ホーム > KAJIMAダイジェスト > August 2018:特集-2「緊迫の45時間」 > 緊迫の45時間

KAJIMAダイジェスト

緊迫の45時間

緊迫の45時間が始まる

5月25日22時,いよいよ本番が始まった。「これまでも終電後の作業となる同様の工事は何度も経験してきたが,45時間続けてというのは初めて」(幸野所長)。工事は,27日夜間の工事完了まで連続作業となるため,各日夜,昼の2交代制で臨む。現場のほか,土木管理本部,土木設計本部,技術研究所,機械部の本社関係部署や支店,他現場からも応援が駆け付けた。また,工事中は歩行者が相当数現場周辺を往来することから,渉外対応のため事務系社員を現地に配置。作業員を含めた工事関係者は延べ1,086人。全社を挙げて難工事に挑んだ。

既設桁撤去

25日22時,旧大山街道が全面通行止めとなった。26日10時まで約12時間続く初日の通行止めは,宮益架道橋の既設桁を切断,撤去するためのものだ。既設桁は長さ約29m,重量は約73tとなる。

現場のもう一人の監理技術者であり,軌道外の地上工事を担当する小澤智裕工事課長は「限られた時間内に作業を完了させるため,事前に可能な作業を進めることで当日の作業を減らす工夫をしました」と言う。撤去ブロックの重量軽減,当日の桁切断時間短縮のため,電車の運行に支障がない範囲で部分的に鋼床板,横桁,横桁連結ボルトを撤去した。

写真:小澤智裕工事課長

小澤智裕工事課長

作業はまず4分割にガス切断する既設桁を支える仮受ベントを設置。切断位置3ヵ所のうち2ヵ所は車道部となるため当日の設置となる。道路勾配によって高さ,角度が変わることから事前に測量を行い調整した。ベント設置後,主桁の下フランジ切断,残っている横桁連結ボルトの撤去,橋台との縁切り,主桁の本切断と作業を進めた。桁の切断にあたっては,本設と同じ形状の供試体を用意して,切断方法の検討,複数人の作業員から平均的なサイクルタイムを割り出して施工計画を練った。

改ページ

既設桁撤去工事で最前線に立ち,現場を指揮したのは石綿理工事課長代理だ。石綿課長代理は「この2日間の最初となる作業なので重圧があった。ここでつまづいてはいけない。既設桁撤去工事はそれぞれの作業を異なる協力会社が担当しているので,分刻みで動く工程を実際に現場で手を動かす作業員全員が理解していないとトラブル発生のリスクが高まる。事前に何度も周知会を開き,工程とそれに対する作業員の動き方を工事関係者全員で共有した」と話す。工事は,さも演劇かのように作業員全員が計画通りに動き,作業間の連携も滞ることなく進んだ。

写真:石綿理工事課長代理

石綿理工事課長代理

午前4時37分,想定よりも早く既設桁の撤去作業に取り掛かることができた。道路上に据えた130t吊りオールテレーンクレーンで4分割した既設桁を恵比寿方のブロックから順次撤去していく。「1ブロックあたり約50分の作業でしたが,山手線が運行するなかでの作業となるため実際に桁を吊っている時はやはり緊張感がありました」(小澤課長)。撤去した桁は自走台車で一時的に借地した隣接ヤードに運搬,仮置き。そのままの状態ではブロックが大きく搬出できないため,ヤード内で小割切断した後に搬出した。

写真

①旧大山街道を通行止めにし,既設桁の撤去を行った ②撤去された桁は自走台車でヤードへ運搬される
③撤去作業の様子 ④ヤードで小割切断された桁(撮影協力: JR東日本)

改ページ

新設桁架替

26日0時30分,既設桁撤去作業を行っている宮益架道橋から新宿方約230mにあるヤードでは新設する桁を移動する準備が進められていた。このヤードは,2017年7月に閉館したルミネマン渋谷店を解体した跡地だ。ここで地組みした長さ30m,重量120tの新設桁を宮益架道橋まで移動して架替を行う。

