攪拌工法だ。地中をボーリングで削孔しながら,ロッドをつなぎ合わせ,回転させたロッドの先端からセメント系の改良材を噴射し,地山と改良材を攪拌していく。このとき,どうしても地下鉄の躯体にロッドを貫通させて,施工する必要があった。

実際に地盤改良できるのは,深夜,地下鉄の運行終了後のわずか2時間に限られる。躯体の上から線路がある地下2階までガイド管を吊り下ろし,設置済みのバルブにセットしたうえで,管に造成用ロッドを所定の深さまで挿入する。トラブルを起こせば,列車の運行にも支障を来たす。作業時間を少しでも長く確保するため,最終列車の時刻が早い,土休日に必ず施工するように工程を組んだ。それでも,1日当たり施工できる改良体の長さは3〜4m程度。直径4m,長さ20mの改良体を全部で16本構築するのに半年の時間を要した。

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図版:STEP 1
図版:STEP 2
図版:STEP 3
図版:STEP 4
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図版:貫通地盤改良(現場撮影)

貫通地盤改良(現場撮影)

アンダーピニングの見える化

地下鉄の躯体の下に設けた小さな導坑の中で,仮受け杭を打設し,アンダーピニング工法を実施した。6,800tある地下鉄の躯体を支持する仮受け杭は合計24本。

仮受け杭と躯体の間には,ジャッキを設けている。この現場では,荷重だけでなく,躯体の変位に応じたジャッキ制御ができる「変位・荷重自動制御システム」を当社で初めて導入した。躯体の変位によって生じる地下鉄の軌道の変位だけでなく,躯体にかかる負荷を抑え,構造物の健全性を確保することが狙いだ。

図版:現場平面図

現場平面図

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ジャッキを設置した直後は,仮受けのために掘削した導坑の両側に地山が残っているので,すぐに荷重は受け替わらない。「導坑を掘削するため薬液注入や,躯体周辺の掘削に伴うリバウンドによって,わずかに躯体が隆起しました。元にもどすためにジャッキで制御できるようになったのは,導坑間の地山を撤去し,ジャッキで荷重が受け替わってからです」と,アンダーピニング工法の施工に主体的に取り組んできた山本章貴工事課長代理は話す。入社以来,都市土木の現場を中心に携わってきた山本工事課長代理は,東京都内の地下鉄の直下に地下駐車場を整備する工事でアンダーピニング工法に携わった経験を買われて,この現場に配属された。

図版:山本章貴工事課長代理

山本章貴工事課長代理

躯体の下の地山を取り除き,全重量を受け替えたのは2017年9月頃のことだ。躯体に加わる外力はほとんど変化がなくなる一方で,気温や地下水の影響によって,仮受け杭が温度収縮し,荷重が変動することがある。管理値を超えると自動でジャッキを制御し,さらに一定の値を超えた場合には,手動でジャッキを調整した。

ジャッキ制御の判断や異常変位の把握に,最新のCIM技術を採り入れたこともこの現場の特徴だ。変位・荷重自動制御システムの導入に合わせて,ジャッキ荷重やジャッキストローク,躯体の変位などのデータは,3次元画像上に色分けされたコンター図で表現。アンダーピニングの状況を「見える化」し,複数のデータの相関関係を把握しやすくした。

図版:アンダーピニングの見える化。ジャッキストロークとジャッキ荷重の値を色で表現している

アンダーピニングの見える化。ジャッキストロークとジャッキ荷重の値を色で表現している

工事後半戦での若手社員の奮起

2018年春,現場の工事内容は,掘削から躯体構築へと大きく転換した。工事前半は掘削のほか,地盤改良やアンダーピニング,NATMなどの特殊な工種が目白押しで,現場には,専門的な技術を持った社員が多く在籍していた。工事の折返し地点ともいえるこのタイミングで,こうしたベテラン社員が別の現場に異動し,結果として,現場内に世代交代が起きた。

現在,当社社員の中で,現場管理を直接的に担っているのは,入社2~4年目の3名だ。2018年4月に現場を異動してきた入社4年目の藤原資也工事係は,「前の現場と比べ,この現場は構造が複雑で,支障物があるなど一筋縄にはいきません。現場はいつも緊張感に包まれている中,やるべき業務が多岐にわたっているため,自分の役割を自覚するのに苦労しました」と話す。仕事の分担を明確化するなどして,今年になって少しずつ仕事の環境を改善できた。

浅子将行工事係は入社2年目。藤原工事係と同時期に,新入社員で配属され,ともに奮闘してきた。躯体構築を自分たち若手社員に託されていることに胸を張る。「自分に任せてもらえる仕事も増えてきて,だいぶ自信がついてきました。現場の作業員さんに,自分の担当とは異なる工種について意見を聞いて,視野を広げたいと思っています」(浅子工事係)。

