都市部における居ながら免震改修
東京・日本橋エリアに建つ小津本館ビルは,1971年竣工の旧耐震基準に基づき設計された店舗付きオフィスビル。2011年に耐震診断を行った結果,強度不足が見つかった。建物を所有する小津商店は,三百六十余年にわたり和紙販売などを営んできたこの創業の地と,歴史ある建物への愛着が深く,既存建物を改修し使い続けていくことを望んだ。
耐震診断の結果を踏まえ改修案を検討したところ,耐震構造とする場合は,各階で鉄骨ブレースなどによる補強が必要と判明。一方,免震構造は,建物が敷地いっぱいに建っているため,基礎下や地下階での免震化が不可能であることがわかった。そして考案されたのが1階の柱上部(柱頭)での免震化である。所有者とともに改修案を精査した結果,耐震改修による貸室の有効面積および室内レイアウト自由度の減少を避け,工事中の入居者負担を小さくする,柱頭免震改修が選ばれた。

小津本館ビル(改修後)。高密な都心部で,建物が敷地境界線に近接しており,地下での免震改修が不可能な条件にあった
小津本館ビル(改修工事)
- 場所:
- 東京都中央区
- 発注者:
- 小津商店
- 設計:
- 当社建築設計本部
- 用途:
- 事務所,店舗
- 規模:
- SRC造(免震構造) B2,11F
延べ8,189m2 - 改修内容:
- 1階柱頭免震
- 工期:
- 2013年4月〜2015年4月
(東京建築支店施工)
この改修の特徴は,建物所有者が利用している1階および上下階である2階~地下1階に工事箇所を集中させた構造計画にある。具体的には,1階柱頭部分で建物を切断し,それより上の部分をジャッキアップして免震装置を挟みこむ免震化工事と,各所に必要な構造補強を実施。加えて,免震構造では,その上下で地震時の変形が不連続となるため,内・外装,内・外部階段,EV,設備配管,ダクト,配線や煙突なども,重要度に応じ基準を設けたうえで地震時の変形に追従できるよう対策を講じた。
これらの工事を,入居者負担が最小限になるよう,居ながらで施工している。動線である1階エントランスホールおよびEVホール,避難階段を常に利用可能な状態とするため,工区の分割,工事時間の調整は所有者および入居者と相談しながら進めた。また,工事内容や騒音・振動の発生のアナウンスも徹底して実施。居ながら工事は利用者とのコミュニケーションなくしては決して実現しない。当社が誇る技術に現場に関わる人の力が重なって,安全・安心はつくり出されているのだ。

柱頭部分の免震化にともなってこれまで以上の強度が必要になる1階既存柱(図中青色部分),1・2階の既存大梁(同赤色部分)および2・3階の一部既存壁に増打ち補強を実施。また免震装置設置の過程で2階以上を一時的にジャッキアップするため,1階柱の上にプレストレスを導入し強度を高めたジャッキ受けのキャピタルを設けた(同緑色部分)。免震装置は鉛プラグ入り積層ゴムとし,1階の20本の柱すべてに設置した(同濃灰色部分)

改修後の1階店舗部分。柱上部に免震水平スリットが見える