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Tool 1:使い続ける「制震改修」

耐震性能不足や長周期振動による不安感は,スクラップアンドビルドの一因にもなっている。
制震改修は,それらの不安を取り除き,建物を快適に使い続ける技術だ。

独自技術で長周期振動に対応

東京・西新宿に建つ,地上55階建ての超高層オフィスビル・新宿三井ビルディングは,当社の施工で1974年に竣工した。構造は,建物の中心部にEVや水廻りを含むコアを,外周面にはボックス型の鋼管柱を列柱上に配置した,S造一部RC造のチューブ架構となっている。耐震要素として,コア部にRC造のスリット壁(柱とスリットで切り離された耐震壁)と,側面にS造のブレースが当初から備わっている。建設時に大臣認定を取得した高い安全性を有する構造で,現行の耐震基準も十分に満たしているが,さらなる安心感の醸成のため,建物の揺れを可能な限り低減すべく,制震改修を実施した。

図版:新宿三井ビルディング制震工事

新宿三井ビルディング制震工事

場所:
東京都新宿区
発注者:
三井不動産
設計監修:
日本設計
設計:
当社建築設計本部
用途:
事務所,店舗
規模:
RC・SRC造(地下)・S造(地上) 
B3,55F,PH3F 延べ179,579m2
改修内容:
屋上―D3SKY6基
低層部コア―HiDAX-e48台
工期:
2013年8月〜2015年4月
(東京建築支店施工)

この改修工事にあたり,当社では「D3SKY(Dual-direction Dynamic Damper of Simple Kajima stYle)®」と名づけた超大型のTMDを新規開発。約10m四方でキューブ状のD3SKYを屋上に6基設置した。錘(おもり)の総重量は1,800tにものぼる。この技術開発により,当社は2018年日本建築学会賞(技術)を授与されている。

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また,建物の平面形状を考慮し,短手方向にオイルダンパHiDAX-eを併用。建物中央に位置するEVおよび水廻りなどからなるコア内の壁面に設置し,耐震余裕度を向上させた。設置階はテナントへの工事の影響が比較的小さい5~10階としている。

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震では,最上階で長時間にわたる大きな揺れが観測された新宿三井ビルディング。今回の制震改修の結果,揺れ幅は約60%減少し,揺れが収束するまでの時間も大幅に短縮されるという解析結果が出ている。設置後に実際に観測された長周期地震でも,制震効果を確認した。

図面
図版:東北地方太平洋沖地震(2011年)の地震動でシミュレーションした制震改修の効果

東北地方太平洋沖地震(2011年)の地震動でシミュレーションした制震改修の効果

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中低層建物向け制震装置

D3SKYの技術を中小規模のビルへ応用した「D3SKY-c®」が昨年から実用化され,日本各地でその設置数を増やしている。cはcompactの頭文字だ。

D3SKY-cの適用第一号となった福岡フジランドビルは,福岡市内の一等地,博多区中洲に位置する1975年竣工の地上13階建てSRC造オフィスビル。2005年の福岡県西方沖地震,2016年の熊本地震では大きな被害はなかったものの,耐震診断を行ったところ目標性能を下回る結果が出たため,耐震改修を実施することとなった。

図版:福岡フジランドビル(改修工事)

福岡フジランドビル(改修工事)

場所:
福岡市博多区
発注者:
フジランド
設計:
当社九州支店建築設計部
用途:
事務所
規模:
SRC造 B1,13F,PH2F 
延べ12,365m2
改修内容:
屋上―D3SKY-c1基 
RC耐震壁増打ち
工期:
2018年6月〜2019年3月
(九州支店施工)

様々な耐震補強案を提案,検討していくなかで,鉄骨ブレースによる補強など建物強度を増す案では,工事にともなう入居テナントの一時退去や,改修後の使い勝手の低下などのデメリットが懸念された。そこで,制震補強による居ながらの改修にターゲットを定め,さらに複数のバリエーションの改修方法を提示した。その結果採用されたのは,制震補強としての「屋上TMD設置」と,既存建物の耐震壁配置の偏りを整える「外部側からのRC耐震壁増打ち補強」の併用案。新開発の技術で,工事期間中のテナントへの影響を最小限に,建物外部からの工事のみで補強を完了した。

図版:D3SKY-c

D3SKY-c。超高層ビルのために開発された超大型TMDであるD3SKYの技術を発展させ,福岡フジランドビルの耐震改修工事にあたって新規開発された。設置位置や重量は建物に合わせてオーダーメイドで設計される

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図版:制震装置の設置位置(屋上平面図)

制震装置の設置位置(屋上平面図)

建物を使いながら工事する

既存ビルの耐震改修工事での,作業にともなう引越しなどは,入居者およびオーナーにとって大きな負担となる。当社は入居者の建物利用を維持しながらの「居ながら®」工事の経験が豊富で,入居者の希望に応える工事計画を提案している。居ながら工事では,低騒音,低振動の施工機械を使用するとともに,居室内外への騒音,振動のシミュレーションや実験を行って影響を最小限にとどめる工夫を行う。また,継続使用に影響のない工事箇所と範囲の見極め,資機材を搬入するルートの確保など,適切な仮設計画の策定も欠かせない。入居者の安全・安心を確保しながらの居ながら工事には,技術開発から施工ノウハウまで総合建設業の知見が凝縮されている。

column

自動ラック制震の
汎用性がアップ

インターネット通販のますますの拡大および省人化ニーズが高まる昨今,さらなる増加が見込まれる自動ラック倉庫の制震新構法「CDS(Container Damper System)」を開発した。

2011年の東北地方太平洋沖地震では,地震の揺れで自動ラック倉庫の積み荷が落下し,自動搬送機(スタッカークレーン)が運行できなくなり,倉庫機能が長期間停止する事態が多発した。しかし,落下防止策として積荷を脱落防止金具などで固定してしまうと,地震時にラック架構本体に設計荷重を上回る力が加わり,ラックの基礎や柱などが損傷し,かえって復旧に多大な時間とコストが掛かる懸念がある。

当社は2013年にラック制震技術ADSを開発。特に新築物件に大きなメリットがある技術であったが,屋根裏空間の余裕が十分でない既存改修への適用は制限されてしまうという課題があった。

今回開発したCDSは,腕木と呼ばれる積荷を支持する部材に新規開発の「制震スライダー」を設置することで,積荷自体をTMDの錘として機能させ,効率的に地震エネルギーを吸収する新構法。オイルダンパなどを別途設置するスペースも不要で,ラックメーカーを問わず,新築・既存改修の双方に適用可能だ。

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図版:図面
図版:技研の高性能3次元振動台W-DECKERでの効果検証実験

技研の高性能3次元振動台「W-DECKER®」での効果検証実験

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