新たなる建設現場へ
次世代建設生産システムを大結集
(仮称)鶴見研修センター新築工事
当社開発・設計・施工の実務体験型研修施設として進行中の
(仮称)鶴見研修センター新築工事では,多岐にわたる “鹿島スマート生産”の技術を結集させている。
当社初となるフライングボックス工法TMではTawaRemo®を使用し,
工事事務所のスマート化やICTツールを駆使することで近未来の現場・工事事務所の姿をいち早く体現。
現場で取り組んでいるさまざまな挑戦を紹介する。
【工事概要】
(仮称)鶴見研修センター新築工事
- 場所:横浜市鶴見区
- 発注者:当社開発事業本部
- 設計:当社建築設計本部
- 用途:事務所(自社研修施設)
-
規模:RC造一部S造,W造 5F
延べ5,810m2 - 工期:2021年7月~2022年12月
(横浜支店施工)
鹿島スマート生産施工を駆使した
実務体験型研修施設
横浜市鶴見区,JR南武線尻手駅近傍に位置する場所で,当社が計画を進める「(仮称)鶴見研修センター新築工事」が行われている。
当施設は,当社の建築施工・設備系および施工系グループ会社の若手社員の教育の場として,建物内にS造・PC造・RC造の構造部材や設備機器等の実物大モックアップを備えた実務体験型研修施設。建設現場では,さまざまな “鹿島スマート生産”の技術を結集していることが特徴だ。
「当現場は『魅力ある建設現場への進化・発展のため次世代建設生産システムに挑戦しよう』をスローガンに,鹿島スマート生産や新たな工法を駆使しています。共用部と81部屋の宿泊室には「木」を使用し,53室は在来工法,28室は地上部で組んだ“部屋”ごとタワークレーンで吊り上げ,設置する工法を採用しています。一連の作業には外装取付アシストマシン『マイティフェザー®』やタワークレーン遠隔操縦システム『TawaRemo』を導入。新築の現場で着手時からTawaRemoを使っているのはこの現場が国内で初めてです」と説明するのは現場を指揮する中山卓哉所長だ。さらに,多様な機能を備えたスマート工事事務所を取り入れ,『工事事務所の玄関からかっこよく』をコンセプトに共用部でも使用する木材を事務所入口にも施している。現場のあらゆる箇所にはカメラを取り付け,事務所内のモニターから現場の状況を把握することが可能となり,移動時間の削減だけでなく,特に安全配慮が必要な場所に可搬式のカメラを設置することで,危険の芽を事前に摘むことができるという。
photo:takuya omura
「カメラは歩行者検知としてゲートにも設置し,死角となる場所でも歩行者がいることをモニターで確認できます。この現場では『働き方改革』と『労働災害防止』を重視し,5年後,10年後の現場や工事事務所が,こうなってほしい!を実現しようとさまざまな取組みを行っています。対応可能なものはすべて挑戦し,検証・改変を繰り返し,見学会では当現場の取組みを紹介しています。それが鹿島スマート生産を次の現場へつなげるための自分の役目であり,技術開発の代表現場で働けることを誇らしく感じています」(中山所長)。
photo:takuya omura
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フライングボックス工法を
初めて実工事へ適用
フライングボックス工法は,現場敷地内の屋内地上部でPC床版にCLT※1パネルの壁と天井を組み立て,内装まで仕上げた後に揚重し所定の位置に設置する工法。在来工法に比べ天候の影響を受けないため,計画的に安定した施工が可能であることに加え,仕上材などの揚重回数が大幅に減少するほか,多くが地盤レベルでの作業となるため,生産性や安全性の向上にもつながる。
「施工効率を検証するため,フライングボックス工法でのユニット化施工と在来工法の2種類を採用しています。ユニット化施工は,最初に宿泊室のモックアップをつくり,納まりや仕上げを確認するなど,協力会社さんとベストな施工方法,手順を試行錯誤したことが実施工で活かされています」と五十嵐佑工事課長は説明する。
またユニット化施工では床を除く5面に木を,在来工法の宿泊室は1面にCLT耐震壁を使用している。「木を使用するということは,施工の初期段階で仕上材を扱うことになるので,特に気を配って作業しなければならないのと同時に,CLTは雨や傷への対策として念入りに養生もしています。フライングボックス工法の揚重作業は,水平維持装置を使用したので,バランスも問題ありませんでした。しかし設置箇所は,RC壁がユニットに挟まれる状態になることや,PCa柱がユニット設置後の施工となることから,どのように施工をすべきか,着工前から関係部署と協議を重ね,ユニット設置後でもPCa柱を立てられるよう,鉄筋構造も見直しました。フライングボックス工法は揚重の前後でさまざまな工程があり,建築管理本部や建築設計本部,支店関係部署と話し合いを重ねた上で作業しているため,関係者一丸となり施工している意識が強いです」(五十嵐工事課長)。
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スマート工事事務所で快適に働く
