UDシティは高齢者や外国人,身体障がい者などにも配慮した都市であるが,人は誰でも老い,病気になる。日本人が海外に出れば,言葉に不自由する人は少なくない。けがをして松葉杖を使うと,いつもの階段の上り下りに恐怖感を覚える。障がいは特別な状態でなく,すべての人の日常とつながっているものなのだ。ここに,誰もが快適に利用できる新しい技術や環境を生み出していく可能性がある。
たとえば,いまや当たり前のものとなった電子メールの技術は,聴覚障がい者のニーズから生まれたといわれている。電動アシスト自転車は若い女性などに人気だが,もとは高齢者の安全な乗り方の研究から開発された製品だ。また,この製品の成功の要因には蓄電池の性能向上もあった。ユニバーサルデザインと先端技術の組合せが新たな定番製品をつくり出した好例である。このようにして生まれた画期的な製品は多く,10ページで紹介した眼科病院における音サインは,やはり近年のスピーカー技術の発展の賜物といえる。超音波を利用し,特定のエリアだけに音を伝えることが可能になって実現化された。
このようにユーザーを具体的に想定し,その利用実態を深く理解することで,従来と異なる発想のものづくりが生まれていく。「ユーザー・オリエンテッド(利用者指向性)」のデザインは,いま多様な分野で注目され,新しいビジネスに結びつけようとする動きが広まっている。
従来の製品やサービスの開発・設計は,生産年齢の健康な人を暗黙の裡に対象としてきた。しかし,65歳以上の高齢者が人口の1/4以上を占める超高齢社会の現代では,これまで少数派とされてきた人々のニーズに耳を傾けることこそ,ビジネスの革新へつながっていくだろう。
羽田空港国際旅客ターミナルビルは誰もが利用しやすい空港として世界に評価されている。その計画・設計は障がい者などの多様なユーザーが参加し,ユーザー・オリエンテッド・デザインの思想で進められた。徹底したバリアフリー化の実現は,世界初の無段差搭乗橋の導入など,多くの先端技術が支えている。
ユーザー・オリエンテッド・デザインによる製品やサービス,都市インフラは,私たちの身のまわりで着実に増えつつある。これらは,海外輸出の商材であるだけでなく,日本発のUDシティの姿を,世界に向けてすでに発信しはじめているのだ。
そうしたものづくりの手法までを含めたフルパッケージでの都市づくりの輸出にも,新しいビジネスチャンスが見出せよう。こうした舞台における先端技術と空間の融合にこそ,総合建設業としての当社の役割が期待されるのである。