東天紅は1961年に上野,不忍池畔に1号店を構えて以来,地域とともに歩んできた企業である。隣接地にあった旧上野本店は,中国料理店でありながら婚礼施設,宴会場を併設し,複合飲食施設として長く愛されてきた。建物こそ経年を感じさせるものの,サービスは一流ホテルと変わらぬおもてなし精神にあふれていた。
新本店の計画にあたっては,そうして長きに亘って育まれてきた地域性とおもてなしの心を建物自体に宿らせることができないかと考えた。
不忍池にかかる日影規制の中,必要な諸室面積を確保していく過程で,下層階で街並みとの調和をはかり,上層階で新たな都市の顔としてシンボリックな外観を形成した。上階になるにつれてセットバックする屋上の緑化は,上野恩賜公園と旧岩崎邸庭園の緑を立体的につなげる。
エントランスホール,待合ロビーを2階とすることで,幹線道路の喧騒から離れた,非日常のおもてなし空間が生まれた。建物のボリュームが切り替わる7階にはチャペルを配し,外界から切り離された別世界感を演出している。東天紅オリジナルの馬蹄形の平面形状により求心性を持ったチャペルのヴァージンロードの先には東京スカイツリーが聳えている。最上階のレストランを含むすべての階からは,圧倒的な都市の自然を間近に感じることができる。
建物を見上げると,不思議とこの場所にずっと建っていたかのような印象を受ける。一歩中に入ると非日常の別世界が広がる。かたちとして結実したおもてなしを,是非現地で体感してほしい。
(丹羽雄一・淺野剛弘)
不忍池側夕景。店内の様子が街に彩りを添える
(photo: 川澄・小林研二写真事務所 浜田昌樹)
池之端の風景に溶け込む上野本店のファサード
東天紅 上野本店
- 場所:
- 東京都台東区
- 発注者:
- 東天紅
- 設計:
- 当社建築設計本部
- 用途:
- 集会場,飲食店舗
- 規模:
- S造一部SRC造(制震構造) B1,9F,PH1F
延べ13,890m2
2015年1月竣工(東京建築支店施工)
コンセプトイメージ。立体的に繋がる緑
丹羽 雄一
(にわ・ゆういち)
建築設計本部
グループリーダー
主な作品:
- SMARK伊勢崎
- クロムハーツ東京
- ららぽーと横浜
- 幕張複合商業施設
淺野 剛弘
(あさの・たかひろ)
中部支店 建築設計部
設計主査
主な作品:
- 日通商事本社ビル