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欧州 安定したPFI資産を土台に事業ポートフォリオの地理的分散を図る

KEの安定基盤となるPFI資産

1987年設立の欧州統括現地法人KE(カジマ・ヨーロッパ)。拠点とする英国でのPFI事業やオフィス投資,中欧・ドイツでの流通倉庫開発,南仏のリゾート開発を軸に事業を展開する。

現在の経営を下支えするのがこれまでに積み上げたPFI資産である。傘下のKPL(カジマ・パートナーシップス)が18年間の開発・買収で得た全24件は,学校,医療施設,オフィス,図書館,高齢者住宅など多岐にわたり,管理資産は1,400億円におよぶ。KPLでPFI事業にあたってきたジュリアン・ラド=ジョーンズ社長は次のように振り返る。「長年かけてKPLが英国PFI業界において高い知名度を築いたことを誇りに思います。24件のPFI資産は公共セクターに貢献しつつ,十分な投資リターンを生んでいます。今後も積極的なアセットマネジメントを通し,政府機関の評価を高めていきたい」。

写真:KPLのジュリアン・ラド=ジョーンズ社長

KPLのジュリアン・
ラド=ジョーンズ社長

さらに北アイルランドでも今,新たに2件の病院のPFI契約締結に向けて進んでおり,これらは完成後には,NHS(政府系国民保険サービス)が持つ高い信用力にもとづく安定収益資産となる。一方,イングランドでは今後,PFIの新規出件が限られるとの見方もあり,当面KPLでは既成PFIの買収も進めながら,より多くの出件が見込まれるウェールズやアイルランドでの事業機会を探っていく。同時に,PFI法にもとづかない官民共同事業(PPP事業)でも,地区病院や高齢者住宅を中心に新たな事業機会を探っていく。

写真:ウェッジウッドの地元,焼き物の街に竣工した〈ストーク高齢者住宅〉

ウェッジウッドの地元,焼き物の街に竣工した〈ストーク高齢者住宅〉

写真:〈ストーク高齢者住宅〉の3件あるうちの一つ

〈ストーク高齢者住宅〉の3件あるうちの一つ。KPLはSPCを通じて25年におよぶPFI契約を締結。設計チームを組成し,ローカル建設会社に工事を発注した

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バリューアッド型開発とPPP事業

英国国民投票によるEU離脱の選択は市場の混乱とポンド安を招いたが,ロンドン中心部では割安になった不動産への外国人投資家による投資が増えた。こうしたなか,傘下のKPE(カジマ・プロパティーズ・ヨーロッパ)は金融街シティのオフィスビル〈77コールマン〉で「バリューアッド型」の投資事業に着手。2020年春の竣工に向け,現地の建設会社に発注し工事を進めている。バリューアッド型とは,既存ビルの増築や内外装・設備のリニューアルなどの大規模改装を行い,新たにテナントを確保して不動産価値を高める手法。KPEがこれまでに実績を積んできた分野である。

イングランド中部のロッチデール市では,官民共同の市街地再開発事業(PPP事業)となる約1万7,300m2の商業開発が進む。KEは地元企業とJVを組み民間側パートナーとして参画。現在,工事管理とリーシングをKPEが共同で推進しているが,竣工後に,ロッチデール市が建物全体を賃借(マスターリース)する契約となっている。機関投資家が開発資金を全額拠出する「フォワードファンディング」の手法によって,KEはすでに初期費用をすべて回収しており,竣工後は不動産価値を上げることでさらなる収益が期待できる。

図版:ロンドンの金融街シティで大規模改装工事が進む〈77コールマン〉のイメージパース

ロンドンの金融街シティで大規模改装工事が進む〈77コールマン〉のイメージパース。既存建物の上に2層積み増し,外壁を新調。エントランスも歴史あるギルド(職人組合)の建物の前庭側へ変更する

