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Part 1 Interview 日本橋の魅力と街づくり

官民地域一体で進められている日本橋の街づくり。
長年,街づくり行政を担ってきた中央区副区長の吉田不曇(うずみ)氏と
「日本橋再生計画」を推進する三井不動産日本橋街づくり推進部 上席主幹の新原(しんはら)昇平氏に,
日本橋の魅力と街づくりについてお話を伺った。

背景画像:富嶽三十六景 江戸日本橋(部分)(提供:国立国会図書館)

写真:中央区副区長 吉田不曇 氏

中央区副区長
吉田不曇 氏

日本橋という街を時代の流れから見つめると,常に東京の中心地であり,地域の皆さんが元気にご商売をされる中で,街が形成されてきたと感じます。街の在り方を含めて,行政側が街づくりを支援するイメージではありませんでした。風向きが変わったのは,バブル崩壊でした。銀行の不良債権問題や株価低迷,大手証券会社の倒産などにより,日本橋の消費を支えていた金融系の方々が散るように姿を消し,株の注文処理を行ういわゆる「場立ち」の人もいなくなり,それとともに日本橋の活気も失われていったのです。

こうした中,日本橋を何とかしなければ,という気運が地域の中で必然的に生まれてきました。それが日本橋の街づくりを本格的に開始した契機となったのですが,今思い返すと,高度成長期に日本橋などに本社をおいていた大企業が,成長とともに事務所が手狭になり,丸の内や大手町に移転していたことに端を発していると感じます。丸の内や大手町など,もともと大名屋敷があった場所が,大きな街区を確保でき企業のニーズに合致したのでしょう。

では,日本橋を再生するために何をすべきか。約20年前,街を歩きながら感じたのは,百貨店以外は1階スペースしか利用しておらず,商業の街というには,極端に商業用の床が少ないということです。また,訪れる客層も高齢化が進み,落ち着いた街ではあるが,何か快活さがなくなってきている印象でした。そこで,建物の更新をしやすい環境を整え,若者にとって魅力的なコンテンツを呼び込み,かつての東京の中心地としての賑わいを再び取り戻そうと考えたのです。東京メトロ銀座線・半蔵門線・東西線,都営地下鉄浅草線,そしてJR総武線快速がある交通結節点であり,恵まれたアクセス環境があるのですから。

その代表例が,今年オープンした「ポケモンセンタートウキョーDX」です。親子連れや若い人を中心に人気スポットとなっています。日本橋には相応しくないと思う人もいるかもしれません。しかし,日本橋には単なる若者の街にはならない歴史・文化が残っています。それも江戸幕府開府から400年続く老舗もあり,若者が初めて本物の“日本ブランド”に接する機会を与えてくれます。その魅力に惹かれた人は,再び日本橋へと足を運ぶのです。それは,外国人観光客についても同様のことがいえ,日本橋を訪れる外国人のリピート率が高いのは,その証でしょう。

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近年,日本の将来を見据えた投資に対してブレーキをかける発言が目立ちますが,国内事情だけに振り回されずに世界にもっと目を向けるべきだと私は考えます。国連の発表によると,現在76億人の世界人口は,2050年に98億人に達し,今後約30年で2割以上増えます。世界経済の規模も同程度拡大すると考えれば,日本は世界とつながることで,それ以上のシェアをとるくらいの意思を持ち,そのための準備が必要だと思うのです。国内の産業構造は,観光や国際交流へと比重を移しつつあります。その間に,魅力ある街を創造しておくことが肝要なのです。

日本の街の魅力とは「安全・安心・清潔・美味しい」だとよく話をします。これを基本としながら,それぞれの街が強い個性を持つ必要があります。そうすることで,どこを訪れても違う魅力に触れることができるのです。中央区でいえば,築地を拠点に,水運で日本橋へ,そして歩いて銀座へというネットワークを創ることで,それぞれの街が持つ個性を同時に味わうことができます。そんなことを想うと,日本橋へ向かう時,やはり首都高という鉄の屋根に覆われた日本橋は美しくなく,地下化する意義が見えてくるはずです。

こうした街づくりは,デベロッパーや建設会社の協力なしには夢物語となってしまいます。街に脈々と続く個性があるように,民間各社にも歴史と経験の中で培われた個性を守り続けることが大切です。そのことを忘れずに,今後も街づくりに尽力いただければと思います。

