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特集 サステナビリティを支える建築構造

建物の骨格である建築構造。それを担う構造設計者が向き合っているのは力学的な課題だけではない。
建物がつくられる背景には社会がある。
変化する社会のニーズに向き合い,答えを出していくことが,設計の役目である。
今月の特集では,当社建築構造設計の取組みの歴史を振り返るとともに,
現代社会の課題であるサステナビリティを実現する支えとなる構造技術を紹介する。

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Interview

図版:黒川泰嗣
建築設計本部
黒川泰嗣
執行役員副本部長

サステナブル社会の実現と深く関わる建築構造。持続可能な建物づくりや,社会ニーズに応えてきた当社の構造設計の歩みを,当社執行役員・建築設計本部黒川泰嗣副本部長に聞いた。

SDGsと建築構造

昨今,サステナブルな社会の実現に向け,国内外の多くの企業がSDGsを意識した活動を行っています。SDGsは世界の持続可能な開発を目指して,様々なアングルから定められた国際的な目標の集まりです。当社はこのSDGsを達成すべく,総合建設業として取り組むべき優先的課題(マテリアリティ)を策定しています。

7つある当社のマテリアリティのなかでも,「1 新たなニーズに応える機能的な都市・産業基盤の構築」「2 長く使い続けられる社会インフラの追求」「3 安全・安心を支える防災技術・サービスの提供」「4 低炭素社会移行への積極的な貢献」「5 たゆまぬ技術革新と鹿島品質へのこだわり」は,建築構造と深く関わっているのです。

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図版:当社が掲げるSDGsのマテリアリティ

当社が掲げるSDGsのマテリアリティ

鹿島品質確保へのたゆまぬ努力

長く使い続けられる社会インフラとは,建築構造の立場からいえば「使い続けられる建物をつくる」ことです。そのために重要なのは,まず第一に品質を確かなものとし,安全かつ安心と思っていただける建物をつくること。つまり鹿島品質確保の徹底です。

この実現のため,私たちは常日頃から細心の注意を払っています。一例を挙げると,当社は技術開発に伴い制震装置などの開発も行っており,装置の製造はメーカーに依頼していますが,製造工程における検査や管理は当社で責任をもって行っています。竣工時には見えなくなる部分にまで目を光らせ,建物の細部にわたる品質の確保に力を注いでいるのです。

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今後求められるウェルネス

持続可能であるためには,未来に向けた新たなニーズに応えていくことも重要です。例えばこの先,建物にはより一層の「快適さ(ウェルネス)」が求められるでしょう。建物を使う人の快適性のために,今後重視されていく事柄として例えば「環境振動」があると考えています。ライブハウスなどで発生する縦揺れ,あるいは地下鉄や道路,建物内の機械室などから発生する振動は,近隣の環境騒音となり,居住者に無意識のストレスを与えることが指摘されています。また,東日本大震災では建物がゆっくり長時間揺れる「長周期振動」が観測されました。長周期振動は,地震のみならず台風などの強風時にも発生し,人に不安感を与えることがわかっています。

これらの揺れによる不快感を建物から取り除くため,当社建築設計本部構造設計統括グループでは技術研究所(以下,技研)と協力して実験・研究を行っています。気持ち悪い揺れ,歩けないような揺れ,恐怖を感じる揺れにはどんな特徴があるのか。感覚的な指標を研究によって定量化し,具体的に理解していくことで,快適性の高い建物を実現しようとしています。

また,木を使った建物には,CO2を固定化できるといった長所があるうえに,利用者が心地よさを感じるというデータがあります。木の利用もウェルネスへの回答のひとつになるでしょう。木造・木質構造においても当社はFRウッドなど新しい技術を開発,実用化しています。SDGsに先駆けた環境基準として,建築設計においてはCASBEEという指標があります。長年CASBEEを意識した設計に取り組んできた当社は,独自の低炭素構造材料も多数保有しています。

技術研究所との協力

先ほどの揺れの感じ方の研究のような,技研との共同研究開発が当社の建築構造設計を特徴づけていると思っています。設計が「こんな技術があったらいいな」というニーズを拾い上げ,技研と一緒に開発していくというパターンが多いです。他の総合建設会社に先駆けて社内に技術研究所が発足した1949年から,長きにわたり築き上げてきた協力関係で,つながりの強さは業界一と胸を張っていえます。

