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Tool 3:低炭素化社会に対応「構造材料」

これまで紹介してきた建物を使い続けるための技術のほか,当社は低炭素構造材料の開発でも持続可能な社会実現を目指している。

国産スギ材100%使用の耐火集成材

木はサステナブルな材料として広く知られているが,建築物への利用には法的な制限がある。特に不特定多数の人が利用する公共性の高い建物においては,万が一の火災にも耐えうる安全な構造が求められる。そのため,可燃物である木を構造材料に耐火建築物をつくるには,石膏ボードなどの不燃材料で木部を覆い耐火性能を確保することが一般的で,木造なのに木が見えない,木材によるウェルネスを生かせない,というジレンマがあった。

そこで,木の質感を生かした木造耐火建築物のために誕生したのが「FRウッド®」だ。木材に難燃薬剤を注入して耐火性能を付加した,燃えない木材である。開発にあたり,森林資源の有効活用と国内林業の活性化にも貢献できればと,開発チームが注目したのがスギ。スギは国内で最も多く植えられている木材資源であり,薬剤注入に適した特性をもっていた。研究開発の末,2012年に完成したFRウッドは,1時間耐火の大臣認定を取得。都市部など防火地域内の建物や,大規模構造物,中高層建物への利用が可能となった。

東京農工大学,森林総合研究所,ティー・イー・コンサルティングと当社の共同開発

FRウッド

FRウッドは,表面と荷重を支持する芯部の無処理層の間に,薬液注入による難燃処理を施した燃え止まり層を挟み込んだ構成の集成材。FRはFire Resistantの略

従来型の木造に見える構造用部材として,荷重を支持する芯部に鉄骨を使用したものや,燃え止まり層に石膏ボードを用いたものがあるが,FRウッドは100%木材でできているため,接合部や取り合い部の納まりが容易で,従来の木工事(大工仕事)で加工可能というメリットがある。
断面寸法は,柱が240x240mm〜800x800mm,梁は240x180mm〜600x900mm。
豊富なサイズ展開で設計自由度も高い

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2018年に竣工した神田明神文化交流館では,境内を臨むガラス張りの吹抜け空間の柱・梁にFRウッドを使用している。工事のテーマであった「伝統を継承し,新たな文化を創出する明るく開放的な場」「神社神道の活性化に寄与する柔軟でしなやかな場」に,木がもつぬくもりや柔軟性,和の雰囲気を生かした空間で応えた。江戸東京に約1,300年鎮座し,江戸総鎮守としても名高い神田明神。FRウッドの材料は,一部を除き,神田明神が祀る平将門公と縁が深い多摩地区のスギが選ばれた。古来から社寺建築に用いられてきた木材を最新技術で活用した文化交流館は,国登録有形文化財である御社殿をはじめとする周囲の建物と調和しつつ,境内に新しい風を吹き込んでいる。

図版:神田明神文化交流館(左)と,境内への入口である隨神門(右)

神田明神文化交流館(左)と,
境内への入口である隨神門(右)

神田明神 文化交流館(EDOCCO)

場所:
東京都千代田区
発注者:
神田神社
設計:
当社建築設計本部
(一部内装設計:乃村工藝社)
用途:
多目的ホール,店舗
規模:
S造一部RC・SRC造・耐火木造 
B1,4F 延べ3,718m2
工期:
2017年6月〜2018年11月
(東京建築支店施工)
図版:2階に位置する吹抜け空間。柱・梁にFRウッドを使用

2階に位置する吹抜け空間。
柱・梁にFRウッドを使用

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セメントを削減した
低炭素コンクリート

コンクリートの材料であるセメントは,その製造過程で焼成時に要するエネルギー量が大きく,ときに環境への負荷が問題視される。RC構造物のライフサイクルにおけるCO2排出量を見ると,材料製造工程が占める割合は高く,その大部分はセメントと鉄筋からなる。

そこで,当社は環境負荷の小さいRC造を実現するため,コンクリート中のセメントを高炉スラグ微粉末(高炉で銑鉄をつくるときに発生する副産物)で一部代替した「高炉セメント」の研究開発を推進。コンクリートの用途別ニーズに合わせた改良を行い,新たに3種類の環境配慮型コンクリート「エコクリート®ECM,KKC,BLS」を開発した。

図版:低炭素コンクリート開発コンセプト

低炭素コンクリート開発コンセプト

ECMはコンクリート打設時の発熱が少なく,使用量が多い建物の地下部分に適している。セメント使用量を約30%に抑え,CO2排出量を普通コンクリート比で65%程度削減可能。東京ポートシティ竹芝や東京ミッドタウン日比谷で用いられている。KKCは高い流動性をもちCFT構造など鋼管への充填用として最適で,CO2を約40%削減。BLSは約25%のCO2削減に加えて,普通コンクリートを上回る収縮ひび割れ抵抗性が特徴だ。コンクリートのひび割れは美観を損なうのみならず,水などの浸入による鉄筋の錆(さび)を引き起こし,RCの耐久性を損なう原因となる。

図版:適用部位
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図版:山櫻東京支店

BLSコンクリートの地上躯体全体への初適用事例となった山櫻東京支店。名刺などを主に扱う企業の自社ビルであることから,名刺の堅牢なイメージを正面ファサードに表現したRC造とすることが望まれた

山櫻東京支店

場所:
東京都文京区
発注者:
山櫻
設計:
当社建築設計本部
用途:
事務所
規模:
RC造 4F 延べ1,065m2
工期:
2016年6月〜2017年5月
(東京建築支店施工)
図版:グラフ

建物の顔となるRCの壁面へのひび割れ発生を防ぐため,ひび割れが表面を覆う弾性塗料の追従可能な範囲である0.3mm以下となるよう,目地間隔を算出した。デザイン上目地を設けることが難しい1階部分は,鉄筋量を増やすことでコンクリートの収縮を抑制し,ひび割れを分散する計画としている。
エコクリートBLSは,ひび割れを避ける際に選択される一般的な膨張コンクリートに比べ,環境負荷のみならずコストも低い

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廃棄物を再利用する
再生コンクリート

コンクリートはセメントと水に,砂利や砂などの骨材を混ぜてつくられている。この骨材に,使用済みコンクリートの塊を利用したものを「再生骨材コンクリート」といい,廃棄物削減および資源有効活用の手段として利用の拡大が望まれている。

再生骨材の製造には,品質,処理に要するエネルギー,副産物である微粉末の量の3点を,廃棄物再利用のメリットが確保できるバランスに収めることが必要。当社は処理エネルギーを抑えた中品質再生細骨材を製造し,コンクリート収縮を予防する膨張材と組み合わせて構造体に用いる技術を実用化。さらに,原子力発電所の工事に適用可能なほどの高品質な再生細骨材を,独自の方式で製造する技術も実用化した。

当社の充実したラインナップの環境配慮型コンクリートは,建築材料の選択肢を増やし,持続可能な社会の構築に貢献していく。

図版:技術研究所の本館研究棟

2011年に建替えが完了した当社技術研究所の本館研究棟。RC造の旧研究棟を解体した際に発生したコンクリートガラを骨材とした再生骨材コンクリートを,地上部の躯体と一部外構に使用している。上部躯体に中品質の再生細骨材を適用した国内初の事例となった

技術研究所 本館 研究棟

場所:
東京都調布市
設計:
当社建築設計本部
規模:
RC造 B1,5F 延べ8,914m2
工期:
2010年4月〜2011年10月
(東京建築支店施工)

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