高齢者や訪日者が増加する社会においては,地震や火災などの災害時の避難も大きな課題となる。誰もが素早く安全に避難できなければならない。だが,安全のための防火設備が,時に避難の妨げとなってしまう問題があった。たとえば一般的な防火扉やシャッターは決まった方向にしか開かず,進行方向に開けない場合や,障害物でふさがれてしまうことがある。また扉の幅や重量,自閉機構のために,担架や車いす利用時,腕力の弱い人には通過が困難な場合もある。
そういった背景のなか開発された,通り抜け可能な“水の防火シャッター”「ウォータースクリーン」は,2005年に特定防火設備として国土交通大臣の一般認定を取得した。ウォータースクリーンはむこう側の状況が見え,避難者や消防隊の負担を和らげるメリットももつ。さらに,鋼製シャッターでは困難だった段差のある床面や,曲線状の空間でも防火区画が可能となり,デザインの自由度を向上させた。
非常時の避難計画も健常者だけを想定していては不十分だ。当社が開発した「人・熱・煙連成避難シミュレーター(PSTARS)」は,障がい者や高齢者,車いす利用者などの運動能力の違いに応じた避難行動を予測できる。さらに,非常時に他人の動きに追従しやすいかなどの判断能力・志向などの個人差も考慮した予測を実現。また,災害の程度によっても避難者の行動は変化するため,避難経路上の熱や煙の有無による行動の差異や,煙の濃度による避難スピードの違い,放射熱や煙が限界値を超えるような出口は使わないなど,避難者の複雑な判断からなる避難行動を再現しながら検討を行える。このようなより現実的な検討により,従来以上に安全性の高い建築計画が可能になっている。
またこの技術は群集行動をシミュレーションできるため,災害時の避難に限らず,スタジアムや劇場などの観客の退場行動や混雑の予測,その対策検討などにも生かされている。