写真:三井不動産日本橋街づくり推進部 上席主幹 新原昇平 氏

三井不動産日本橋街づくり推進部
上席主幹
新原昇平 氏

残しながら,蘇らせながら,創っていく―。この言葉に,三井不動産創立の地「日本橋」の再生に対する私たちの思いが込められています。日本橋の歴史的建造物や老舗文化を残しながら,水と緑に溢れていた街の景観や賑わいを蘇らせ,次世代に向けた新たな街の魅力を創っていきたいと考えています。

江戸時代,日本橋は魚河岸や金座,越後屋,江戸歌舞伎などに代表されるように,経済,金融,物流,商業,文化,流通などの多様な機能の複合により発展してきました。多くの商人が活躍の場を求め,日本橋へと集まり活況を呈していたのです。そこには激しい競争が生まれ,明日また商売ができる保証はない厳しい環境でした。そうした中で,常に新しいことをやっていかないと生き残れないという精神が生まれ,江戸っ子の心意気や粋につながっていきます。100年以上の歴史を持つ老舗の皆さんや明治になって呉服店から姿を変えた百貨店が,今も事業を営み発展し続けていらっしゃるのも,その精神が受け継がれていたからでしょう。日本橋には,懐古主義ではなくチャレンジするDNAがあるのです。

江戸,東京の中心地だった日本橋。バブル崩壊後,その地位は低迷していきます。歴史が育んできた精神やDNAを残しながら,何とか日本橋を再生させたい,そうした思いで「日本橋再生計画」をスタートさせました。2004年の「コレド日本橋」オープンを皮切りに,「日本橋三井タワー」,「コレド室町1・2・3」など新たなスポットを生みだしています。日本橋三井タワーに世界最高評価を得ている「マンダリン オリエンタル 東京」を誘致したことは,街に大きなインパクトを与えました。ある調査では,丸の内などと並びオフィステナントの移転希望エリアのトップにランクされています。

そして,個別のプロジェクトから面へと展開する第2ステージへと移行し,街づくりが本格化しています。経済的な活力を生みだすため,江戸時代から薬の街として知られ,今も多くの製薬企業が本社をおいていることに着目しました。ベンチャーを含めたライフサイエンス関連企業が集積しやすい環境を整備し,新たな産業創造を促したいと考えています。また,鹿島さんに協力いただいている日本橋二丁目と室町三丁目エリアの2棟の大規模オフィスでは多様な人々が働くことになり,新たなワーカーが地域をさらに活気づけてくれるはずです。

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歩いていて楽しくなるような,連続した賑わい創りにも力を入れてきました。9月にオープン予定の「日本橋髙島屋S.C.新館」や「日本橋ガレリア」も,その一例です。日本橋に今までなかった専門店が多く入っていますので,30・40代の集客に期待しています。

多くの人々に日本橋へ足を運んでもらい,その魅力を肌で感じてもらうことも街づくりの大切な要素です。それは,新たなコミュニティを創出し,街の活性化にもつながるからです。現在開催中の「ECO EDO 日本橋 2018」や「日本橋橋洗い」など,日本橋のコミュニティと交流できる様々なお祭りやイベントを行っていますので,立ち寄ってみてください。その時,石造二連アーチ橋の日本橋も是非ご覧ください。先日,首都高の地下化計画について,ルート案が提示されましたが,高速道路が移設されれば,美しい水辺と青空をもっと楽しめると感じられるでしょう。かつて「東洋のベニス」と例えられた街,美しい水辺は人々に潤いと癒しを与えてくれます。日本橋が本来の輝きを取り戻すには,水辺再生は重要なテーマで,是非とも実現してほしいと思います。

今年竣工から50年を迎えた「霞が関ビルディング」以降,鹿島さんとは様々なプロジェクトをとおして,新たなチャレンジをしてきました。それぞれの役割を果たしながら価値あるものを創ってこれたと感じています。今後も日本橋が持つチャレンジするDNAを受け継ぎ,お互いよい仕事をしていければと思います。

図版:日本橋図会 江戸名所橋尽(部分)(提供:国立国会図書館)

日本橋図会 江戸名所橋尽(部分)(提供:国立国会図書館)

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