ホーム > KAJIMAダイジェスト > October 2018:特集「海外開発事業の総展望」 > 米国

KAJIMAダイジェスト

米国 流通倉庫と賃貸集合住宅の開発を中軸に収益源の多様化を目指す

現地企業を核に収益体制の確立へ

リーマンショック直後の一時的な景気の落込みをのぞけば,米国経済の成長率はこの10年間堅調に推移してきた。今後も緩やかな人口増加を背景に,景気の安定が見込まれる。こうした動きを受け,当社では今後,米国の不動産市場に1,100億円の投資を行う計画だ。これまで注力してきた流通倉庫や賃貸集合住宅の開発をはじめ,新しい市場への拡大も進める。

こうした事業を担うのが,米国統括現地法人KUSA(カジマ・ユー・エス・エー)傘下の現地企業である。開発事業においては流通倉庫開発を専門とするCore5や,住宅,商業店舗施設,オフィスなど数多の商品種別の開発を担うBCDC(バトソンクック・デベロップメント),そして賃貸集合住宅分野に強いフラワノイ社などを核に,経常利益を安定的に創出できる収益体制の確立を目指す。

ノウハウを生かす流通倉庫開発

近年の米国不動産で有望市場の一つとされるのが流通倉庫開発である。eコマース(ネット通販)の台頭に既存倉庫の更新需要も重なり,開発済みの物件への投資意欲が高まっている。米国の物流倉庫は,「スーパーボックス」と呼ばれる最大の10万m2クラスから,地域のハブを担う5万m2クラス,配達先に最も近い最小の「ラスト1マイル」と呼ばれるクラスまで幅広い。倉庫の不動産投資は立地と規模のマッチングに負うところが大きく,早期売却による収益性の高さから開発事業者間の競争も激しい。

KUSAは1989年,傘下に流通倉庫開発会社IDI(インダストリアル・デベロップメンツ・インターナショナル)を設立し,長年にわたりこの市場でノウハウを培ってきた。同社は90年代半ばには年間倉庫開発面積で全米トップクラスの一角を占めるまでに成長する。Core5は2013年のIDI売却後,KUSAの出資によって,IDI幹部社員を含むメンバーで2015年に設立された新会社である。同社はIDIでのノウハウを活用することで,後発ながらすでに本拠地を置くジョージア州をはじめ,テネシー州やテキサス州,フロリダ州,カリフォルニア州などの主要流通拠点で多くの新規開発を進める。

改ページ

写真:Core5によるアトランタ郊外の小規模倉庫

Core5によるアトランタ郊外の小規模倉庫(2万9,000m2)。本年5月の竣工と同時に機関投資家へ売却

写真:Core5が開発を手がけ,2017年にアトランタ郊外で竣工したクロスドック様式の大型倉庫

Core5が開発を手がけ,2017年にアトランタ郊外で竣工したクロスドック様式の大型倉庫(7万3,000m2

市場競争力の高い事業スキーム

Core5の強みとは,ユーザー,投資家の目線でのたしかな市場選球眼,商品企画力にもとづき,十分に差別化された商品を開発することによって,投資・回収のサイクルを短期間で回せる事業基盤を内在させているところにある。IDI時代から通算30年弱一貫して流通倉庫開発に携わるCore5のティム・ガンター社長は「事業立上げからわずか3年で全米6都市18件,延床面積総計約100万m2の倉庫開発に事業着手できたのは,事業に理解のあるKUSAの傘下で再始動できたことが大きな要因だった」と語る。

また,スピード感がものを言う流通倉庫開発市場では,開発と建設の両分野をもつKUSAの特性が生かされる。建設事業部門との連携によって立地特性やサービス,投資規模,建物仕様,建設コスト,これらをすべて見通すことで,土地の適正価格を迅速に導き出し,市場競争力の高い事業スキームが組み立てられるのである。

写真:Core5のティム・ガンター社長

Core5の
ティム・ガンター社長

改ページ

賃貸集合住宅開発の根強い需要

一方,住宅市場で需要が伸びているのが賃貸集合住宅である。KUSAでは2006年ごろの一時的な景気後退を背景に,若い層が持家から賃貸へ流れる動きをいち早く見きわめ,高層賃貸集合住宅〈SkyHouse〉シリーズの開発を展開してきた。これを担ったのが2008年に傘下となったBCDCである。同社はこれまで米国南東部を中心に18棟のSkyHouse開発を手がけ,安定稼働状態になり次第,投資家へ売却することで収益を上げてきた。