作業はまず,新設桁をヤードから埼京上り線まで移動させる「横取り」のための軌条(レール)を軌陸クローラークレーンで設置した。その軌条上を「縦横台車」と呼ぶ台車にセットされた新設桁が,19.1mの距離を毎分1.5mのスピードで移動する。「4月23日夜間に現場で実際に使用する設備で横取りの試験施工をしていた分,安心して新設桁移動のスタートを切ることができた」と話すのは山元茂弘工事課長代理。軌道内工事の施工管理を主に担当し,現場で奮闘している。「架替まで続く作業のなかで,1歩目となる横取りを予定通りできたことで後工程の弾みとなった」(山元課長代理)。

写真:山元茂弘工事課長代理(現場撮影)

山元茂弘工事課長代理
(現場撮影)

埼京上り線まで到達した縦横台車は,埼京上り線を宮益架道橋へ向けて進める「縦取り」の準備に入る。今回使用した台車が縦横台車と呼ばれるのは,1台で横取りと縦取りのいずれにも対応できる構造となっているためだ。縦横台車に装着したバランスジャッキを伸ばし,事前に設置した縦取り軌条に台車を受け替えた。

写真

①終電後,線路を跨いで横取りされる新設桁 ②横取り用の軌条設置の様子 ③1台で縦横の移動が可能な「縦横台車」
④縦取りの様子(撮影協力: JR東日本)

改ページ

午前4時過ぎ,縦取りが開始された。縦取りを埼京上り線にしたのには理由がある。山手内回り線に隣接する埼京下り線を使った場合,縦取りする際に山手内回り線と近接し,作業の安全性が懸念されたためだ。「最終的に新設桁を設置するためには埼京下り線からアプローチする計画となっています。埼京上り線を縦取りすることで,下り線へ再度横取りをしなくてはなりませんが,安全には代えられません」(加納課長)。189mの縦取りは順調に進み,そこから埼京下り線へ2回目の横取り,桁架設を行う所定位置までの46mを2回目の縦取りを行った。「2回目の縦取りは山手内回り線運行中の作業となる。線路防護柵を設置し,さらに事前に新設桁と同じフレームの模型を製作して支柱などに接触しないか確認した。安全が確保されているとわかっていても,実際に真横を電車が走るときは息が詰まりそうでした」と山元課長代理は話す。

写真:埼京下り線へ横取りを行い縦取りへ向かう

埼京下り線へ横取りを行い縦取りへ向かう

縦取り完了以降の新設桁架設までの作業は,初日の既設桁撤去と同様に旧大山街道を全面通行止めにして行われる。26日午後10時,ここまで使用した縦横台車から新たに「横取り回転台車」へ受け替えて,埼京下り線から上り線へと横取りする。その後,新埼京上り線の線形に合わせて台車を回転させ,新設桁が所定の位置に配置されたことを確認し,降下ジャッキを用いて桁を降下という手順となる。「回転は技術的に難しい作業だ。桁の設置は非常に高い精度が求められ,数ミリずれると調整作業が発生する。この2日間の集大成としてなんとか成功させたかった」(山元課長代理)。現場に緊張が走るなか,新設桁が降下。一度の施工で見事成功することができた。

その後,他社が担当する軌道工事へ現場を引き渡し,当社JVの2日間にわたる作業が終わりを告げた。

改ページ

写真

①所定位置まで縦取りを進める新設桁(現場撮影) ②台車を受け替えて上り線まで横取りを行う(撮影協力: JR東日本)
③桁の回転,降下にとりかかる ④新設桁の回転前後(現場撮影) ⑤降下が完了した新設桁

幸野所長は「まさに全社を挙げての対応で総力戦だった。多くの関係者の力が結集して,緊迫の45時間を無事終えることができた」と感謝とともに振り返った。「次の目標は埼京下り線の切換と2020年に予定している埼京線ホームの並列化になる。今回の切換工事を教訓に,現場一丸で安全に工事を進めていきたい」とその目は既に未来を見据えている。

写真:切換完了時のメンバー集合写真(現場撮影,撮影協力: JR東日本)

切換完了時のメンバー集合写真(現場撮影,撮影協力: JR東日本)

ホーム > KAJIMAダイジェスト > August 2018:特集-2「緊迫の45時間」 > 緊迫の45時間

ページのトップへ戻る

ページの先頭へ