超高齢社会の到来によって,総人口に占める生産人口の割合が減少し,加齢により疾患の比率は増大する。外国人労働力を積極的に活用し,訪日者や高齢者のアクセシビリティを向上させるためにも,施設のサイン計画の重要性が高まっている。これまでのサインは視覚情報が中心だったが,五感に訴えかけられれば,より多くの人に適確な情報を伝えられる。
高度な眼科医療で知られる「西葛西・井上眼科病院」では,視覚が不自由な患者が多いため,コントラストに配慮した色彩・サイン計画はもちろん,音サインを積極的に取り入れている。たとえば,トイレ入口に近づくと男女それぞれのコーラス風電子音が聞こえ,患者は行き先を判断できる。壁面のサインの一部は,厚みのある立体的な浮き出し文字で表示。指先で判別できる触覚サインである。
床面は硬さの違う素材を組み合わせ,歩行時の感覚と音で進行方向を確認できる。建築材料の凹凸感や硬さ・柔らかさ,吸音率の違いなどによる音の響きなどの特性を利用すれば,屋外であっても歩行空間,滞留空間,危険性のある場所などの違いを,効果的に伝えていけるのである。
文字に頼らないサインとしてなじみ深いのは,車いすや非常口のマークだろう。記号化された絵で案内するピクトグラムは,誰でも直感的にわかりやすい。日本では1964年の東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに訪日外国人のために開発され,それ以降普及していった。
このピクトグラムを工場のデザインで全面的に展開したのが,「産経新聞印刷 江東センター」だ。外壁面を彩るのは,新聞印刷工程の流れを示した巨大なピクトグラム。絵柄に沿って窓が開けられ,そこから工場内を覗き込むと外壁に描かれた生産工程の一部が見える。建物自身が工場見学の案内役となり,視覚的なサインに新たな価値を生み出している。
五感へ伝えるサインと,ICT技術によるユーザーに特化した情報の組合せが,多くの人々に個々が必要とする情報を届ける。