「ワーカー参加型」と「管理型」
ワークプレイスにおける環境配慮は,循環型社会において欠かせないキーワードである。オフィス(業務部門)が排出するCO2は,排出量全体の約1/5を占め,産業・運輸部門などに比べ増加傾向にある。都心部など大人数が働く場所での環境負荷を抑えることは,効率が高いだけではなく,ワーカー自身の意識を高める意味でも効果が大きいとされている。また,オフィスのコスト削減や省スペース化にも効果をもたらす。
「集い」と「個」で取り上げたオムロンヘルスケア研究開発および新本社では,アトリウムを利用した自然換気を行っている。アトリウム頂部の開口部には,内外の圧力差にあわせて自然に開口面積が変化するサッシを採用し,外気などの条件が自然換気に適している場合にのみ開放される仕組みとなっている。
一方で,各階の開口部は網戸を設けた横引き窓となっており,ワーカー自身が開閉でき,外の風を採り入れることができる。各階に置かれた情報モニター「窓開けナビシステム」に最適な開閉操作の情報が表示される仕組みとなっていて,ワーカーの省エネ意識を高める効果ももたらす。
また,スマート&ウェルネスで取り上げたハウス食品グループ大阪本社ビルでは東に生駒山を見渡す雄大な眺望を活かすため,軒の深い庇や縦ルーバーを採用し,眺めを遮らずに日射を遮蔽する工夫が施されている。庇やルーバーで遮れないある時期の朝の時間帯だけは,補助的に設置されたブラインドを閉める。ただ,ブラインドはしばしば開けっ放し,閉めっ放しとなりがちのため,開閉は自動管理されている。それにより昼光を最大限に利用し,照明負荷の軽減に大きく貢献している(Column写真参照)。
ワークプレイスでの環境配慮と日本古来の建築文化の知恵というと,正反対の視座のように聞こえるが,上記で取り上げた自然換気の考え方や,ルーバーやブラインドは,古来強い日射しを抑え,風通しを必要とした日本建築の知恵や設え,具体的には庇,簾(すだれ)や格子を活かした考え方といえる。
ハウス食品グループ大阪本社ビルの大屋根は,雨水を排水する機能とともに,冬の低い日射しを採り入れ,昼光利用を行う軒の深い庇の役割を果たしており,室内の照明負荷を低減させることも可能だ。ペリメーターゾーンと呼ばれるこうした窓際空間は外部と内部の緩衝的空間となって環境的に機能している。それはかつて日本家屋がもっていた「縁側」とある意味では共通する役割を担う。
日本の風土に合わせ,現代建築の環境負荷をいかに減らすか。その創意工夫の源にある古来の知恵が,最先端のデザインや技術に昇華しているとみることもできよう。