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社会ニーズに応えてきた
超高層の歴史

技研と設計が一緒になって実現した初期の代表例に,霞が関ビルディングがあります。都市の高密化という社会ニーズに対して生まれた日本初の超高層建築です。これまでにない超大型の建築物ですから,実現にあたって高い技術力と設計力が必要とされたことはいうまでもありません。

霞が関ビルディングの次に取り組んだのがRC造の超高層建築です。当時,RC造は耐震性などを理由に6階程度が法制上の限界でした。S造より経済性に勝るRC造による超高層ビルへのニーズ増加を予測した当社は,数々の研究を重ね,粘り強く耐震性能の高いRC造を開発し,椎名町アパート(現:テラハウス南長崎1号棟)に結実させました。S造と比べて,躯体工事で20〜30%のコストダウンを達成しています。

その後も当社は超高層ビルの建設をリードし続けてきました。90年代に入る頃には,超高層ビルにも個性とブランドが求められ,丹下健三氏などの有名建築家がデザイナーとして関わるようになりました。同氏が基本設計を行った新宿パークタワーのような複雑な形の実現は,当時最新鋭のコンピュータを駆使した構造設計の賜物です。2000年以降も技術革新を続け,芝パーク・タワーでは独自開発したスーパーRCフレーム構法により,内部に柱・梁のないフレキシブルでサステナブルな空間を達成しています。今年竣工した東京ポートシティ竹芝は,快適さを追求した最先端の都市型スマートビルで,東京都公募の「スマート東京」にも採択されました。

図版:霞が関ビルディング

図版:椎名町アパート

図版:新宿パークタワー

図版:芝パーク・タワー

図版:東京ポートシティ竹芝

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耐震改修にも独自技術で応える

小堀鐸二研究所(以下,小堀研)の存在も当社の建築構造設計を語るうえで欠かせません。制震構造の提唱者である小堀鐸二氏を招き,社内に小堀研が設立されたのは1985年のことです。その10年後,兵庫県南部地震が発生し,耐震性のニーズが急速に高まりました。当社はそれまでに積み上げた地震時の建物振動の研究成果を生かして,新しい建物には制震構造など新技術を活用し,既存の建物には診断をして耐震補強をしましょう,とケースバイケースで最善と思われる方法を提案していきました。耐震補強自体は一般的な技術です。しかし当社は,制震構造研究から生まれた独自のハニカムダンパやオイルダンパといった制震装置を適材適所に組み合わせることにより,少ない補強箇所で合理的に,建物の使いやすさや美観を損なわない,ワンランク上の耐震補強を提案できると自負しています。

近年でも,超高層ビルのテナント稼働を維持しつつ「居ながら」に耐震性能を高めた新宿三井ビルディングの制震改修など,時代のニーズを先取りしたチャレンジングな改修プロジェクトを実現しています。新宿三井ビルディングのために新規開発した技術D3SKYはその後の継続的な研究開発を経て,D3SKY-cへと進化しました。福岡フジランドビルのような,地方都市に数多くある中規模ビルの制震改修に最適な技術で,今後発生が予想されている南海トラフなどの地震への備えとして,注目を集めています。

2011年3月の東北地方太平洋沖地震では,建物の構造は大丈夫でも天井や壁が崩落してしまう事態が多数発生し,天井の耐震改修という新しいニーズが出てきました。サントリーホールの天井耐震工事にあたっては,国内外から高い評価を得ていた音響に影響を与えないよう,仕上げ材には一切の変更を加えずに天井裏の変更だけで耐震補強を行い,特定天井の国土交通大臣認定第一号を取得しました。構造から仕上げ材料に至るまでの幅広い知識と,高い施工技術があるからこそ可能な耐震補強工事といえるでしょう。

図版:サントリーホール

図版:新宿三井ビルディング制震改修

図版:福岡フジランドビル改修

ここで挙げた例は構造設計統括グループの取組みのごく一部です。技研および小堀研とチームになって,よりよい社会インフラ創造に向けて日々励んでいることを知っていただけたら嬉しいです。

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