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存在感を増す流通倉庫開発

流通倉庫開発の分野で中心となっているのが,KEが建設事業を行っているチェコとポーランドである。両国は2007年にシェンゲン協定に加盟し,他の加盟国と国境検査なしで行き来できるようになった。立地の良さから欧州における物流のハブと位置付けられ,世界的なeコマースの拡大がその投資に拍車をかけた。KPEは,2016年春に欧州流通倉庫開発の雄パナトニ・ヨーロッパと開発JVを設立,ワルシャワ空港の近くで約3万8,000m2の第1号案件に着手した。

もともと当社グループでは1989年に米国でIDIを設立し,流通倉庫開発を行ってきた実績がある。パナトニ・ヨーロッパのロバート・ドブジィツキー社長は,KEから共同事業の話を打診された際,「あのIDIを育て上げた鹿島となら,是非組ませていただきたい」と快諾。KPEとパナトニ・ヨーロッパはその後も実績を重ね,二国で計6件の共同開発事業を進めている。今後は新たにドイツで,ハンブルグ郊外の第7号案件に着手する計画だ。

写真:パナトニ・ヨーロッパのロバート・ドブジィツキー社長

パナトニ・ヨーロッパの
ロバート・
ドブジィツキー社長

写真:KPEとパナトニ・ヨーロッパのJV開発の第5号となるポーランドの〈ウッチ流通倉庫〉

KPEとパナトニ・ヨーロッパのJV開発の第5号となるポーランドの〈ウッチ流通倉庫〉。平屋の大型倉庫2棟,延床面積は14万m2を超える。鹿島ポーランドが現在施工中

成熟期に入る開発事業

英国や中欧,ドイツなど各国のビジネス特性に応じた事業を展開してきたKE。開発に最も長い年月を費やすのが南仏の〈サンタンドレオール・リゾート〉である。プロヴァンス地方の145haにおよぶ広大な敷地で1991年以来,ゴルフ場やクラブハウス,レストラン,スパ,ホテルなどを段階的に開発してきた。現在,全9期計画における第8期の別荘開発が動き出している。2階建て計4戸からなるアパートメントを3棟建設する計画で,竣工は2020年の予定だ。

〈サンタンドレオール・リゾート〉の歩みはKEの30年とほぼ重なる。これまでリゾートのコンセプトとデザインは長い時間をかけて継承されてきた。KEの開発ノウハウもまた,欧州経済の激しい浮沈のなかで引き継がれ,成熟しつつある。今後は地理的な広がりに応じた多様な開発メニューによって,リスク分散を図りながら経営の安定とさらなる成長を目指す。

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Leader's Voice KE 一木浩人社長 「PFIをセーフティネットに,事業展開の拡がりを」

写真:KE 一木浩人社長

英国のEU離脱をめぐっては今後,詰めの交渉が行われますが,2016年の国民投票の直後に不思議なことが起こりました。PFIなどに投資をするインフラストラクチャー・ファンドの株価が上昇したのです。PFIは政府による25年ほどの長期契約にもとづくため債券に近い性質を持ち,市場リスクが高まると相対的に魅力度が高まるのでしょう。今後,英国経済が厳しい局面を迎えても,PFI資産がKEにとってセーフティネットになると見ています。

一方,英国開発事業におけるもう一つの柱であるバリューアッド型投資も着実に前進させます。〈77コールマン〉は,KEが80年代からおもに英国での開発事業を通して蓄積してきた経験とノウハウを導入するいわば集大成であり,2020年の竣工が楽しみです。

パナトニ・ヨーロッパとの流通倉庫開発事業は,強い信頼関係のもとで進められています。ポーランドが親日国であることに加え,私が米国駐在時にIDIに関わっていたこともプラスだったようです。KEの建設部門との協働事業を前提としていますが,イギリス人とポーランド人やチェコ人が協力して働く姿は,KEの未来を示しているようです。

〈サンタンドレオール・リゾート〉は息の長いプロジェクトですが,外部環境がつねに良好であったわけではありません。事業に携わった多くの人たちが懸命に「事業のバトン」をつなぎ,ITバブル崩壊やリーマンショックを乗り越えてきました。欧州大陸側での事業のウェイトを増やそうとしている今,フランスと中欧での経験はたいへん貴重です。それらを生かしながら,慎重にしかし果敢に新しいことにチャレンジしたいと考えています。

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