3人目は今年7月にこの現場に配属されたばかりの奥田一馬工事係。入社3年目だ。以前は,高速道路の橋梁工事の現場で,周辺道路などの附帯工事を担当していた。「前は土工事を中心に工事全般を受け持っていたので,工種ごとに分担が異なるのは初めてです。この現場で躯体工事をマスターしたい」と奥田工事係は意気込む。藤原・浅子両工事係は即戦力として,奥田工事係に期待を寄せる。「ポイントを押さえて質問をしてくれるので,教える側もとても助かります」(藤原工事係)。

躯体工事が始まった直後はまだ不慣れで,思うようにいかないことも少なくなかった。ただ,上司である岩下所長はミスを叱ることなく,若手社員の報告を真摯に受け止めてきた。「多少の失敗はしっかり見直せば,次の成功につながります。大きな失敗は,私たちが食い止めればいい。所長方針のひとつに『チャレンジする現場』を掲げ,失敗してもいい環境づくりを目指しています」と,岩下所長は語る。自身も若手の頃,やりたいことを上司に認めてもらい成長してきたという自負があり,それを今の若手社員に実感してもらいたいとの思いで見守っている。

図版:左から奥田一馬工事係,藤原資也工事係,浅子将行工事係

左から奥田一馬工事係,藤原資也工事係,
浅子将行工事係

ICT活用による業務の効率化

「チャレンジする現場」の一環として,岩下所長が先頭に立ち,ICTツールの活用にも積極的に取り組んでいる。

「仕事ばかりに注力すると,家庭が気掛かりです。一方で,家庭を優先し,仕事を割り切ると,場合によっては,同僚に負担を押し付けることになりかねません。それぞれが任された業務を100%こなすためには,ICTツールの活用により現場業務を効率化し,一人一人の負担を軽減していくことが重要だと思っています」。こう語るのは,入社9年目の安形早織工事課長代理。フレックス制度を活用しながら,今春小学校に入学した子どもを育てる,家庭と仕事を両立するワーキングマザーだ。

躯体工事の場合,現場担当者の業務内容は1年目も2年目も大きくは変わらない。それだけに何度も繰り返し行われる作業を一つでも多く効率化できれば,全体での効果は計り知れない。実用レベルに達しているICTツールはまだ多くないが,中でも,安形工事課長代理の一押しは「型枠支保工数量管理システム」だ。

図版:安形早織工事課長代理

安形早織工事課長代理

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CIMデータを基に,型枠支保工の仮設計画のデータをあらかじめ作成することで,範囲を選択するだけで搬入・組立・解体の対象となる資材の数量を即座に算出できる。担当者はその数量を基にリース会社に発注する。これまでは図面から資材の数を拾い出してまとめていたが,このシステムを使えば,時短になるうえにミスも減る。

ただ,実際の現場では,中間杭が複雑に配置されている。それを考慮して,型枠支保工を計画するには,3次元測量などによって,より正確に現場状況を再現できるCIMの構築が不可欠だという。

2020年春の竣工に向け,躯体構築は佳境を迎えている。現場社員の試行錯誤によって,ICTツールの応用の幅が拡がることがより一層期待される。

図版:地下2階の配筋状況

地下2階の配筋状況

図版:地下4階ホーム。中央は地下鉄の躯体を支えていた仮受け杭

地下4階ホーム。
中央は地下鉄の躯体を支えていた仮受け杭

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図版:集合写真

集合写真

山岳トンネルで先回りして
アンダーピニング施工

当社は工程を短縮するため,開削範囲全体の掘削と並行して,専用の導坑を掘削し,アンダーピニング工法で施工することを着工後に提案した。従来の方法では,地下鉄の躯体よりも深く掘削しないと仮受け杭に着手できないが,導坑で先回りして,仮受け杭を施工することで,約20ヵ月間の工程短縮を実現した。

導坑は次のようなものだ。まず開削範囲に隣接した場所に深さ22mの発進立坑を設け,そこから地下鉄と並行に連絡導坑と呼ぶ長さ30mのトンネルを掘削。さらに連絡導坑内から直角方向に4本のアクセス導坑を分岐させ,地下鉄の躯体下を掘削した。

連絡導坑の断面は幅5.2m,高さ5.5mと,坑内で重機同士がすれ違うことができる空間を確保した。一方,地下鉄の躯体に近接する導坑は地盤沈下の影響を最小限にするため,断面を小さく抑えた。躯体下導坑の断面は幅2.45m,高さ3.77m。導坑内で仮受け杭を打設するうえで必要最小限のサイズとした。

一連の導坑掘削は,山岳トンネル工法の一種である都市NATMで施工。地山の沈下や地下鉄の躯体への干渉を防ぐため,地山の補強に鋼製支保工や吹付けコンクリート,薬液注入工法を活用した。これらの導坑はアンダーピニング工法によって受け替えが完了した後,すべて撤去した。

図版:連絡導坑から分岐するアクセス導坑(現場撮影)

連絡導坑から分岐するアクセス導坑(現場撮影)

図版:躯体下導坑(現場撮影)

躯体下導坑(現場撮影)

図版:仮受け杭(現場撮影)

仮受け杭(現場撮影)

現場撮影以外のPhoto: 大村拓也

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