KUSAはこの市場でさらに追込みをかける。今年1月には,米国南部を中心に木造賃貸集合住宅の開発・建設・運営を手がけるフラワノイ社を買収した。米国では3,4階建ての賃貸集合住宅が多く,このタイプの需要を支えているのは,おもに20代から30代前半の独身者ないし,学齢に達する前の子どもを持つ家族である。この分野を得意とする同社を傘下に,KUSAでは今後,賃貸志向の層をターゲットにした住宅を長期保有し,収益源の多様化を実現していく。同社の開発事業部門であるフラワノイ・デベロップメントのトマス・H・フラワノイ社長は,今後のニーズを次のように見る。「南東部の安定した経済成長は若年労働者層に直結し,賃貸集合住宅市場にとっては追い風。一方,子育ての終わったシニア世代も持家を手放し,メンテナンスが楽な賃貸住宅に戻ってくる潮流が多くの市場で顕著となっている。半世紀にわたり培ってきたノウハウをてこにしながら,今後はシニア層を標的とする賃貸集合住宅分野への取組みを本格始動していく」。

写真:フラワノイ・デベロップメントのトマス・H・フラワノイ社長

フラワノイ・
デベロップメントの
トマス・H・フラワノイ
社長

現地企業や建設事業部門との連携を強めるKUSA。今後はこれまでの事業で積み上げた蓄積を生かし,高齢者介護施設や学生寮の市場にも積極的に取り組んでいく。さらなる収益多様化を目指す一大グループの動向に注目が集まる。

改ページ

写真:バトソンクックが開発と施工を手がける高層賃貸集合住宅〈SkyHouse〉シリーズ

バトソンクックが開発と施工を手がける高層賃貸集合住宅〈SkyHouse〉シリーズは,職住近接志向の層のニーズを取り込む

写真:フラワノイ社がフロリダ州で現在開発中の賃貸集合住宅

フラワノイ社がフロリダ州で現在開発中の賃貸集合住宅。全8棟,総戸数339,今年9月末より段階的に竣工・運営を開始。最終棟竣工は2019年5月予定

Leader's Voice KUSA 内田道也社長 「建設と開発の両輪体制強化で競争力をもったグループへ」

写真:KUSA 内田道也社長

米国経済は米中貿易戦争の影響次第で2019年後半以降,景気の調整局面が到来する可能性はあるものの,長期的には好調を維持するものと見ています。とくにKUSAが拠点を置くアトランタをはじめ,南東部から南部にかけては,人口増加を背景とした住宅関連需要の伸びが期待できます。そこで流通倉庫,商業施設,賃貸集合住宅の開発に加えて,投資を増やしていきたい分野が高齢者介護施設や学生寮です。これらは景気変動の影響を受けにくい利点があり,すでに手がけていますが,今後は運営ノウハウを取り込むことで,開発企画力を充実させたいと考えています。

また,力を入れたいのが開発と建設の両輪体制のさらなる強化です。米国の不動産開発は外部の資金を用いるのが常です。投資にしろ融資にしろ資金提供者にとって重要なのは事業の実現性,すなわち土地購入,許認可の取得から建物の完成までが予算内で予定どおりに行われることです。彼らは事業の成否を見定めるにあたって事業者の開発ノウハウを重視しますが,私たちの建設部門が有するコスト,工期や品質確保についての知見を開発部門に活用することで,外部からの信任を獲得できます。こうして自社の出資比率を下げつつ,収益性の高い事業の枠組みをデベロッパーとして創造できるのです。

KUSAグループの現地社員は現在1,200人強,日本からの出向社員は38名です。このうち開発系2名が中心となって,開発事業の実務を行う事業会社を管理しています。開発事業本部から派遣された研修生もこれをサポートしてくれています。今後,中堅・若手社員を増やしていくことで,人材育成の面でも寄与できればと考えています。

ホーム > KAJIMAダイジェスト > October 2018:特集「海外開発事業の総展望」 > 米国

ページのトップへ戻る

ページの先頭へ