継続的に進化するワークプレイス
ワークプレイスは,実際のハードとなる空間,什器や設備などの設え,そしてそれらを運用・管理するマネジメントから成り立っている。従来,建築設計者の役割が空間デザインに留まっていたこともあるが,クライアントやワーカーの要望を把握し,実態を分析していくことで,その3つの要素をトータルにデザインしていくことも可能となってきた。
その背景には,設計者個人のセンスや勘だけでなく,客観的な指標や,裏付けのあるデザインを可能とするデータベースやナレッジ(知)の蓄積がある。当社では,計画時から竣工後まで継続的にワークプレイスを最適な環境とする検証・評価の仕組みを整備してきた。
行動可視化から空間価値をつくる
ワークプレイス環境を継続的に進化させる計画手法を上図に示す。建物空間のワーカーの行動パターンをモデル化するモデリング,プラン上でモデルを動かすシミュレーション,それらの結果をみる検証・評価,そして実際の設計・施工というPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを展開し,ワークプレイスのあり方を可視化。組織の変化に柔軟に対応できる体制を築き上げている。
膨大なデータ蓄積と「見える化」
たとえば,オムロンヘルスケア研究開発および新本社のエントランスホールでは竣工・運用開始後にモニタリングを行った。そこではレーザー光によるセンサーを用いて,1週間にわたりユーザーの行動や滞在状況を計測。受付・待合いスペースでユーザーの動きや滞留しやすい場所を把握し,実際の使われ方による計画・設計の検証を行った。
膨大なデータから,解析を行って空間の使われ方をわかりやすく「見える化」することで,計画にあたっての行動モデルの設定や予測,シミュレーションへとつなげていくことができる。また,クライアントと課題を共有するコミュニケーションツールとして機能する。
当社では,オフィスに限らず,立地分析や気候評価などのマクロな都市スケールから,ミクロな人の動きまで幅ひろい尺度の計測や分析を行い,さまざまなデータを蓄積。ナレッジを積み上げ,ポテンシャルを最大限発揮できる「場」の創造を目指している。
シミュレーションによる検証によって,空間計画が設え・マネジメントに対して変革をくわえた例が,2009年に竣工した東芝電力システム磯子エンジニアリングセンターのオフィスである。オフィスレイアウトの設計にあたり,フロア中央に打合せスペースや吹抜けの階段を設け,社員の交流を促すような計画とした。くわえて,その中央付近に管理職の座席を配置する計画を提案。管理職の座席というと,従来は窓側に配置することが多いが,中央にすることで,社員との交流の機会をより増やせるともくろんだのである。
そのため,中央配置と窓側配置のふたつの計画において利用者どうしの会話頻度をシミュレーションした。その結果,前者の計画のほうが交流件数が70%多くなるというデータを得られ,そのデータをもとに斬新な提案が採用された。
原子力発電所の設計などに携わる同社では,このレイアウトによって部署間・部署内の緊密な意思疎通を図れていると評価されている。