オリンピック・パラリンピック後のレガシーにも注目が集まる2020年大会。前回1964年の東京大会における最大のレガシーは,都市インフラにほかならない。東海道新幹線をはじめ,首都高速道路や羽田空港の国際化,東京モノレールなど,高度経済成長の礎と首都の骨格がここで築かれた。
もうひとつのレガシーが,「バリアフリー元年」ともいえる転換であった。第2回目となったパラリンピックへの対応は,オリンピック閉会後に競技場や選手村の段差解消,手すり設置など,急ピッチで改修。選手の移動を自衛官らが支援するなど,障がいをもつ人々への認識を大きく変え,日本でバリアフリーが広く考えられるようになったのである。
こうしたレガシーという概念を本格的に提唱したのが2012年のロンドン大会だった。メイン会場の建設地に,土壌汚染と住民の貧困が最も深刻だったエリアを選び,大規模に再開発。地域を再生させ,国の経済を大きく活性化させた。
昨年の1億総活躍国民会議で話題となった「ソーシャル・インクルージョン」も,ロンドン大会のスローガンだった。社会的な包容を意味し,すべての人々を孤立や排除から擁護しながら,社会の一員として健康的で文化的な生活を送れるように,支え合おうとする理念だ。
実際に大会の施設整備では,誰もが安全に容易に,尊厳を失わずに利用できるよう計画された。こうして都市インフラの魅力が高まった結果,大会翌年には訪問外国人観光客数がパリを抜いて世界一となり,ロンドンの活況は今日までつづいている。
日本がいま,国際的に注目されているのが,世界初の超高齢社会としての姿である。下図のグラフが示すように,どの国も同様の現象が遠からず到来する。その課題への先進国となる日本の対応に,世界の目が向けられているのである。
ユニバーサルデザイン都市「UDシティ」がめざすのは,超高齢社会への新たな都市像にほかならない。それは,誰もが最先端技術によるシステムのメリットを享受し,生き生きと暮らせる社会である。元気な高齢者が増えるなかで,身体的な衰えを補うアシストスーツやパーソナルモビリティなどが普及すれば,年長者の知見を十分に生かせる社会が飛躍的に広がっていく。
本来のユニバーサルデザインは,特別な設計や調整がなくても,最大限の人々が使用できる製品,環境,計画およびサービスの設計を指す(「障害者の権利に関する条約」より)。これを基本機能とする都市や建築に,先端技術が融合,実装される社会こそがUDシティのめざす姿となる。
ICTやロボット,自動運転,新エネルギーなど,先端技術の発展は,多くの社会的な課題を解決しうる。それらを誰もが有効に利用できるようにするには,円滑に運用するためのインフラが求められる。たとえば歩行者と電動車いす,パーソナルモビリティが安全で効率的に共存するには,適切な道空間の整備が不可欠だ。
こうした都市ビジョンを世界に発信するには,2020年東京オリンピック・パラリンピックは,またとない機会となる。日本がほこる技術を活用した製品・サービス・インフラをパッケージして輸出するチャンスも拡大する。国際競争力をもった超高齢社会への長期的な都市像こそが,未来への大いなるレガシーとなる。
2020年はUDシティの完成目標ではなく,人々の意識を高めるきっかけのひとつである。すでに具現化がはじまっているUDシティへの技術を紹介していく。