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Tool 2:地震を建物に伝えない「免震」

制震構造と並び高い耐震性能をもつ免震構造。当社の設計・施工力が発揮された新築・改修の各事例を紹介する。

防災拠点としての庁舎

千葉県浦安市の新市庁舎は,2016年,市の文化会館,中央図書館など公共施設の集まる東京湾にほど近いエリアに完成した。11階建ての新庁舎に要求されたのは,分散・老朽化していた旧庁舎の機能を統合,多様化する市民サービスに応えるとともに,災害時の防災拠点として機能することであった。

そこで地震対策として,液状化のおそれがあった敷地地盤には,地盤の表層15m程度まで分布する軟弱な砂層に対して,建物直下だけでなく敷地全体に液状化対策を実施。そのうえで免震構造を採用した。地震の揺れを緩やかな動きに変換する天然ゴム系積層ゴム,揺れを吸収して静める鉛プラグ入り積層ゴムに加えて,揺れの収束を早めるオイルダンパを組み合わせて基礎部分に配置することで,免震構造に影響の大きい長周期の地震に対して揺れを抑える構造設計としている。

図版:浦安市新庁舎
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浦安市新庁舎

場所:
千葉県浦安市
発注者:
浦安市
基本設計・監理:
日建設計
実施設計:
当社建築設計本部
規模:
RC造一部S造(免震構造) 
11F,PH1F 延べ25,600m2
工期:
2014年9月〜2016年5月
(東京建築支店施工)

上部構造は,求められた短い工期のなかで建物躯体の品質確保を実現するために,当社独自の超高層RC構法である「HiRC構法」のノウハウを生かした,柱,梁,床,階段壁のプレキャスト(PCa)化を選択。最終的に,柱と大梁は工場および現場で製作したPCaとし,床版は一部を除いてハーフPCa合成床版とすることで型枠工事を大幅に削減した。また,PCa梁上部の現場打ちコンクリートをスラブと同強度としても耐力が確保される「カジマスマートビーム工法」を採用することで,コンクリート打設工事の合理化を実現している。

庁舎という自治体の顔となる建物であることから,見た目の美しさにもこだわった。構造が外観に現れたアウトフレームのファサードデザインとPCa化による部材間の目地を融合させるため,外周柱および建物の四隅に滑らかな表面をもつPCa型枠(PCf)を採用している。このようなきめ細かなデザインは,PCa工法に数多く取り組んできた当社の技術と経験の賜物だ。

図版:断面図

基礎部分に設置した免震装置は,外周部に鉛プラグ入り積層ゴム,内側に天然ゴム系積層ゴムとオイルダンパを配置した。市庁舎のなかで特に大きな部屋となる議場は2層吹抜けで,18mスパンのS造梁を架け渡している

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免震構造の仕組み

図版:無対策

通常の建物では,地盤の振動によって建物は変形,上層階ほど大きく揺れる。一方,免震構造は積層ゴムなどの免震装置によって建物を地盤から切り離す技術で,地震時の地盤の揺れが建物に伝わりにくくなる。
揺れはゆっくりしたものになり,下層階と上層階の揺れ幅の差は小さくなる

図版:基礎免震

基礎免震とは基礎部分に免震装置を設置する方法。
建物全体が地盤から分離されるため,下階から上階まで等しく優れた安全性と快適な居住性が得られる。
地盤と建物の揺れ方が異なるため,建物の足元周りに変形差を吸収する空間的余裕(クリアランス)が必要

図版:柱頭免震

柱頭免震とは柱頭部に免震装置を設置する方法。
地震時,装置より下部は地盤と連動して小刻みに,上部は独立してゆっくりと揺れる。
免震装置の上下で変形が違うことで,仕上げや設備に破損などの影響が出ないよう配慮が必要

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