当現場は時間外労働時間の削減を目標として工事事務所にフリーアドレスを導入し,集中ブース,立ち会議用テーブルなどを採用するほか,現場可視化のためのモニターを7台設置している。「モニターで工事の進捗具合や現場に行くタイミングが分かり無駄な時間が削減できます。また,所内や協力会社さんとの打ち合わせは,大画面モニターを使って立ち会議用テーブルで行うことが多いです」と阿部晋工事担当は話す。また,フリーアドレスにすることで,所員が自席に書類を溜め込まず,情報漏洩や書類が埋もれてしまうことを防ぎ,常時綺麗な状態に事務所を保つことができる。「スマート工事事務所の導入により,整理整頓やペーパーレス化が自然と推進され,ICTツールを複数組み合わせることで効率的に働くことができています」。当現場では日々の業務時間を1時間ほど削減し,若手社員は時間外労働時間45時間未満を達成している。
photo:takuya omura
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K-Mobile®を全作業員に配布
さらに情報漏洩防止のため現場への私用携帯電話の持ち込みを禁止し,現場の安全性と生産性の向上をはかることを目的に,作業員専用スマートフォン「K-Mobile」を当社で初めて全作業員に配布している。配布したK-Mobileは現場からの持ち出しを禁止し,終業時には必ず鍵のかかった指定のロッカーへ戻すことを徹底している。「導入当初, K-Mobileのみ持参することに抵抗を感じる方も多く,全員にこのシステムを普及させるのは苦労しました。導入から1年経ち,現在は良さを理解してもらえています」と白鳥典子IT担当は説明する。
K-Mobileはさまざまなアプリを導入し,作業の安全性と生産性の向上に寄与している。高所作業車の鍵管理アプリ「QRKAZASTM(キューアールカザス)」は,使用前点検項目を入力し,発行されたQRコード※2を高所作業車の読み取り機器にかざすと電源が入る仕組みだ。従来,事務所まで鍵を借りに行っていた手間がなくなり,作業員から好評のアプリとなっている。また白鳥担当は,「資料・動画閲覧アプリ『Libra V(リブラブイ)』は安全ダイジェストや支店ルールブックに加え,災害事例を動画で見ることもでき,作業員さんから自分が関わっている作業の災害事例が見たいとの要望もあります。K-Mobileが浸透し,役立っていることを実感しています」と話す。そのほか,試行中の危険検知アラートは,ビーコンを配置したエリアに近付くと,K-Mobileがアラートとバイブで警告し,同時に管理者へも通知がいく仕組みとなっている。
モデル現場として,さまざまなツールの運用・改善を繰り返し,新しく導入する現場へ展開する。魅力ある建設現場への進化・発展を目指し,新たなる挑戦はこれからもつづいていく。
photo:takuya omura
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設計者の「木」へのこだわり
photo:takuya omura
当研修施設は,「FEEL & THINK」をコンセプトに,五感で感じ,しっかりと考えるための空間と時間を提供する実務体験型研修施設です。滞在時間すべてを研修と位置づけ,食事や就寝など生活を通して能動的に感じ,見るものや匂い,空気感も含め考える場とすることで,記憶に残る施設にしています。研修エリアには全体講義やグループワークを行うスペースのほか,実物大モックアップを設置し,木造木質の宿泊室を完備しています。木は温かみがあり,今も昔も我々日本人にとってなくてはならない存在です。また近年,エコの観点からも木質に対するムーブメントが強い傾向にあります。しかし一括りに「木」と言っても針葉樹から広葉樹までさまざまな木が存在するため,「木」に対する日本人の目や文化を表現したいという観点で設計しました。そこで,当社グループ会社であるかたばみ興業が保有する宮崎県の清蔵ヶ内山林から針葉樹のスギ材をCLTに,北海道の尺別山林からは広葉樹であるハルニレ,ミズナラ,ダケカンバ,ヤチダモの4種類を伐採し,集成材として造作家具に使いました。この4種類は,昔からアイヌの暮らしの中でも役立っていた代表的なもので,樹木の特性からそれぞれ,火起こし・食料・医療・舟などに使われていました。そのイメージをカーペットに残し,人とのつながりの歴史も感じてほしいと考え,設計しています。
それぞれの部屋に滞在することで,匂い,硬さ,木目の違いを五感で感じてほしいと思います。また食事を自由に選択できるようにし,場所もさまざまな空間を用意しました。ここに来て帰るまでの間は,すべて自らの意志で行動する時間となり,能動的に感じられたことは,発見を生み,考えるきっかけになります。それが当社の経営理念にある「科学的合理主義」につながる科学的態度なのではないかと思っています。
鹿島グループとして保有する山の木を使い,設計・施工し,利用する。これができるのは鹿島グループとしての強みです。また設計者として,生えている木を選定し,その木から設計し,伐採,製材を経て,施工へつなげていく。それは普段の設計とは違った感覚であり,愛着も湧きます。今回このような貴重な体験ができたことを設計者として非常に嬉しく誇りに思います。