ワーカーをつなぐ空間の仕掛け
現代のワークプレイスに不可欠なキーワードであるコミュニケーション。社内外においてさまざまな人と携わるなかで,オフィス環境の向上や能力発揮を左右する重要な要素である。それをハードからどのように設えていくかが問われている。
歯科材料および関連機械・器具の製造販売のメーカー大手GCの新たな研究開発拠点となるR&Dセンター。建替えにあたり,「Communication Loop(対話の環)」をコンセプトにプロジェクトが計画された。高品質な製品開発を日々めざすために発想力・創造力を強化し,各人の持っている情報,ノウハウ,ワークスタイルを皆で共有できる場を設けるねらいだ。
エントランスを抜けると広がる大きな3層のアトリウム。そこを中心に研究オフィスなどの諸室がガラス越しに巡らされており,回遊するワーカーの姿がよく見える。オフィスの自席からは人の動きが自然と視界に入ってくるなど,建物全体のアクティビティが感じられ,ときおりワーカーどうしの視線が交わる。また2階のアトリウム周りには社外との打合せなどの場を設けており,その様子もまたオフィスに伝わってくる。アトリウムを中心として動線が巡らされ,まさにコミュニケーションの環がかたちづくられている。
建物構成だけでなく,細部にも配慮が見られる。社員が使う内部階段も,オフィスから扉なしでつながり,外光を採り入れ,明るく開放的だ。上下階の移動をスムーズにするだけでなく,社員どうしが偶発的に交錯し,ちょっとした情報,アイデア交換などができる場となっている。
社屋全体が,ワーカーの一体感を高め,人の動きを活性化させ,コミュニケーションを生み出す仕掛けに満ちている。
フィードバックを活かす時間的な仕掛け
またこの建物は,全3期,8年の歳月にわたり,既存7棟の研究所を建て替えて統合させた。その間,約350人のワーカーの研究開発に支障がないよう,敷地外への移転などを一切行わない「居ながら」のスクラップアンドビルドを行っている。しかも,3期のフェーズそれぞれで「Communication Loop」のコンセプトが途切れないよう,プロジェクトの連続性を重視した。
そのため,計画時から既存棟の徹底的な事前調査を行ったうえで,期間中に起こりうる機能変化などを想定し,それに柔軟に対応するための対策を念入りに講じて難しいプロジェクトを実現させた。
段階的に進む長期プロジェクトの特性を活かし,各フェーズの竣工後にはアンケートを実施。問題点や課題を次の工期に改善させるフィードバックを行った。開放的な打合せエリアを次工期でより増設。2期では建物上部の中心に設けられていたライブラリーだったが,3期に社長机の置かれる「マネジメントコックピット」につくり替えた。オフィス全体が見渡せるところに必要という2期後のフィードバックの結果だった。
そうして,創造的な環境づくりを途絶えさせることなく完成まで導き,「Communication Loop」のコンセプトが実際の空間から,計画やマネジメント面にも強く浸透し,反映されていった。
プロジェクト全体が,コミュニケーションを生み出すもうひとつの時間的な仕掛けとなっていたともいえるだろう。
GC R&Dセンター
- 場所:
- 東京都板橋区
- 発注者:
- ジーシー
- 設計:
- 当社建築設計本部,丸ノ内建築事務所
- 用途:
- 研究施設
- 規模:
- RC造一部S造 4F 延べ9,770m2
2007年1月(1期),2008年10月(2期),
2012年9月(3期)竣工(東京建築支店施工)
第26回日経ニューオフィス賞受賞